第一章5『嘘』
「さぁ自分で「雇ってくれ!」なんて言ったのだから、きちんと仕事してもらいます」
紙が渡された。そこには、なんとも言えない。多さの仕事内容が書いてある。
「……なぁメア……いくら何でも多すぎないか?」
「良いから、仕事内容を全て頭に入れ、仕事に移って貰います」
全部押し付けられてるんじゃないかってくらいの多さの仕事。確かにメイドの数が1人で、この屋敷の大きさ、それくらい多いのも頷ける。
「お前今までこれ全部やって来たのか?」
「えぇそうだけど?」
「……お前長く生きられないな」
「……哀れむような顔をされても仕事は変わりません」
「いやいや普通に心配してるんだよ」
「エルフだから、人間である。あなたみたく早く死にません」
「あーはいそうですか」
エルフと人間の寿命って違うんだ。ならエリスの寿命はどうなのだろうか。後で聞いてみよう。
「買い出しに行きます。早く来なさい」
「ちょっと待て! 俺新人だぞ!」
「知りません。時間がもったいないです。早くしなさい!」
メアは急がせる。確かにまだやらなくてはいけない仕事が沢山あるのに、昼になってしまった。
「少し余裕がありますね」
「どこがだよ!」
「茶葉も積もればなんとやらですね」
「塵じゃなくて?」
「塵って何ですか?」
「……知らないならいいや。説明めんどくさいし」
「二手に分かれて行動します。あなたはこちらをお願いします」
「そ、そんな事言われてもよー俺初めてここに来たし、迷子になるぞ」
「裏に地図があります。赤い点があなたの今いる場所です」
裏を見る。一瞬見ただけで理解できるほどわかりやすい地図が書かれている。変なサイン付きで。
「……お前すごいな」
「早く行ってください。時間がありません」
「お、おう悪い」
余裕があるって言ってたの誰だよ。にしてもわかりやすい地図だな
でも不思議と地図を見なくともわかる。何故だろうか果物が売ってる店が近くなる。
「ここら辺だな」
「……お? 兄ちゃんか!」
「オッサン!」
「オッサン言うな!」
目の前にいるのは、俺を餓死から救った。ガタイのいいオッサン。
「ここ果物屋なのかよ」
「そうだ。文句あるか?」
「オッサンが果物屋してるとなんか変な感じするぜ」
「お前首ねじ切られたいのか?」
「おー怖い! それでオッサン恩返しに来た。ここに書いてるもの全部くれ」
「金貨だけくれよ……あれ? これってあの姉ちゃんの字じゃねぇか」
「お? なんだオッサン? メア知ってるのか?」
「メア? メイド服の女なら」
「……うわ、あんたそんなに趣味あったのか」
「は? どういう事だよ!」
「若い子好きなのは分かるぜ。でもよ、メイド服着てる子をジロジロ見てちゃダメだぜ」
「何誤解してんだ! 常連客だから知ってんだよ!」
「それは、すまないな。オッサン」
「……まあいいけどよ。何で兄ちゃんがこの紙持ってんだ?」
「新人だからだ!」
「……んじゃ、雇われたってことか」
「そゆこと、そゆこと」
「……はいよ。兄ちゃん」
「ありがとよオッサン」
「……んでまあ恩返しなんだ少し高くしても構わないよな?」
「……いくらだ?」
「金貨10枚で許してやる」
「……お辞めください」
「……銀貨四枚だ」
「はいよ」
「これは恩返しになってないからな」
「いや恩返しだ!」
「恩返しじゃない」
「仕方ないな。分かったよ」
「分かればいいんだ兄ちゃん」
「それじゃあな。いつか恩返ししてやるよ!」
「いつか、かよ」
さて俺はこれからどうすればいいのだろうか集合場所を聞いていなし紙の裏にも書いてない。
「どうしよう」
「やっと見つけました。ただの買い物なのに、遅すぎますよ」
「1日ぶりの人物にあったからな」
「たった1日ですか。まあいいでしょう。早く帰りますよ」
「了解しましたーメイド長様」
「……嫌味ですか?」
