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19 魔槍使いの道

 軟膏や消毒液を塗られかけられ、そして包帯を巻いて治療は終わった。


「今日はエレオノーラ様と一緒じゃないのかい?」

「エレオノーラとは別行動ですよ。えーっと……」


 教会の医務室。ベッドに座る俺。その前の椅子に座っているのは先日フェリノーツさんに食事の誘いを行って玉砕した青年だ。もう一人もいる。


「ウィルだ。で、こっちがディー。エレオノーラ様に敬語を使わないなら俺にもそうして構わないから」

「そっか。……エレオノーラってそんなに偉いのか」

「レゾン様がわざわざ厚遇するくらいだ。司祭長か枢機卿か、どっちだとしてもおかしくはない」


 ディーは医療器具を箱の中に入れると、そのまま話す態勢に入る。


「とても偉い人という認識で合ってる?」

「そうだな。俺ら地方教会の下っ端からすれば雲上人だよ」

「そんなに差があるのか……。やっぱり俺もエレオノーラに敬語使った方がいいかな」

「やめとけやめとけ。距離取られたって考えるだろ」


 真面目な表情でこちらの行動を止めるウィルに思わずたじろぐ。

 まあたしかにエレオノーラから砕けた調子で話そうと言われたので、わざわざ敬語でも使えば距離を取っていると思われるだろう。

 偉い人であるのは確かなのだろうが、俺たちと一緒にいるときはただのエレオノーラと考えた方がいいかもしれない。


「それで、なんでこんな怪我してきたんだ? ロアスさんまで連れてきて」

「国外のマフィアに襲われてさ。ピンチだったところをこの衛兵さんに助けてもらったってわけ」


 アリアリアは虫の居所が悪いらしく、あまり口を開かないので自分で説明することになる。

 さっきから彼女の表情は険しいままである。


 白髪交じりの髭を蓄えた壮年の衛兵さんが口を開く。


「私のことはロアスと呼んでいただければ。この頃不審者が多かったため、巡回をしていただけですよ」

「ありがとうございます。助かりました」


 こちらが頭を下げると、ロアスさんは少し伸ばした後ろ髪を触る。


「この頃良い噂を聞きませんからね。お二方も十分に気を付けてください」


 ロアスさんがそれでは、とその場を辞しそうになったところで俺は言葉を紡ぐ。


「ロアスさん、〈魔槍〉のロアスですよね。どうして衛兵隊に?」

「イリアスっ」


 アリアリアが止めるが、俺は止まらない。

 〈スキル〉の内にあって〈スキル〉の外にある力。それを知ることができれば今後の迷宮探索にもいい影響が出る。

 それに、最高の冒険者と言われてきた彼がなぜ突然冒険を辞めたのかが知りたかった。


 ロアスさんは困ったような顔をすると、ぽつりと漏らす。


「仲間がね、怪物になったんだよ。迷宮への順応で魔物に近くなることはあるが、私にはそれが耐えられなかった。……それだけさ」

「それで衛兵隊に入ることになったと」

「ああ。君はおそらく私の魔槍をどこかで聞いたのだろうが、期待しているほどのものではないよ」


 遠い場所を見つめるロアスさん。

 できれば謝礼を払ってでもその技術を手に入れたいのだが、彼が乗り気でない以上、難しいだろう。


「それでも、教えていただけませんか。これから先、誰も死なせないためにも」

「……ではヒントを。中庭を少し借りますね」



 綺麗に草が刈り取られている中庭に、俺たち三人は立つ。

 ウィルとディーは訓練用の丸太に的をくくりつけると、彼らはそのまま立ち去って行ったため、今はいない。


 ロアスさんは皮手袋に馴染ませた槍を握ったまま、問いかける。


「さて、そもそも〈スキル〉がどういうものかという認識を持っているかです」

「天から与えられる恩寵……という意味ではなく?」


 アリアリアは村の教会で教えられたようなことを言う。

 ロアスさんはゆっくりと頷く。


「ええ。その考えのままであれば、私は魔槍を思いつかなかったはずです」

「一つの技術として考えるということですか?」


 俺が魔槍を放った時、〈スキル〉を神から貰った恩寵ではなく、一つの技術として見たからこそエレオノーラに一泡吹かせたのだ。

 そのことを話すと、ロアスさんは顎に手を当てて考える。


「ええ、貴方の考えは確かに合致しています。魔槍における〈スキル〉の捉え方とは、神聖さも何もない、ただの技術として見ることです」


 ロアスさんはそのまま話を続ける。


「何ができるかは大した問題ではありません。本当に重要なことに気付けば、貴方なりの魔槍が拓けてくるはず」

「自分なりの魔槍……」


 魔槍は手段でしかない。途中にこだわりすぎてはいけないということだろう。

 アリアリアはおずおずと手を上げる。


「何をやりたいかが問題、ということでしょうか」

「そうだね。自分が何をやりたいかが一番の問題です。障壁を突破する攻撃が欲しい、一気に相手を攻撃する手段が欲しい、見切られない攻撃が欲しい。色々あります。

 その目的から逆算して、自分が持っているものの何をかけ合わせればそれができるかを試行する。それが魔槍の基本にして極意です」


 ということは、エレオノーラが仕掛けた試験の時放った魔槍は限りなく本物に近いのか。

 そのことを伝えると、ロアスさんは目を丸くして固まる。


 ヒントを言うまでもなかったな、とロアスさんはこぼす。


「なるほど……。それはもう魔槍だよ。君に出来る唯一の魔槍。〈魔術Ⅲ〉くらいあれば今度別のも教えられるから」


 ロアスさんはそう言って槍を構え――的から逸れるように突きを放つ。


 ――が、的は中心まで斬れていて。

 これがロアスさんの魔槍――。


「これは現影(げんえい)。〈魔術〉と〈槍術〉でできる技だ」


 これは……おそらく。


「風刃の〈魔術〉を槍に乗せて、振るうことで発動させてますか?」

「正解。よく見ている奴ほどこの手のものには引っかかるんだ」


 まるでこちらがよく見ていないといっているようだ。

 言っているような……。


 しかし、これならばそのまま使えそうではある。

 あとは実戦に出向いて試すだけだ。


 そんな俺の心境を見抜いたのか、ロアスさんは言葉を付け加える。


「魔槍を主として戦うには体力と魔力、そして反復練習が必要になってくる。そしてそれは実戦だけじゃ得られない。訓練をしなければこの技術は身につかないんだ」

「迷宮に潜っているだけじゃダメなんですか?」

「それだけで強くなれるなら皆実戦を積むだろう? そうじゃないから上位陣は鍛錬を怠らない」


 こちらの疑問はバッサリと斬り捨てられる。

 そもそも上位陣がどこまでやっているのかが分からないのでなんとも言えないところではあるのだけれど。


「〈スキル〉を掛け合わせることによって〈スキル〉にはないものを生み出す。これができる人はそう多くない」


 ただそれ以上に大事なのが基礎訓練なのだとか。

 〈スキル〉の性能をフルに引き出すために必要なのが体力や魔力であったりするからだ。


「想像力を養うことだよ、全ては。『この〈スキル〉とあの〈スキル〉をこういう風に組み合わせたら何かできないか?』という、無駄に思える思考が掛け合わせのバリエーションを増やす。常に考え続ける人間はそのうちに掛け合わせ以外のことでも伸びるよ」


 ロアスさんはまるで見てきたことのように言うので、心のどこかで信じ始める自分が居た。

 ついでに現影を見様見真似で放ってみると、似たような攻撃を放つことができた。


 この講義が、冒険者生活における骨子になると、今の俺には想像ができなかった。

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