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君を救う死生活  作者: 鈴先壮 ゆっクリ
第二章 騎士としての役割
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第二章26『炎が呼ぶ不死鳥』

 隣には銀髪の長い髪、処女雪のように白く、決して誰にも汚されていない幼い綺麗な肌、気を抜けば意識を持ってかれ、一生を終えてしまうのでは無いかと疑ってしまう。

 それに加え、整った顔は幼さこそはあるが上物で、大人になれば歩くだけで瞳を奪ってしまう美少女に育つはずだ。

 今この場所が王城でなければ襲っていたかもしれない。


「やばい……状況がわからん」


 確かこの世界の始まりはメアとカーミラ、そしてエリスが居たはずだ。その三人がいないというのならば違う世界線ということになる。

 "やり直し"が始まれば何度も同じ世界が繰り返される。だとすればこの少女が居ることも、エリス達がいないことも、何もかもがおかしい。


「――ここは傲慢を殺した後の世界」


 瞳を閉じる少女が語る。

 その言葉を止めるものはここに存在しない。ただその答えを求めるかのように身を、心を、委ねる。

 その少女が知っていると、そう思ったから、彼女が今この状況を説明してくれると、そう思ったから、ただの希望であり、願望である。

 

 少女は再度口を開き、話し始める。


「君が望んだ未来、それが今ってことさ」


「――――」

 

「……どうしたのかな?」


「いやお前誰だよ」


「え!? そこから説明しなきゃいけないの?」


 知らない。これが君が望んだ未来とか言われても分かるはずがない。だって言っている少女の顔も名前も分からない。

 そんな少女に手を掴まれているのか、少しゾッとするが悪い気は全くしない。


「僕はレイ・ノアニール、この体はアルテミシア・ノア・バスティアのものだよ」


「……ん? つまりお前は誰かの体を奪ったの?」


「違う! 僕がこの体につけた名前がアルテミシアってだけだよ! この体は盗んだんじゃなくて作ったんだ!」


 顔を真っ赤にして少女は自分の無罪を主張する。そんな姿もまた愛らしい。

 

「分かった分かった。とりあえず落ち着こうぜ」


「ふーとりあえず、だ。僕は君の救世主になる。故にもう少し優しく扱ってくれ」


「救世主……ねぇ」


 直に司教二人がこの王城に来る。目的はハーフエルフ殺しと裏切り者殺し、そして対象として選ばれたのはエリスとコノハ、しかもその二人は結構な手練、並の騎士じゃ相手にならない。

 それは以前の世界でなんの傷もなかったテオとフォボスと呼ばれる暴食が証明している。

 能力の強さも、他者にものを言わせないチート、テオは見るだけで腐敗、フォボスは不老不死、倒すのは困難を極める。

 ただしそれは並の騎士での話、最強の魔法使いの名を持ったレイならばどうだろう。倒せなくとも致命傷や弱点を見つけてくれるに違いない。

 そんな期待を胸にコノハはこれからのことを話し始めた。


「……これから司教が襲撃に来る」


「もちろんそれは知っているよ。だって見ていたからね」


「フォボスは物理的に殺すのは無理だ。だから、出来ればでいいんだが、テオは、せめてテオだけは殺してくれ」


 そんな叶うことのなかった永遠の願いをレイに告げる。彼女にしかできない。他の者では絶対に果たされない事、これで少しは変わるはずだ。

 しかしレイは驚いた表情し、指を一本立て、コノハに言い放つ。


「そりゃ無理だね」


 心が、願いが、砕けた気がした。

 彼女から発せられた『無理』という言葉、そんな言葉になんと返せばいい。

 これでまた、みんな死んでしまう。絶対に助からない。


 コノハは崩れ落ち、床とにらめっこを始めた。そんなコノハを見下げ、レイは不気味な笑みを浮かべた。


「殺すのは無理だ。殺すのは無理だけど倒せないとは言ってないよ」


「……どういうことだよ」


「彼らを封印するんだ。仮に失敗しても僕の魔法で追い返せばいい。君はエリス達を救いたいんだろ? なら別に殺す必要は無い」


 思いつかなかったわけじゃない。ただそれは無理だと確信を持っていたんだ。

 テオの持つ能力"見たものを腐敗"は実に厄介、封印する前に発動されれば確実に敗北、それにあのテオが唯一の弱点を放置するはずがない。何か対策をしているはずだ。

 