木々に囲まれた道を通る。
昼のはずなのに、木が光を遮り真っ暗だ。
「ここすげぇ暗いな」
「慣れれば大丈夫です」
屋敷まで凄く遠い。
足がパンパンだ
「……なぁ後どれくらいで付く?」
「後少しです」
良くある。めんどくさい時の返しだ
「後少し」これは、まだ全然ある。歩けと言う意味がある。
「お! 屋敷が見えてきた!」
木々に囲まれた屋敷は物凄い存在感を発している。まるでホラーゲームみたいだ。
「走ってください」
「嫌です! 足が痛い!」
「我儘な新人ですね」
「お? おんぶしてくれるのか?」
されたらされたで物凄く恥ずかしい。それを、エリスに見られたら、人生が終わる
「いえ投げ飛ばします」
「……やめて下さい」
「遠慮しなくてもいいのですよ?」
「やめて下さい」
「なら走りなさい」
「分かりました」
走って帰れば、エリスが「おかえり」と一言くれるかもしれない。
だが投げ飛ばされたら「大丈夫?」の心配の声が来るかもしれない。
それはなんか嫌だ。
屋敷の重い扉を開ける。
「ただいまー!」
「ただいま帰りました」
「おかえり! 木葉、メア」
返事が返ってくる。何よりも嬉しい。この一言が、これから俺の心を癒してくれる。
「すみません。エリス様、すぐにはお夕飯の準備に入ります」
「あまり無理しないでね?」
「はい」
夕飯なんて物を作ったことのない木葉は馬鹿みたいな顔をしてしまう。。今まで作ったことのあるものは、カップラーメン以外ない。
「なぁメア」
「はい?」
「……私料理できません」
「……なら見ててください」
「……すみません。分かりました」
俺より忙しいメアが俺の面倒まで。何か心が苦しかった。自分より若い女の子にここまで面倒を見られるのは、何か俺でもできることを探さなければいけない。だが何も無い。メアが作る料理を見て学び、メアの力になるしか、酷いもんだ。
この世界に来て2日目。そのうちの1日目は何もせず、2日目は自分より若いであろう女の子に苦労をかける。最悪だ。
食事が終わり次の仕事に入る。
「次は風呂掃除か」
こんなでかい屋敷だから大体予想が付く。
「……やっぱりデカイ風呂だなおい!」
「……騒いでないでチャッチャと仕事としてください」
「……ごめんなさい」
用具を渡され、入念に磨く。
この後にエリスが入るのだろう。ならより綺麗にしなくては。
「ふぅこれくらい綺麗にできたらメアもぐぅの音も出ないだろ」
「……まだまだですね」
「嘘だろ?」
「いえ本当にです。時間掛けすぎです」
「ごめんなさい」
「それでは部屋に戻ってください。入浴はエリス様と私が入った後に私があなたに報告しに行きます」
「……俺の部屋ってどこ?」
「あなたが最初に起きた場所です」
「ありがとよ」
「さぁ早く戻ってください」
「お疲れ!」
「はい……お疲れ様でした」
部屋に戻った。2日目の朝に起きた部屋だ。場所は大体覚えている。
「にしても雇われ生活1日目なのにすごい疲れたな」
たった1日で1ヶ月位働いた感じだ。
明日は今日より早く起きて仕事をしなくてはいけない。
そんな考えをしていた木葉の耳にドアのノック音が響く。
「私も上がりました。早く入って寝てください」
メアが入り、終わったと報告に来た。
「ありがとよメア」
「どういたしまして」
足音が遠のく。
「早く入って寝るか」
俺も風呂へ急ぐ
「いい湯だな」
一言呟く。
「仕事後は、より気持ちいいな」
仕事ってここまで大変なんだと今頃実感した。風呂に入ってしばらく時間が経った。
「そろそろ出るか」
体を拭き部屋へ急ぐ。
「早く寝るか」
ベッドへダイブ。
「俺……お疲れ様だ」
そのまま眠りにつく。
仕事という点を除けば、元の世界とほとんど変わっていない。
ゆっくり瞼が閉じられていき、闇の世界が広がっていく。
「エルフは寿命が長い……か。嘘だな」