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26 人探し開始(偽)

 オフの日に教会に向かうということは、フェリノーツさんに会うということだ。

 探索の日を増やしてなるべく出くわさないようにした。

 しかしこの間エレオノーラに相談をしに行ったときに「いつ手伝ってくれますか?」と聞かれたのでそろそろ誤魔化しにも限界が来ている。


 手伝うのは気が引けるが、その理由を相手は知らないから純粋に頼りにしてくれているのだろう。

 だからなおさら気まずい思いをすることになるのだ。


 普段着のまま教会まで行くと、扉の前で男たちに囲まれているフェリノーツさんを見かけてしまう。

 これ……俺が手伝わなくてもいいんじゃないかな。


 と、男たちの中に混じっている顔にひとつ見覚えがあるのでぼやいてしまう。


「なにやってんだよレイストフ……」


 レイストフだ。

 レイストフが男衆の中に混じってフェリノーツさんに話しかけている。


 困ったように対応している彼女がこちらを見ると思い切り手を振ってくる。

 それを見て男衆の視線と怨念染みたなにかがこちらに降り注ぐ。


 嫌だなー。

 行きたくないなー。

 でも行かなきゃいけないんだろうなー。


 などと脳内で現実逃避している間にも足は進んでいく。


「どうも、フェリノーツさん。それではお邪魔しましたー」

「ええっ、まだ帰らないでくださいよ! 皆さん、お誘いは嬉しいのですが、待ち人が来たので今日はここまで!」


 ええー、と残念がる声が上がる。

 こちらを睨みつけては去っていく男衆。

 なんで待ち合わせをしていたか、それを勘ぐる人も多そうだ。


 男たちがほとんど去るが、一人だけ残った男がこちらにやってくる。

 レイストフだ。


「イリアスー……! お前なぁ……!」

「落ち着け。人探しの依頼を受けただけだって」

「なるほど。……それでも許さん!」


 レイストフがチョップを放ち、それを俺は避ける。


「なぜお前にばかり美女が寄ってくるんだ……!」

「だーかーらー、そういうのじゃないって。ならお前も手伝うか?」

「やるぅ!」


 即決即断だった。

 脊髄反射で生きているんじゃないだろうか、こいつ。


 フェリノーツさんに聞こえないように、レイストフに耳打ちをする。


「ただ、アリアリアには会わせないようにするんだ。絶対だぞ」

「了解了解。要するに何か事情があるってことか」

「そういうこと。見つかったらかなり不味い」


 話を終えると、俺はフェリノーツさんに小さく頭を下げる。


「フェリノーツさん、こいつも連れて行ってください。俺の仲間なんです」

「……分かりました。依頼料も二人分払いますので」


 金に糸目をつけないあたり、フェリノーツさんも本気だということか。

 レイストフがフェリノーツさんの探し人だと最初は思っていたが、どうやら違う。


 彼女が探しているのは――アリアリアだ。



「こいつはレイストフ。動く野菜くらいに思っていてください」

「可愛らしいお嬢さん、探し物のついでに一緒にお昼でもどうですか?」


 いまいち決まっていないキメ顔でレイストフは言った。

 それに対してフェリノーツさんは乗ってくる。


「ええ、いいですね。美味しいお店をご存じならぜひ!」


 なんとなくだが、フェリノーツさんは誰に対してもそういう反応をするんだろうなあ。

 優しいというか博愛というか。


「任せてください。きっと楽しい食事になりますよ」


 フェリノーツさんに見えないようにレイストフの鳩尾を殴る。

 急所は外れた。

 俺は静かに告げる。


「あまり深く入れ込むなよ」

「ロマンス……」

「ロマンスはまた後で!」

「へい……」


 レイストフをしかりつけると、彼はしょぼくれた顔をする。

 それに対してフェリノーツさんも困ったように笑う。

 そんな顔をされるとこちらの胸がチクチクと刺されてしまう。


「申し訳ありませんが、捜索が終わったら法国に帰って騎士の仕事に復帰するので、ロマンスの対象にはならないかと」

「じゃあフェリノーツちゃんについて行くよ!」

「パーティどうするんだよ……」

「恋の前には無意味!」


 ビシッとこちらを指さすレイストフ。

 ええい、人に指を向けるんじゃない。

 あまりの悪乗りに、冗談とは思いつつも頭を抱えてしまう。


「め、めちゃくちゃだ……!」


 あまりにも目の前の美女に目がくらんだ発言に頭がくらくらしてくる。

 さすがに冗談だよな……?


「規律が守れる方でしたらぜひ来ていただければ嬉しいです」


 フェリノーツさんは冗談かどうか分からない言葉を言うので判断に困る。

 ただまあ――


「じゃあレイストフはだめだな」

「お前出会ってひと月もしない相手の何が分かるんだよォ!」

「こうやってパーティの根幹を自然と揺るがす発言するんだから騎士団入っても同じだろ……」


 目先のロマンスとやらに囚われてパーティやめるとも取れる発言をするのだから、規律なんてあっても苦しいだけだろう。


「いや、あはは……」


 困ったように笑うフェリノーツ。

 言葉には出さないものの、態度には出ている。

 レイストフの肩にぽんと手を置く。


「ほら、駄目そうだ」

「ちくしょう……!」

「いや、でも、個人活動が重要な団もありますし……!」


 必死になって身振り手振りでフォローをするフェリノーツさん。

 やはり優しい。優しすぎるのではないだろうか。


「フェリノーツさん、無理にフォローいれないでください。こいつはすぐ調子に乗るんで」

「イリアス、オレに対する扱いひどくない?」

「じゃあ遠慮しようか……?」

「やめろ、それはもっと虚しくなる。やめてくれ」


 冗談めいた提案をすると、レイストフは真顔で首を横に振る。

 まあ実際にやることは絶対にないのだけれども。


 俺たちの様子を見てか、フェリノーツさんが口元を隠して笑みを浮かべる。


「お二人は仲がよろしいんですね。会って一ヶ月も経ってないなんてにわかに信じられないです」


 随分と楽しそうに笑うので、間断なく答える。


「いや、仲良くないですよ」

「仲良くなんてないよ」


 声が被るとなおのことフェリノーツさんは楽しそうに笑う。

 仲良し認定されるのはあまり好ましくないけれど、フェリノーツさんを笑わせることができたならよかった。

 騙している罪悪感を騙せるから。


「それで、どういう方を探しているんですか?」


 フェリノーツさんに訊ねると、さっきまでの雰囲気はどこへやら。

 打って変わって真面目な表情へと変わる。


「身長は低く、金髪を二つに結った髪型。赤い瞳の少女。名前はアリアリアと言います」


 ――ビンゴだ。

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