 不安げな顔をするコノハの心を読んだのか、レイは自慢げな表情をし、指を鳴らした。


「僕は様々な禁術が扱える。それら全てを司教が対策しているとしよう。それじゃあ僕が禁術を自作していたと考えてみて」


「……世に回ってテオだって知れただろ」


「僕は別に生前の話はしてないよ。僕が死んだ後の話をしているんだ」


「それはつまり……その禁術はお前以外には分からないってことだよな!?」


「まあ、どんな禁術も僕が黙っていれば誰にも知られないんだけどね。この通り、僕はお喋りなんだ」


 少女の手を掴み、コノハは期待の瞳を向けた。

 絵を考えてみればおかしな光景、普通はコノハではなく少女の方がコノハに期待するべきだ。

 そんなことも思いつかないコノハはどこか遠いところを見ていた。


「……君はやっぱり」


「ん? 何か言ったか?」


「いや何でも……司教達が来るのは大体三時間程度、君はなるべく普通にしていてくれ」


「なんでだよ。他の騎士達にも言ってなるべく被害を抑えた方がいいじゃねぇか」


 そう言うとレイは視線をコノハから離し、口をゆっくりと開く。


「……国の外で奴らと戦う。その為には来る方向を僕が把握しておかなければいけない。だから魔力がゾロゾロと動くと迷惑なんだ」


「なんでわざわざ外なんだよ……?」


「それは僕が……いや僕の能力が危険すぎるからだよ。国で戦ったら被害は計り知れない」


 確かにそれは困る。しかしレイの言葉は何故か細々としていた。別に自信を無くしたわけでは無いはずだが、何故だろう。どことなくレイから寂しさが感じられる。

 世界を壊そうとした時の心境は今でもわからない。ただその奥にレイなりの理由があったに違いない。

 それと今の感情が同じかは分からない。ただ理由があるとすれば同じなんじゃないかと思ったのだ。

 別に世界を壊すことを正当化するつもりは無い。ただ一人の仲間としてその感情は、悲しみは知るべきだとそう思った。でも、


「あまり……悪い、何でもない」


 俺は思ったより臆病だった。

 言葉の一つや二つ、寂しがる少女にかけてやる言葉すら恥ずかしいと思ってしまうとは、本当に俺ってやつはどこに来ても変わらない。

 異世界に来て、いや何言ってんだ。ここが異世界なはずがない。だってここは、


――こーのーはー


 違う。俺は、ここが故郷、それも違うな。なら俺は一体どこで生まれて育った、分からない。


 コノハは頭を抱え、今ある知識を全て使い、この状況を説明しようとする。だが思いつかない。一体どこが故郷なのか、ここが異世界なのか、全く検討もつかない。


「俺は……一体……」


「落ち着きなよ。とりあえずヒッヒッフーだよ」


「ラマーズ法だわ! 男がどう頑張っても何も出ねぇよ!」


 ああ、それでいい。今はただ目の前の戦いに目を向けていればいい。余計なことを考えて現実逃避するのはもうやめだ。

 人に甘えることしか出来ないならせめて自分には甘えるな、どっかの誰かにそう言われた気がする。それは何故か今でもはっきり鮮明に覚えていた。


「さあ、僕らは移動しよう。戦うのならば時間は少しでも多いほうがいい」


「……少しだけ、少しだけでいい。時間をくれ」


「ん? 別に構わないよ。僕は外で待っておこう」


 その言葉を最後まで聞かずにコノハは部屋の外に出る。向かう場所ははっきり言って自分でも理解していない。

 それでも足は勝手に動き、戦いから遠ざかっていく。否、むしろ近づいている。


「……あんたの力が必要だ」


「――――」


「手を貸してくれ」

 

 黒装束に身を包んだ"彼"は無言で頷き、己が携える剣をコノハに見せびらかした。

 ドラゴンの紋章が入った黄金の剣、それが彼に与えられたたった一つの"剣"だった。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「……来たね」


