メリーゴーラウンドスタッフ ショウの話
今まで言葉少なだったショウが、自信なさげにぼそっと語った。
「最初に断っておくけれど、俺の話は面白くないよ。
ごくごく普通の、よくある話に尾ひれがついて噂になっただけだ」
「たしか、誰も乗ってないのに、明かりがついて回ってるメリーゴーラウンドの話だったよね?
幽霊が乗ってるのに、見えてないだけだったりして! やだ、こわーい!」
ショウのテンションを上げようというのだろう、隣のマユカが、きゃーっと叫ぶ。
が、ショウはまだ難しい顔をしたままだった。
「幽霊が存在するか否か。それは悪魔の証明だ。
俺は信じていないけれど、信じている人には見える可能性がある。
見えているものというのは個人によって異なる。
所詮、脳の中を通っている神経が違うんだ。
他人と同じものを、自分が見ているとは限らない。
またアポフェニアの一種であるシミュラクラ現象や……」
誰も聞いていないことを延々と話すのはショウの悪い癖だ。
「なーんだ。結局、ショウも七不思議のことを知らないの?」
私が話をぶった切ると、彼はさすがにむっとしたように話し始めた。
「もちろん、知ってるよ。
でも、真相って大抵つまらないんだよ。
じゃ、今から皆の夢を壊すけど、いいよね。
明かりがついているのに、だれも乗っていないメリーゴーラウンド。
あー、はいはい、よくある話じゃないか。
どうして皆、スタッフだったくせに気付かないかな。
点検だよ。て・ん・け・ん。
当たり前だろ、それしか考えられないじゃないか。
夕方シフトの時は面倒だったな。
大体閉園して三十分くらいするとおじさんがやってきて、全部の電球が切れていないか確認するために一度動かすんだよ。
あとは緩くなっているネジがないかの確認とか、潤滑油差したりとかね。
ぶっちゃけ俺、早く帰りたかったんだけど、あの人完璧主義者だったからな。
電球が一個、少し暗いだけで交換するとか言い出したときはもう呆れたよ」
私たちは、黙って聞いていた。
黙って聞くしかなかった。
ショウがそこまで話すと、私たちは、誰が沈黙を破るか目線を交換しあった。
と、カヤネがついに耐えられなくなったようだ。
「……で、その人って誰なのよ?」
ショウは苛立ったようにとんとんと指で机を叩いた。
「何言ってんだよ、だから、点検の業者さんだよ。
ほら、黄色いヘルメットかぶって緑の作業着着てた。
毎日来てたはずだろ、皆のアトラクションにも」
ジェットコースタースタッフのユリが、言いにくそうに答えた。
「業者さんは……大体技術者さん複数人で来ていたよ。
それに、ジェットコースターでも、業者さんの点検は一週間に一度、定休日だけだったよ?」
トシも眉をひそめてユリに続く。
「大体、そんな夜中にメンテナンス作業するのもおかしいしな。
暗くて手元が見えづらいだろうし。
試運転にしても、早朝の開園時間前にするって規則で決められてただろ?」
微妙な沈黙があたりを覆ったあと、いつも冷静なショウが、顔を真っ青にして叫んだ。
「……じゃあ、一体誰だったんだよ、あの人は!?」
彼の質問に答えられる者は、誰もいなかった。