第一章3『今回』
「おい! 兄ちゃん早く起きろじゃねぇと少し痛い目見るぞ」
――あれ? オッサンの声だ。あーオッサン死んでんのか?
「おい! 兄ちゃんいい加減起きろ」
――起きろと言われましても、現在私死んでますし。
その瞬間体が飛んだ気がした。いや飛んだ
「痛ってーな! オッサン!」
「食事用意してんのに起きねぇお前が悪いだろ。それにこれは愛の篭った1発だ」
だからと言って顔面は流石になしだ。椅子からすごい飛ばされた。
「顔面すげぇ痛い」
「後悔することだな起きなかったのが悪い」
「ふざけんなよ本当に殴る奴がいるか!」
「殴ってねぇ叩いたんだ」
「叩くも殴るもそこまで変わらないぞ!」
あれ、てか俺コミ障なのにすげぇ普通に喋ってるな。このオッサンどこかで。
「おい兄ちゃんお前最近まで旅でもしてたのか?」
「は? 何で?」
「金持ってねぇじゃねえか」
「……なぁこの国の金ってどんなのだ?」
「すげぇ馴れ馴れしい奴だな」
「スミマセン金オシエテ」
「ウゼェな。まあいいだろう、教えてやるよ。この国は金貨、銀貨、銅貨の三つある」
「……少な」
「そうか? まあいいその中の金貨が一番高い」
「大体一万位か?」
「イチマン? 悪いがそんなの聞いたことねぇな。例えばこのリンゴが銅貨1枚で買える」
「ほうほうじゃあリンゴが10個で銀貨1枚と」
「そうだ。理解してくれてありがとよ」
要は金貨=10000円、銀貨=1000円、銅貨=100円位だな。
ほとんどは何も変わらない
「それで金、銀、銅にはある人物が彫られてる」
「ん? どんな人物だ?」
「金貨はエルフ、銀貨はケットシー、銅貨はサラマンダーだ」
「なんだそのエルフとかケットシーって」
「国を救った三大英雄だよ」
「へぇーそのサンダイエイユウ様は何から国を救ったんだ?」
「知らねぇのか世界を憎み、世界と共に崩壊を望んだ女からだ」
「女?」
「そうだ女だ。しかもエルフだ」
「なんだよエルフって?」
「エルフは魔法が得意な種族だ。だがその女は、エルフでありながらエルフじゃなかった」
「ん?」
「……ハーフだよ……エルフと人間のな」
「ん? いや意味わからん何でそこまで間を開けた!」
「ハーフは純血の種族達と比べ力と魔力が何もかも劣ってる」
「へぇーだから?」
「だがその事件から考えが逆になったんだよ【ハーフは危険】とな」
「ハーフは危険ねぇ」
「もしその女が純血だったらもっとやばい事態が……なんて誰も考えない」
「何でだ? ハーフの方が力劣ってるんだろ?」
「その考えは数百年前の話だ今はハーフの方が魔力を持っていると考えられてる」
「あー分かったぞ! ハーフは血が半分だから力を上手くコントロールが出来ないとかなんかだろ!」
「は? こんとろーる? ってのは何か知らんが血が半分だからってのは当たりだ。力が上手く発揮できないだけだったんだよ」
【ハーフエルフ】またどこかで聞いたことのある言葉。
「……なぁオッサン俺ってどうやって生きればいいと思う?」
「はぁ? 兄ちゃんいい加減しろよ。生き方なんて自分が決めることだろ」
「そうだよな。ありがとよオッサン」
「お前さっきからオッサンオッサン言ってるけどすごい失礼だぞ」
「悪いな」
三大英雄と言う単語にも聞き覚えがある。それだけじゃないノアニール王国ってのも、何か俺の記憶がごちゃ混ぜになってる
「オッサンありがとな」
「あまり無理するなよ。てか店先で倒れんなよ客こねぇだろ」
「……その面じゃ誰もこねぇだろ」
