第一章14『メイドの心得』
---エリスの屋敷---
天井が見える。
この世界では俺がこの天井を見た事が無いことになっている。
数日の間だったがこの世界に来てメアの顔の次に良く見た光景だ
「全国のノアニール国民おはようございます!! 水瀬木葉ここに見参!」
「え? あ!」
部屋全体に響き渡る声でその言葉を口にした。隣で女の子の声と地面に体をぶつける音が聞こえた
「痛いよ〜」
「おお!? 悪い! 大丈夫か? エリス」
椅子から倒れたのか隣に頭をさすっているエリスがいた
「むー痛いよ」
「ホントに悪い! まさか隣に居たとは思わなくて」
「だってあんなに痛がって、寝ちゃったもの心配になるでしょ?」
「……知らない人にも気を使ってくれるのか。天使ですか?」
「……それであなたは何で私の名前を知ってるの?」
「無視ですか……俺が君の名前を知ってる理由はだな……」
いい嘘が思いつかない。
何だか巻き戻りの事を話してはいけない気がする。
「どうしたの?」
どうすればいいのだろう。
矛盾がない嘘をつかなくては
「お、俺の好きな人の名前だ。たまたま似ていたからだよ。名前を知ってるわけじゃないぜ」
我ながらいい嘘を言った。俺グッジョブ。
「なら何でメアの名前を言えたの? しかもメアが働いてることまで」
木葉は1度世界をやり直している
この程度の嘘は容易いものだった何故なら、木葉はメアの名前を知る機会があった
「……あの果物屋のオッサンいるだろ? その人からよくメイドの人が来るらしいから一応名前も聞いたんだ」
「どうして名前を聞いたの?」
「俺そういう趣味があるんだ」
「……そうなのね。でもなんか複雑な気分」
「ちょっと誤解しないでくれません!?」
「でも私そういう人には近寄らないってメアと約束しちゃったから」
「ごめん嘘! 嘘だって!」
「でもどんなに恥ずかしい趣味でもきちんと打ち明けられるのはすごい事だと思うの」
「あれ? 俺の好感度少し上がった?」
「うん、上がりました」
「マジですか! 良かった!」
「そこまで嬉しい事なの?」
「嬉しい事だとも……そうだ! 名前言ってなかったな」
「うん。私だけが名前を呼べないのは不便だもの」
「俺の名前は水瀬木葉! 由来についてはめんどくさいからスルーな!」
「私はエリス。この屋敷の当主、由来は教えて貰ってないの。ごめんなさい」
「いいよ! いいよ! 俺だって由来言ってないんだし」
「そうね。ありがと木葉」
「おう! よろしくエリス!」
「ホントにうるさい人ですね。朝叫んだかと思ったら今度はエリス様を口説きますか。あまりそういうのはやめてもらわないと首が無くなりますよ?」
「首が無くなるとか怖いなおい!」
「私はいつも足を狙われてるけどね」
「エリスまで狙うのかよ!」
「えぇもちろんよ? それが1番いい方法だもの」
「でも足を無くすなんて怖いよメア」
「申し訳ございません。ですがあまり危険な事をするとそうなりますよ?」
「そんなのね。ごめんなさい」
「わかってもらえればそれで良いのです」
久しぶりに聞いたメアとエリスの会話、そういえば前の世界では会話を聞いたことがあまり無かった。何よりエリスと会話を全然してなかった。
「……何黙ってるのですか? 気持ち悪いですよ?」
「辛辣だなおい!」
「ですが事実でしょう? 貴方エリス様を見てニヤニヤしているのですから」
「してねぇよ!!」
「では私を見ているのですか? 尚更気持ち悪いですね」
「お前、俺が何に見えるんだよ」
「黒色の獣」
「確かに黒い服を来ているけども!」
「あの? あまり2人だけで会話をしていると私の聞きたいことが聞けないからあまり長引かせないでね?」
「すみません。エリス様」
「悪いなエリス。それで聞きたいことってなんだ?」
「あの……それは木葉がこれからどうするのかなと思ってて……」
「そうか……俺どうすれば良いのかな?」
「良ければ屋敷で住まない? 私メア以外と会話なんて滅多にしないから話し相手が欲しくて……」
「そうだな。それもいいけど。そんなことより俺を雇ってくれないか?」
「え?」
「え?」
まず俺がする事はメアと仲を深める事だ。呪術師とバカを倒すには戦力が必要だ。メアなら少なからず俺よりは強い。それにメアなら誰かしら呼んでくれるかもしれない。
エリスにも期待は出来るが、見た感じそこまで強そうに見えない
それに人と話す事が少ないと言っていた事から呼べる人は0に等しいだろう。それにメアがまず許さないだろう
メアが同行してくれるとしても、エリスを連れていくことはメイドとして止めなくてはいけない。
だからメアとの仲を一番深めなくてはいけない。
「それでは仕事をやってもらいます。ここの紙に全て書いてありますので今日中に覚えてください」
「……よし覚えた」
「はい?」
「覚えた」
「これだけの数を?」
「覚えました」
「それは素晴らしい事です。一応褒めといてあげます」
「アザっすメイド長様」
「ハァー」
メアが楽できるように俺が仕事をすればメアも少しは俺の事を見直してくれるだろう。そうすればそこから仲を深めるのは簡単かもしれない。逆に怪しまれるという点は除いて
「あら? 片付けが終わってる?」
「はい! メイド長様。全てこの俺が終わらせときました!」
「貴方が?」
「そうです! ですからメイド長様は少しご休憩を」
「貴方何を考えているのかしら?」
「え?」
「何か目的があるように見えます」
「そんな事ありませんよメイド長様」
「嘘を付いていますね」
「え?」
「貴方何を考えているのですか? お答えください」
「いやあの何も考えていませんけど」
「なら私が納得出来るまで貴方を地下に閉じ込めるだけです」
「な?!」
それはだめだ。少ない時間で様々な事をしなくてはいけない。何よりこんな序盤から終わってしまってはいけない。だが今この場で真実を言ってしまって良いのだろうか?
嘘を付けば地下行き
真実を話せば殺される可能性もある。
だが俺の選択肢は1つしか無かった
「……全部話すよ。だが聞いたらお前もその面倒事に巻き込まれる覚悟をしろよ?」
「……エリス様に危害が及ばないのなら話ぐらい聞くわ」
「なら心して聞け。俺は今からこの世界を壊そうとしている首謀者を殺しに行く。そのためにお前の力が必要だ。手伝ってくれ」
「……嘘くさいですね。ですが」
「え?」
「ここで働くための心得を教えます」
「メイドの心得その2」
「疑うのはまず味方から」
「メイドの心得その1」
「疑う心が2番信じる心が1番です」
「貴方の泥舟に私も乗りましょう」
「今は味方ですよね? 木葉さん?」