「ああ、終わった」


 漂う雰囲気は最悪、仮にこんな遠足があるのならトラウマレベルだ。雰囲気だけで帰りたくなる。


「僕達はなるべく遠くで戦う。だから長い間歩くよ」


「それは構わないんだが、もしも会わなかったらどうすんだ?」


「それなら大丈夫、僕の魔力を放出しておけば彼らは勝手にこっちに来る。そんな単純な脳なんだよ」


 今まで一人で戦ってきたが、テオやフォボスをそんな単純なやつだとは思ったことが無い。むしろ頭の回転が早いめんどいやつだと思っていた。

 そんな蚊取り線香みたいなことをして司教ともあろうお方が簡単に近寄ってくれるものなのだろうか。

 その疑問はすぐに消え、答えだけがそこに残った。


「な、なんだ?」


 体全体を覆う殺気、ここからそう遠くない。しかしそんな殺気がここまで届くものなのか、まず殺気って感じられるものなのか、そんな自分の謎理論に終止符を打ち、前の敵に意識を向けた。

 レイも殺気を読み取ったんだろう。真剣な顔立ちになり、目を細めてその先を見やる。


「……少し歩こう。向こうはずっと動く気がなさそうだしね」


「当たり前だ。しかしまあ、慣れないもんなのか? この嫌な感じ、イラつくぜこの野郎」


 愚痴りながらも確実に歩は進んで行く。それは決して止まることを許さず、己の死と向き合うべきだと告げる。

 風が吹き、木々を揺らす。木に止まり休んでいた鳥達は既に危機を察知し、その場から退場している。それだけじゃない。この場に残り続ける生命体はレイとコノハの二人だけ、他の生命はその存在に恐れをなして逃げていった。

 生物の理だから別に咎めるつもりは無い。現にコノハもこの場から逃げたいとそう思っている。

 それでも尚、レイは足を止めず、表情も変えない。ただ目の前にいる敵に全ての全神経を集中させていた。


「お主ら……逃げんということは戦うということじゃな?」


「無論、そのつもりだがね? 逆に問うけど君は逃げないの?」


「俺はもう老人だからのう。そんな魔力程度じゃ逃げんよ。それに年配者は敬うべきじゃよ」


「……お喋りが好きなんだね。そういう人は嫌いじゃないけど司教ならただイラつくね」


 レイが手を前に出した。その手には完全な無、あるとしたらただの空気だけのはずだが、そこに炎は現れ、徐々に巨大化していく。

 コノハの頭と同じぐらいの大きさになった頃、レイの表情はコロリと変わり、ただ笑っていた。


「この僕を侮るなよ人間、死者の炎は生者を地獄へ落とすぞ」


 レイの手から放たれた炎の塊はスピードを上げ、テオに向かっていく。急の出来事に反応が遅れたテオはそのまま炎の海に飲み込まれ、隙を作る。


「これからが僕ら人間の足掻きだ」


 レイを中心にして炎の塊が現れる。そしてその全ては一気にテオの方へ放たれた。


 思えば司教はテオ一人だけ、フォボスの姿が見えない。

 その事に気づいたレイはすぐさま、攻撃を止め、国へ戻ろうとするが、コノハに肩を掴まれ阻止された。


「対策は打った」


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 コツコツと靴の音が響き、人間はいないぞと告げている。いやあからさま過ぎる。

 仮に誰もいないとしてもここは王城、誰か一人でもいなければ襲撃されておしまい。国は一気に落とされる。


「どういうことだァ?」


「それなら俺が説明しよう」


「はァ?」


 そこに立つのは黒装束の男、腰には金色に輝く黄金の剣、よく見ればドラゴンが書かれている。

 その男の存在が何を意味するか、それはただ一つ、暇だったこの感情を埋めてくれるということだ。しかしこの男には他の奴らがどこにいるのか聞かなきゃならない。たった一人じゃ楽しくない。

 せめて、千人くらいいれば楽しめるくらいだな。


「んで、説明してくれやァ」


「簡単な話、私以外の全員を避難させただけだ」


「そりゃあおもしれぇ。俺達の動きを見切った上での行動だなァ? 俺はフォボス・アッカーソン、暴食の司教だ!」


「……私は剣を捨てた"人斬りアレス"だ」


 男は剣を引き抜き、刃先を暴食へ向ける。

 迷いのない太刀筋、視線は常に暴食の手足に向けられている。

 今このまま攻撃を仕掛ければ間違いなく斬り殺される。不死身とは言え、それだけはなるべく避けたい。だが、

 

「気に入ったぜ! その獣のような目、怪物には怪物をってかァ!? ならこっちも本気で相手してやらァ!」


「――哀れ、名も無き化け物よ。私は既にお前を切っている」

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