「すげぇお前ウザイな」
「んじゃ俺行くわ! ありがとよオッサン」
「おう! 金持って来て恩返ししろよ!」
俺は鶴かよ。
それから相当歩いた。この国の広さが多いに分かる。
「なんだよこの国くそ広いなおい!」
そんなの当たり前だ。
「それより俺なんでここまで?」
だが不思議とどこかに引き寄せられる。
「路地裏かここなら近道だ」
俺から見る反対側に5人。何かが近づいてくる。
「おいテメェとりあえず持ってるもん全部出せ」
「出したら半殺し位で許してやるよ」
「おいおい嘘だろ。俺今、何も持ってないんだよな」
「ふざけてんのかテメェ? いやもういい身ぐるみ剥げ!」
「うわ! 急にくるなよ!」
それから数分、木葉はチンピラとの幼稚な戦闘を続けていた。
「嘘だろ」
「はぁ? 嘘じゃねぇよ。生憎俺は引きこもりだからいくらでも時間があったんだよ! その間にお前らぐらい倒す事くらい簡単になるようにな!」
すごいドヤ顔をかます。
「……それって自信満々に言うことじゃないだろ」
「……そうだな……それでお前も来るのか?ならかかって来いよ!」
「悪いが俺は拳で語り合うつもりは無いぜ」
どこぞのチンピラが刀のようなものを出す。形状は木葉の知っているナイフとは少し違う。
「俺は拳で語り合うとか嫌いでな。仲間殴ったんだ潔く死ねぇ!」
相手がこちらに来る。だがしかし相手は殺す気で来てるわけじゃないみたいだ。いや弱いだけだった。
「うお! 危ねぇぞ! 当たったらどうする!」
「当てに行ってんだろうが!」
その瞬間足を滑らせた。
最悪だ。しかも先ほど殴った他の仲間も、もう立って木葉の隙が出来るのを伺っている。
「うわ!」
完全に背中が地面に付いた。
「やっちまぇ!」
そして木葉は何度も蹴られ、殴られた。痛いそれは当たり前だ。
助けて欲しい、だが誰かが来る訳では無い。あの時みたいに――
「……何をしているの!」
女の子の声だ。どこか聞いたことのある透き通る様な綺麗な声。
「早くその人から離れなさい!」
やめた方がいい、武器を持ってる奴がいるのに危険だ。何より俺が恥ずかしさで危険だ。
「おい! テメェあんまり舐めてると痛い目見るぞ」
「離れなさい!」
「兄貴! やっちまいましょうぜ」
「……お前らずらかるぞ」
「はい? 兄貴何言って……」
「早く行くぞ……」
チンピラ共は去ってゆく。チンピラのリーダー的存在の奴は体を小刻みに震わせながらその場から去っていった。
「大丈夫?」
その優しい声が近づく。それにビックリしてすぐにその場から立ち上がった。
「あー大丈夫だ! ありがとう!」
コミ障あるあるが発動した。
話をすぐに、ありがとうで終わらせようとする癖だ。
「本当に? 血出てるよ?」
すごい心配してくれる。でも心の心配もして欲しい。
「大丈夫だ! 血が出るのは努力の証だ!」
「ん? そうなの? でも痛そう」
その子は何も知らない俺に対し、凄く優しくしてくれる。オッサンもこの位してくれた。
「大丈夫だ! それにあれは俺が路地裏に入っt」
視点が下がった。いや普通に倒れた。体力の限界だ。
体が痛い。重い。
「大丈夫!? 今から治療するね!」
その子の声が遠のく。
死ぬとはまた別の感覚、不思議な感覚だ。
久しぶりに会った人が目の前にいるようだ。
「大丈夫! すぐに治るからね!」
聞こえた。救いたいと思った人の声、死なせないと何度も誓った人の声、この感覚は何度も味わった。もう怖くないだから
「今回はちゃんと聞こえたぞ絶対に救ってやる」