ドリームキャッスルスタッフ ラミの話
まだ机に突っ伏して、自分が昔見てしまったものにショックを受けているカヤネの横で、ラミが困ったように首を傾けていた。
「考えてるうちに私の番になっちゃったけど……カヤネみたいな体験なんて全然なかったな。
地下室が拷問部屋になっているとかいう噂なんだけど、本当に何も知らないの。
なんだか、私だけ知らなくてごめんね」
「そんな……お城のスタッフだけが知っている、隠された地下室とかなかったの?」
私の問いに、ラミがますます眉を寄せて申し訳なさそうな顔をした。
「うーん。地下にはスタッフルームがあっただけ。
それに、ドリームキャッスルは外側こそ派手でランドの中心にあったけど、中は着ぐるみやお姫様に囲まれて、自分もお姫様の衣装を着て写真が撮れますってだけのアトラクションだよ?
男の子向けならホラー要素入れてくるのもまだ分かるけど、女の子向けのアトラクションで、そんな不吉なことできないよ……あ」
そこで何かに気付いたように、ラミは口をぽかんと開けた。
どうやら、なにか心当たりがあったようだ。
「閉園した今だから言っちゃうけどね。
あそこの地下、着ぐるみの控え室にもなってたんだ。
……思いっきり、着ぐるみの生首おいてたかも」
ラミを除く私たちは、一斉に納得した眼差しを投げかわした。
スタッフルームは、遊園地の照明より大分薄暗くしてある。
万一スタッフが扉へ入るところが見えてしまっても、部屋の中はなるべく見えないようにという工夫だ。
しかし、うっかり迷い込んだ幼い子供が、薄暗い中で首だけの着ぐるみを見てしまったとしたら……下手したら一生のトラウマになるかもしれない。
「そっか、それで拷問室と勘違いしたのかも。
そうだとしたら、夢を壊しちゃったな……」
しゅんとするラミの横で、突っ伏していた突然カヤネががばっと顔をあげた。
「ふーーーーーーん。着ぐるみの控え室だったんだ。へーーーーー。初めて知ったー」
やたらと元気になったカヤネが、そう言いながらバッグをあさりだす。
やがてスマホを取り出した彼女は、目を瞬かせているラミへ指を突きつけ、宣言した。
「みんな、謎は全て解けたわ!」
「どういうこと?」
全員がカヤネのスマホに釘付けになった。
カヤネがにこにこ顔で、ラミに確認する。
「ラミって、某ウサギくんの中身と当時付き合ってたんだよね?」
「中身って言い方やめて! それに、もう鈴木先輩とは別れて大分経つし!」
そういえばそうだった。
バイトを始めた7月頃、ラミはよく着ぐるみの中身……鈴木先輩との恋の進展を逐一飲み会で報告していた。
だが、8月にはその話は激減し、ついに9月には「別れた」と言ったきり、次の気になる人の話題へと移った。
私が知っているのはそれだけだ。
と、カヤネがスマホを操作し、怪しい笑みを浮かべながら得意げに話し始めた。
「ふふふふふふふふ。
私ね、最近ラミちゃんの裏アカ発見しました!
それでは、ラミちゃんの去年の夏のツイートを発表しまーす!
『8月18日。彼氏に、職場で着ぐるみごと棒で叩いてくれとせがまれた。
仕方なくやったらものすごく喜んでて……正直キモい。
たしかに告白したのは私だけど、これはちょっと無理かもしれない。
8月19日。Mの相手って疲れる……私Sじゃないのに。
彼の背中蹴ってたらヒールが折れた。
新しいの買ってくれるらしいけど、そういう問題じゃない。
ああもう、顔は好みなのに!
8月20日。ヘルプ! ヘルプ!
マジで別れたいのに、罵倒すればするたび興奮してくるのなんなの!』」
カヤネが朗読するのを聞きながら、トシが机をばんばん叩いて笑った。
「あははは! あの着ぐるみの中身にそんな性癖が!」
「あああーーーーっ! やめてえええええっーーーー!
私の黒歴史をそれ以上朗読しないで!」
ラミが真っ赤になりながらカヤネのスマホを奪い取ろうとするが、カヤネの手に邪魔されてうまくいかない。
ユキが苦笑いしながら、ラミに言った。
「……うん、地下室を覗いた子供にこの状況を見られてたら、拷問部屋と勘違いされても仕方ないんじゃないかな?」
「これ以上私の拷問に追い打ちかけるのはやめてーーーっ!」
まあまあ、とカヤネとラミ両方を諫めた後、私は今の話で最も気になったことを聞いてみた。
「一つ聞くけど……鈴木先輩と、どうやって穏便に別れたの?」
カヤネのスマホをもぎ取ろうとするのをやっと諦めたラミは、やけ酒のようにぐいっとビールをあおった。
「……本職の人を紹介してやったの!」