4 ライバル登場
「いただきます」
手を合わせて食べ物と作ってくれた人に感謝。と、その前に
「解除」
呪文を一つ。俺にとっては簡単だが一般人には高度なその魔法は麻痺や毒など状態異常から回復させるものだ。
「やっぱりか」
ぽよんと朝メシが光る。どうやら毒状態が解除されたようだ。こんなことも日常茶飯事なので、毒が抜けたシチューをスプーンですくう。
「はっはっはっ! 引っ掛からなかったな、友よ!」
ガコンと音を立てて観葉植物が動いた。……奴だ。観葉植物と一体化するようにか顔を白く塗り、白の全身タイツ。頭には白い鉢植えの植物が刺さってある。
「さすが我が友、我がライバル!」
どーでもいいがここは、旅の途中で立ち寄った田舎町の食堂。むろん一般人もいる。静かにしてくんねーか?
コミカルキャラも必要だと作ったキャラだったがもう少し常識人でおとなしい奴にしておけばよかった。シナリオライターよ恨むぞ。
「パーク、お前も朝から張り込んで腹減ってるだろ、飯食うか?」
「む、さすが友! 私の腹の事情まで熟知しているとは!」
言いながらパークは俺の向かい側に座った。
「この飯屋で一番高級な物を頼む。代金は彼が払ってくれるそうだ」
なんで俺の飯に毒を仕込んだ奴に奢らなきゃならんのだ。財布に余裕がある今だから寛容になっているが金がないときだったらぼこるぞ。
「トワーイ国の王子様は相変わらずネジが外れているです」
テーブルの上にちょこんと座り呑気にパンをかじるりながらルビアが言う。そうなのだ。こいつはパーク=フォン=トワーイ。トワーイ国の第二王子様なのだ。
こんなんが王子で大丈夫か?とは思うが第一王子はまともなので国は大丈夫だろう。多分。
こいつに出会ったのは、ふらりと立ち寄ったトワーイの城下町。こいつが無銭飲食で捕まりかけ、暴れているとこをぶん殴ったのが運の尽き。
「父上にも殴られたことのない私を殴るとは!」
「うるせぇ、店の迷惑考えろ!」
「国民は私に尽くす義務がある」
その言葉を聞いてまた鉄槌を下す。
「お前が何様かは知らねぇけどなぁ!
国のお偉いさんってのは俺達が汗水流して働いた血税で生きてるんだぞ!
だったら、国民のためになるようなことの一つでもしやがれ、私腹を肥やすな、無駄遣いすんな、私用に使うな!
こっちはなぁ、馬車馬のように働いてもいつ首を切られるか、はたまた信じていた会社がいきなり潰れて路頭に迷うかびくびくしながら生きてるんだ!」
周りの客がウンウンと頷きながら涙する。拍手する人もいた。周りは俺の味方だった。
一方的に悪者になったパークは自分の白手袋を俺に投げつけた。
「お前は私を怒らせた。私はこの国の第二王子パーク=フォン=トワーイ。この国で無事でいられると思うな!
その命をもってその罪を償うがいい!」
演者よろしく芝居かがったそれに、俺は頭を抱えた。この馬鹿、シナリオライターと話していたときは「馬鹿なすけこましだったほうが面白いかー」なんて笑っていたが、実際にいるとムカッ腹しかたたねぇよ。
「……じゃあ王子様は王子様らしく」
パークの胸ぐらを取り食堂から出た。
「優雅にお空からお帰りあそばしぃ!」
城に向かって思いっきりその体投げつけた。物質転移の魔法付きで。
綺麗に弧を描き飛んでいくパークに、思わず「ホールインワン!」と呟いた。
あとで聞いた話だと、パークはこうやってよく小さな迷惑行為を繰り返していて、周りも困っていたのだという。
話はこれでおしまい。……とはいかなかった。
後日、パークの父上である王から大量の謝礼金と、「息子は勘当したからあとはよろしく☆」という手紙が贈られてきた。
……手前が親なんだからなんとかしろや!
その後は、パークはこうやって俺の後を着いてくる。時には俺の邪魔をし、時には俺の真似をしてダンジョンにつっこみ死にかけ俺に助けられ、今では友情が芽生えたと一方的に思われている。
こいつがライバルでヒロインを取られるエンドがあるとか、マジで信じられん。
「はっはっはっ! では私はこれで失礼する」
「はよ帰れ」
顔に食べかすを付けふんぞるパーク。
「では、昼に教会の前で待ち合わせだな!」
何?
マジマジとパークの顔を覗けば、得意げに鼻を鳴らされた。
「ギルドで二人パーティーじゃないと受けられない依頼をとってきたのだ。感謝するがいい」
お前さぁ、お願いだからいっぺん死んでくれないか?