第一章10『女王』
「俺のこと何でも知ってんだろ?」
「あぁもちろん知ってるとも。例えばこの世界に来てしまったこととか」
「……お前もしかして、俺がこの世界にいる理由が分かるんじゃないのか?」
「だから何でも知ってるって言ってるだろ? 僕は君がこの世界にいる理由も、君が元の世界に帰る方法も知ってる」
「なら教えてくれよ!」
「……でもいいのかい? 君は何も知らないままこの世界を離れる」
「構わない! 俺はこの世界に思い出なんてない!」
「……あるだろう?」
「は?」
「エリス、メア、果物屋のおじさん、君はまだこの世界でやり残した事が沢山あるだろ?」
「なんでお前が知ってんだよ!」
「まあ落ち着きたまえよ。席はあっちだ。ゆっくり話をしよう」
「……」
「それで君がこの世界でやり残した事についてだけど」
「俺が何をやり残したってんだ!」
「エリスを救えてないだろ?」
「は?」
「君はまだエリスを救えてない」
「エリスを救うって、エリスにはメアが付いてる。心配事なんて無いだろ」
「本気で言ってる?」
「本気だ」
「は〜……なら教えてあげる。君は今日起きてエリスになんて言われた?」
「……」
「君はなんで名前を知ってるか聞かれたはずだ」
「……だからなんだよ?」
「そして自分は働いていなかったことになってる」
「……あぁそうだ」
「時間が巻き戻ってるとは思わないの?」
「……そんなくだらない事があるはずないだろ」
「なら説明してくれよ? 何故エリスは君のことを名前で呼ばず、何故メアは君を叱らない?」
「名前は気分だろ……叱らないのはエリスがいるからだ」
「初日、君はメアに散々言われてたろ?」
「……お前は何が言いたいんだ!」
「君と僕の時間が巻き戻らず、他の時間だけ巻き戻ってる。おかしいとは思わない?」
「ふざけたこと言うなよ! 時間が巻き戻ってるはずがない!」
「君も内心気づいてるのだろ?」
「……」
「まだ疑問に思うなら、エリスに聞くといい、俺が寝てから起きるまで何時間たった? ってね」
「……わかった。お前が言いたいのは、時間が巻き戻っていると俺が言わないと、話ができないからそう思い込めって事だろ?」
「違うけど?」
「……」
「君は気づいてる?」
「は? 何がだよ?」
「周りが全くの真っ暗じゃないこと」
「――!」
確かに木葉の周りは少しだけ光が照らされている。がしかし目の前は相変わらず、吸い込まれそうな程の『闇』
「やっと気づいたのかい?」
「……どういう事だ?」
「僕のパートナーに近づけば、君はより周りをしっかり見ることが出来るだろう。パートナーに近づく方法だけど、君が時間の巻き戻りに気づくことだ」
「……」
「君は正直者だね? やっぱり気づいているじゃないか」
「うるせぇ」
「そして僕の顔が見えるようになるには、君が僕の存在を認めることだ」
「……は?」
「だから〜君が僕の事を知れば見えるようになるよってこと」
「……ならヒントくれ」
「ヒント? 良いよ。君は三大英雄の本で、ハーフエルフの魔法使いと書いてあるのを知ってるはずだ」
「もちろん」
「そしてそのハーフエルフは三大英雄を殺し、殺された」
「そうだな」
「僕のことだよ?」
「……はぁ!」
「お茶会招待のついでに言ったろ? 僕が世界を崩壊へと導いた魔女だって」
「……いやあれは冗談かと」
「冗談を言ったところで僕には得はないだろ?」
「そうですね……待てよ? まさか俺を殺すのか?!」
「違う! 違う! 僕はむしろ君を仲間として歓迎しているんだよ!」
「……はい?」
「君は時間を巻き戻らせる力を持ってる。その力は操れるものではないけれど、その力は多くの人を、救えるんだ」
「ほい?」
「短くまとめて『巻き戻し』と言うけれど、君の力は素晴らしいものだ。今まで何もしてこなかった君には充分過ぎるものだよ!」
「おい、さり気なく俺をバカにするなよ」
「悪い悪い、でもバカにされても仕方ないことだよ? 君は元の世界に戻った後どうするべきか考えているのかい?」
「普通にいつも通りするさ」
「本当にそれでいいと思ってるの?」
「当たり前だ! 他に何が出来るってんだよ?!」
「君が何故時間を巻き戻ってしまったのか、『巻き戻し』を使用するための条件を一緒に考えない?」
「お前と?」
「後彼女、とだ」
「ほい?」
「多分もう少ししたら来るよ。怒らせないでね? 怖いから」
「はい?」
「ようこそ、水瀬木葉、今は名乗るべきじゃないと、思うから、一つだけ言うわ。私は貴方の救世主貴方を導き、導かれる者、女王よ」