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2 俺が勇者になったわけ

 ここで、俺、勇者ランドについて話そうか。

 生まれは国ドゥーカン。一年の半分を雪かきする事で占める国。

 そこで、災害孤児として教会で育った。自分より年上は兄さん姉さん、年下は弟妹。親がいないながらも平々凡々な毎日が続くと思っていた。

 決して裕福ではなかったが、学校も行かせてくれた。小さなコミュニティーの中で自分は特別だとは思わなかったし、特別な力もあるとは思ってなかった。だが実際は不思議な力がないわけではなく、教会のシスターは俺が「変わっている」事に気がつき、それも個性だと見守っていたというのは後日談だが。

 エロゲの主人公の幼少期ならさぞかしモテただろうと、皆さんはお思いだろうがこれまた、さっぱりモテなかった。

 女の子に優しくするのは当たり前だと姉たちからは教えられ、兄たちからは女の子に優しくしないとあとから怖いと教えられて育ち、下心なく女性と見ればどんな年齢であれ優しく扱うのが当たり前に育った。

「お宅のランドちゃん、優しいわね~」

 そんなご近所の奥様たちに評判のいい子だった。ある意味、女性にモテていたのかも知れない。うれしくないが。

 学校では男友達が普通にいて、野山を駆け回ったり一緒に雪遊びをしたり雪かきをしたり雪かきをしたり雪かきをしたり……

 とまぁ、子供らしく過ごしていたわけである。

 やがて年頃になると、友達が異性を意識してあの娘がかわいいとか、あの娘の胸が大きなだとか話し始めた。だが俺は全く興味がなかった。

 前世であっはんでうっふんなゲームを作っていたんだ。そんな環境で生きてきた(その時は覚えてないが)前世があったわけで、多少のエロさでは心が動かない石のようなお子様が出来上がっていた。というわけで、クラスメイトの女の子たちは興味の対象には入らず、友達が女の子対策に格好つけるなか、いたって地味なダサい青春を送った。

 月日は流れ、十五歳の決断の儀式の歳になった。

 この世界では十五歳になると審判の泉というところ(ちなみにゲーム上ではセーブに使える)で自分にあった職業が女神のお告げで告げられるというものだ。

 そこで俺が祈った時に聞こえたお告げの第一声が『え、っと、ええ? 嘘? 信じられない!』だった。

 なんて軽い女神様だ、と思っていたらまさかの女神様の御降臨。

 パニくる周りの人々に、女神様はさっきとは別人のような落ち着いたこえで静かに告げた。

『皆さん、この者の職業は勇者です』

 一気に静まったのも一瞬。さっき以上のパニックが。勇者という職業は実際には「ない」はずなのだ。そのはずの職業が女神様自らの口で告げたられたという前代未聞。

 周りがパニックを起こす中で、自分はどこか冷静に「女神様がこんな格好していて風紀的にいいんだろうか」だった。覚えてないけど、これ、俺が作ったエロゲの世界だからね。女神様も攻略対象でそれなりの格好をしてたわけだ。

 俺が勇者宣言されてから小さな村は大パニック。それは首都にも伝わり見学者も出てくる始末。俺はパンダか。

 あとは首都に呼ばれるまでは早かった。

 首都で剣術とあらゆる魔法を叩き込まれ、気がつけば季節が何度か過ぎていて俺は十八歳になっていた。

 様々な分野で専門家も舌を巻く程の才能を手に入れ勇者にふさわしくなった俺は、……俺は。

 数百枚の金貨を渡され、城からほうり出された。

 ここから『ドキドキ☆ファンタジア』が始まる。

 ゲーム上では。

 ちなみに俺が、前世を思い出した切っ掛けはセシリアとの出会いとか、女神様に会ったからとか、雷に打たれたとか、神様から啓示を受けたとかではない。

 南の国に立ち寄った時に起こした熱中症が原因だ。

 もう一度言う。

 熱中症が原因である。

 熱中症を侮るなかれ、薄れ行く意識の中で三途の川が見えた時は本気で死ぬかと思った。

 北国育ちの俺は南の暑さに耐え切れず、旅の途中の村で倒れた。その時助けてくれた村娘には感謝せずにはいられない。名前を聞けなかったが、今であの笑顔は忘れない。

 彼女が曰く、熱中症にうなされていた俺はうなされて「これはバグだ……」「勝手にイベント足しやがって……」などと呟いていたそうだ。

 ゲーム上ではもちろんこんなイベントはないし、生まれ変わり設定などない。

 前世を思い出してから、紙に思い出せる事を片っ端から書き起こしてみたが、途中で、それを放棄した。

 俺はこの世界の異分子。つまりバグであるという結論に至ったからだ。主人公自体がバグであるということは「どんなことが起こるかわからない」ということだ。

 これがプログラムだったら乱数を直すか、最悪そのプログラムごと消せばいいが、最初からというかプログラムの基盤がバグだったら?

 バグの俺にこの世界の崩壊がかかっていたら?

 その事実を知った俺は思わず震えた。正直な話怖かった。が、「この世界を正常に動かす」しか道はないと本能的に分かった。

 正常な世界……つまり真のエンディングに行き、平和な世界にすること。

 マルチエンディングRPGというジャンルのエロゲ。『ドキドキ☆ファンタジア』

 それの主人公でバグである俺。

 さぁ、ここまで話した。俺を信じてくれるかい?

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