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21 エレオノーラの忠告

 教会に着き、最上階にある書庫へと向かう。


『ボクは書庫にいるから、迷わないように気を付けてね』


 そうエレオノーラから言付けを受けて、俺はここまでやってきた。

 なんでも話があるとか。

 木の香りがただよう階段を上り、書庫の前へとたどり着く。


「なんでこんな上の階を書庫にするんだか……」


 ぽつりと愚痴を漏らし、誰も聞いていないかどうか確認する。

 大丈夫だ、そもそも周りに人がいない。


 樫の木目が見える扉をノックする。


「エレオノーラ? いるかい?」

「ああ、入ってくれ」


 扉を開け、歩を進める。

 すると奥の机で本に栞を挟むエレオノーラの姿が。

 白銀の髪をポニーテールにし、黒く、シンプルだが洗練されたドレスを着ている。


「……似合ってるね、ドレス」

「キミはマメな男だなあ。まあ、褒められて嬉しいよ。ありがとう」


 伝えられた内容は「話がある」とだけ。

 迷宮の探索後、皆で生の実感を噛みしめているときに言われたのだ。


 みんなが居るところでは話しにくいものなのだろうが、中身が分からないとどう行動していいかが分からない。

 結局、まあ、エレオノーラの所に行ったわけだけど……。


 わずかに香る花の匂いが鼻腔をくすぐる。


「ちなみに、どうしてドレスを着ているんだい」


 訊ねてみるとエレオノーラは、


「今日は懇親会があるんだ。レゾンだけに任せるわけにもいかないし、ボクもやむを得ず行かないといけないのさ」


 と、心底面倒くさそうにため息を吐く。


「その……お偉いさん。教会や王宮、ギルドの人との顔合わせか」

「そうそう。偉くなったら冒険者も呼ばれるようになるよ。黒等級(最上位)の人たちはそれだけで声がかかるし」

「礼儀なんて知らないんだけど、他の冒険者は違うのか?」

「だからギルドからマナーを叩きこまれる。まあ何回かしたら慣れるか、あるいは顔を出さなくなるかだ」


 それは大変そうだと呟くと、エレオノーラは小さく顔を崩す。


「まあ、キミたちにはまだまだ遠い話さ。……そういえば、どうしてキミは冒険者をしているんだい?」

「ニーナのことまで知ってるなら大体推察できるんじゃないか?」


 それもそうだね、とエレオノーラは頬杖をつく。

 そして言葉を続ける。


「でもボクが聞きたいのはそういうことじゃないんだ。キミがどういう気持ちで冒険者になろうと思ったのかが、キミの言葉で聞きたいんだ」


 金色の両眼がこちらを捉えて離さない。

 目をそらそうとするが、彼女の瞳が「逃げるのかい?」と挑発をしてくる。


 しばらく黙り込んで、俺は自分の黒髪をガシガシと手で掻く。


「ニーナが兄貴二人のどっちかにあてがわれるって話を聞いて、それで彼女と一緒に逃げたんだ。

 正直に言ってしまえば、ニーナに惚れてたからだよ」

「へーえ、キミ、案外やるじゃないか」


 エレオノーラは頬杖を解いて、椅子の背もたれに身体を預ける。

 割と本気で感心しているようだけれど、結果はお察しだ。


「でも結果はニーナと別れて、道が交わらないようになっただけだ」

「それはどうかな? レグナンスの大迷宮と言えば冒険者の花形、人が自然と集まる場所なんだよ。もしかしたら喧嘩の続きもできるかもしれない」

「だとしても……俺からあいつにかける言葉はない」


 失望させて、今さら力を得たからと言って、何が変わるのだろう。

 最初から力があれば違ったのだろうけど。


「まあそれは置いておこう。今したい話はもっと身近なものだ」


 彼女はしばし難しい表情をしてだんまりとし、


「……どう話したものか」

「何か?」

「家出しているんだ、あの人が探している人は」


 エレオノーラはぽつんと水滴が落ちるように言葉を漏らす。

 水滴は水面に落ちて波紋となり、俺の心にさざ波を立てる。


 家出自体は珍しくない。

 俺だって十五歳になると同時に黙って家を出た。


 分かっていながら、動揺してしまう。


「フェリノーツという騎士を覚えているかい?」

「ああ。法国の……前エレオノーラに人探しを頼んでいた」

「フェリノーツが探している人はボクたちの仲間だ。詳しい事情を言ってしまうことができればいいんだろうけれど」

「エレオノーラにも立場があるからかい?」

「それもある。ただ、フェリノーツの探し人は特別なんだ。その人が隠しているようだからここまでしか言えないけど」


 知り合いに特別な事情を抱える人がいる……?

 質問をしてもいいだろうが、答えてはくれないだろう。


「フェリノーツが本気になれば力づくでも家に連れて帰らせることができるからね」

「それは……誘拐に近いのでは?」

「手段こそ咎められるものだけど……。家の人は安心するだろうさ」


 それは、いいのだろうか。

 本人の自由意思を縛ってまで家に帰らせても。

 難しい顔をしていたのか、エレオノーラは「まあまあ、ここからが肝心なんだ」と続ける。


「とにかく、今の環境が良いのならばなら強くなることだ。そうすれば強制的に送還はされない」

「……分かったよ。とにかくあのフェリノーツって騎士に勝てるようになればいいんだろう? ……やってやるさ」

「そういうわけだ。頼んだよ、ナイト君」


 湿度のある目線をエレオノーラは向け、俺の肩に手を落とす。


「――ちなみに、フェリノーツは第十層の主を一人で倒せるくらいには強いから」


 ……倒せるのか?

 まだ俺たちは第四層を攻略したばかりなのだけれど……。

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