22 幕間・第六層
とりあえずキマイラという言葉がある。
迷宮第十層はひとつの区切りとして扱われる。
現在判明している中では十の倍数の階層ではヌシが出てくるというのだ。
そのヌシで一番最初に出会うのが第十層のヌシ、キマイラだ。
獅子の頭に山羊の胴体、そして蛇の尾を持つと言われている。
なんと獅子の頭からは炎や氷を吐いたりする。なおかつ蛇の尾は強力な毒を持っているのだとか。
そして、そのキマイラを倒せたらレグナンスの冒険者としては一人前と言われている。
だから、『とりあえずキマイラ』。
キマイラを倒せるようになったら晴れてレグナンスの冒険者。
迷宮探索も第六層。キマイラまであと半分を切った。
ただ、実力が伴っているかというとまた違うような気がする。
というのも、エレオノーラの実力が突出しすぎていて指標にならないからだ。
迷宮内。通路。
となりを歩くアリアリアが短剣を抜く。
「イリアス、敵。数は……ちょっと数えきれない。小さな敵がいっぱい。羽音がするから鳥だとは思うけど」
「アリアリアとエレオノーラは後ろに下がって。俺がまず魔術で焼き払って、全員で残りを倒す」
「……多才なのね」
棘を含んだアリアリアの言葉に、何も言えなくなる。
なんと返せばいいのかが分かる人間なんてこの世にいないだろう。
いっそのこと〈ゼロ〉のことを言うべきか。
まだ早いか? けど確実に怪しまれている。
かといって手を抜くのはまずい。
だから俺は、
「そのうち話す。だから今は何も言わないでくれ」
そう頼み込むと、アリアリアは渋々ながら納得してくれる。
きいきいと鳴き声が大きくなってくる。精神を整え、詠唱の準備をする。
「――始まりの炎。熾り、爆ぜ、食らいつくせ。赤解の八・炎渦!」
ごう、と先の方から炎の渦が立ち上がり、敵を焼き尽くしていく。
煙は上へ上へと昇っていく。この分なら煙が溜まったことによる意識喪失などはないだろう。
迷宮には色んな仕掛けがある。火災の際に空気が滞留しないように通気口を作るのもその一つだ。
だから魔術で炎を使っても問題ない。
「討ち漏らしは任せろっ!」
鈍色の剣閃が煌めく。一振り、また一振りで魔物が切り裂かれていく。
どうやらコウモリ型のようだ。
エレオノーラを残して、三人で掃討に移る。
「大物発見!」
ひと際大きな個体を発見していきりたつレイストフ。
彼が長剣を揺らめかせ、斬撃を放つものの、巨大コウモリは通気口へと飛び去っていく。
そのまま直通で第五層に行けるわけではないのだが、攻撃を届かなくさせる方法としてはいいものだ。
埒が明かないと感じたため、俺が出ていく。
「――現影」
現影――。
魔槍の一つだ。攻撃箇所を誤認させる技だが、今回は距離を伸ばすために使ってみた。
すると、コウモリの魔物の頭に直撃したようで、加速しながら落ちてくる。
それがそのままこちらに当たらないように避けると、コウモリ型の魔物は生々しい音を立てて着地する。
戦いが終わったことを確認すると、エレオノーラは全員に声をかける。
「お疲れ様」
「ありがとう。魔結晶もかなり稼げたし割りがいいよ、これ」
「連発はできないだろう? そう何度もできることじゃない」
エレオノーラの指摘にぐう、と唸る。
簡単な魔術はあと二回しか使えない。
これはそういうものだと直観している。
同時に神聖術の発動可能回数も少なくなっている。
エレオノーラはこちらに向けて真剣なまなざしで言う。
「魔術や神聖術に割ける魔力はきちんと管理して。そうじゃないといざという時に何もできなくなるよ」
「わ、分かったよ……。俺が軽率だった」
ぐうの音も出ない指摘に、俺は謝り、同意することしかできない。
アリアリアもエレオノーラの言葉に同調し、猫のように目を細める。
「分かればいいのよ。ね、エレオノーラ」
「そうそう。君は君自身の価値を見誤ってる節がある」
「お前さー、もうちょっと自信もっていいんだぜ? なんでそんな自信がないか分からないけど、オレたちとは上手くやれてるじゃんか」
口々にこちらを擁護する言葉がかけられていく。
別に大したことはしていないというのに、ここまで声をかけられるなんて。
ここまで持ち上げられると自分がこの後どん底に落とされるかもしれないと想起してしまう。
大丈夫。どん底ならもう慣れた。期待されて、評価を落として。そんなやりとりはもう慣れた。
「……ありがとう。頼りないかもしれないけど、ちゃんとやっていくよ」
上手く笑顔は作れているだろうか。
誰にもバレない嘘は吐けているだろうか。
「さあ、行こう。早くキマイラまで倒せるくらいになろう」




