荷車の中で
某仔牛の出荷どころではなさそうな曲を聞いてて書きたくなったんです。
クオリティは忘れ物センターに置いてきました。
『嵐だ!!』
『檻を見張れ!!』
荒れ狂う風の音。荷車に打ちつける雨の音が、檻の中に響く。
水を吸って車輪が膨張し、揺れがいっそう激しくなる。
―――あぁ、ここで死ぬんだ―――
そんな考えが、脳裏によぎる。
『気を張れ!!荷車を倒すな!!』
格子の外から怒号が聞こえる。
更に風が強まったのか、荷車が煽られ、格子のぶつかる金属音がする。
打ち鳴らされる金属音には、どこか懐かしさがあった。
―――「本当はこんなことやりたくないんだがな……。」―――
お父さんの言葉が、ふと頭に浮かぶ。
―――「生きていく為なんだ。仕方のない事さ……。」―――
お父さんは、とても強かった。
鉄製の盾をいとも簡単に貫き、剣を硝子のように砕いた。
その力で、何人もの戦士を屠ってきた。
―――「何がなんでも生きるんだ。生きていればいつの日か救いの時が来る。」―――
「何がなんでも生きろ」……。お父さんはいつもそう言っていた。
―――そうだ。生きるんだ―――
どんな状況でも、生きるんだ。
僕はそれを思い出して、鉄格子に体当たりをした。
体に激痛が走る。
自分を逃がさまいと囲む檻は、やはりそんなに弱くなかった。
「お前……ここから出る気なのか!?」
一緒に檻に入れられている仲間達が、ざわつき始める。
「そうだ!ここから出よう!!」
「こんな所に居てたまるか!!」
仲間達も、檻に体当たりを始めた。
最初はびくともしなかった檻が、次第に歪み始めた。
僕の力はお父さんほど強くなかったけれど、それでも皆で体当たりを繰り返している内に、格子戸を押し破るまでになった。
ガシャアン!!という大きな弟と共に、檻に出口ができた。
『なんの音だ!!』
『檻を見てこい!!』
荷車を運んでいた外の人達が、一斉に叫びをあげている。
「行け!あいつらは俺らが止めてやる!」
「お前が逃げられなかったらどうするんだ!」
仲間達が僕を守るように、檻へ向かってくる人達に体当たりしている。
「でも……!皆はどうするの!!」
見張りの人達が、鞭や棒を構えてこちらへ走り込んでくる。
「知るか!お前が出たかったんだろ!!」
「俺らは後からいくらでも逃げるさ!!」
「「お前は思う存分逃げろ!!」」
仲間達にそう言われ、僕は無我夢中に駆けていた。
―――ありがとう。本当にありがとう―――
僕は、自分の為に逃げようとした。
だけど、これからは違う。
獣のように吼える風の中で。
寒さに震え一人、森の中を。
逃がしてくれた皆の為にも生きよう、と走った。
『仔牛が一頭逃げたぞ!!』
この作品を読んで頂き、ありがとうございます。
この作品は、またもや突発的に書いた短編でございます。
こんなものを最後まで読んで下さった貴方は、かなりの物好きです。
ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。