15 依頼:初心者失踪の謎を突き止めろ
ゴブリンたちを仕留めた後も探索は続く。
あの後、ゴブリンの群れに三、四回ほど遭遇したが、いずれも難なく切り抜けることができた。
慣れというのものあるが、単純に魔術を使うゴブリンや、戦闘能力が秀でたものに出会わなかったためでもある。
採れた魔結晶の数は結構なもので、この量と質であれば一週間ほどは暮らせるらしい。
「これだけ採っても一週間か」
「浅い層だからね。魔結晶の質も悪くなる」
エレオノーラは魔結晶を袋にしまう。ヒカリダケの青い燐光が辺りを照らし、非現実感を生み出す。
まるで異界――神話に伝え聞く死後の世界にいるよう。
そんなことを考えていると、アリアリアがこちらに話しかけてくる。
「隠し部屋とかがなければこの階層の探索、地図の描き込みは終わったわ。……どうする?」
「第二層に行こう。物資に余裕もあるし、進めるときに進んでおこう」
「……第二層か。あそこは手早く終わらせてえな」
「……同感」
レイストフの嫌悪と後悔混じりの言葉にアリアリアは同意する。
シヌーンとデッドを失った第二層。数々の冒険者を葬り去ってきた〈肉切り〉キャスパード。
俺たちにとって第二層というのは苦い経験に満ちた場所だった。
唯一経緯を知らないエレオノーラはこちらの肩を細い指でつつき、耳元でささやく。
「もしかして、〈肉切り〉と遭遇したのが第二層なのかい?」
その言葉に、俺はゆっくりと頷く。
隠し事をしても仕方がないし、〈肉切り〉に関する情報はギルドも教会も集めている。
これで何か進展があればこちらの実績にもつながる。
エレオノーラは考える仕草をすると、言葉を続けた。
「二人に、あの場所を調査するように言ってもらっていいかい? 謝礼は……掛け合う。ギルドと教会、どちらからも出させる」
「……分かった」
「なにこそこそ話してるの?」
「イリアス、お前とはダチだと思っていたのに……! そんなにくっつきやがって……!」
こちらに気付いた二人に、どう事情を説明するか筋道を立てて考える。
二人の力は必要だ。アリアリアのナビゲート、レイストフの卓越した剣術。それらをつまらないことで協力が得られなくなるのはよくないことだ。
そして謝礼も魅力的だ。迷宮だけの稼ぎで余裕が生まれない以上、何かしら稼ぎがあったほうがいいのは当然である。
意を決して、俺は二人に話す。
第二層に潜るのは俺もまだ怖い。考えるだけで手汗にまみれてくる。
「新人冒険者、冒険者見習いが帰還しないことが最近増えている、と教会の偉い人から聞かされていたんだ」
「……〈肉切り〉が関係しているかもしれないと?」
レイストフが確かめるように訊ねる。
エレオノーラは静かに頷く。
露骨に嫌そうな顔をする二人。
なんとなく予想がついているのだろう。
餌をぶら下げて、それで駄目だったら……諦めるしかない。
「冒険者の大量失踪について貢献できればギルドや教会から謝礼が出るし、なんなら依頼も舞い込んでくるようになる……かもしれない」
「……特別利益と、あとは実績ね」
「正直まだ近寄りたくないが、背に腹は代えられないからな。……いいぜ」
レイストフに追従するようにアリアリアもゆっくりと頷く。
鞘にしまった短剣の柄をせわしなく触る彼女に、心の中で頑張れと檄を送る。
とりあえず二人の了承は得られたようなので、エレオノーラを見やり頷く。
「ここからはボクの事情なんだけれど、その惨状が起こった原因を突き止めること。そして人為的なものであれば再発防止を行うように指示されている。……手伝ってもらえると助かる、かな」
エレオノーラの言葉に、全員が頷く。
「ありがとう。君たちに手伝ってもらう以上、報酬についても等分だ。そこも安心してくれ」
「……まあ、やるしかないわね。結局のところ第二層も探索しないといけないわけだし」
「だな。で、〈肉切り〉並のやつが出てきたらすぐに逃げる。エレオノーラは高位の神官でアンデッドに対抗する術もあるだろうが、その数秒の間にやられかねない」
レイストフは苦々しげに口にする。
それについては全面的に同意だ。
俺たちが生き残っているのは偶然であって、もう一度同じだけの力量を持つ相手とやり合うとなると死ぬ可能性の方がはるかに高い。
俺は確かめるようにエレオノーラを見る。
「第二層を調べればそれで終わるのかな?」
「キミたちは第二層までだね。原因がそれより下にある場合は別の冒険者にお鉢が回ると思うよ。それも例の〈肉切り〉が居た場所まで行かないと判断がつかないな」
「エレオノーラ、アンデッドの処理はよろしくね」
「ああ、わかっているさ」
感情を見せずに頼むアリアリア。それに対して淡々と了承するエレオノーラ。
……もしかして、二人は反りが合わないのだろうか。
「……行こう。山ができるほどの死体の量だ。アンデッドとの戦闘は避けられない。みんな、頼んだぞ」




