ミラーハウススタッフ カヤネの話
カヤネが口を尖らせて文句を言った。
「もう、トシの話って、七不思議って言うより不法投棄じゃない。がっかりだわ」
「真実は得てして幻滅するものだよ」
「ショウは黙ってて。どうせあんたも、幽霊信じてない口でしょ」
「カヤネだってそうだろ?
ミラーハウスは気味が悪いからって皆が嫌がってたのに『鏡を怖がるなんて馬鹿じゃん』とか言ってずっとあそこのスタッフやってたくせに」
カヤネは、自慢そうに鼻をひくつかせた。
「まーね。
ミラーハウスに入ってきたときと出てきたときで中身がちがう、とかっていうの?
私、そういう話、信じてないから」
でも、こんな私でもさ、と彼女は声を低めて続けた。
「ま、ちょっとビビったときもあったよ」
「うわあ、楽しみ!」
私は思わず本音を漏らしてしまった。
強気なカヤネが『ビビる』ほどのことってどんなことだったのか、聞いてみたくて仕方がなかった。
カヤネは、にやにやとしながら話しだした。
「あれは閉園間際でね。
最後に、だれも残ってないか私が点検しにいったの。
まあ、大体は誰もいないのよ。
ミラーハウスって人気ないから、夕方くらいからほとんど客が入らないの。
なので気楽に何も考えず歩いてたのよね。
ミラーの位置なんかは、もう目をつぶってても分かるくらいにはなってたし。
そしたらさあ。
角を曲がったら、エプロンドレスの双子の女の子が、手を繋いで立って微笑んでるの。
なにも言わずに、じっとこっち見ててさ。
もう、びっくりしすぎてさあ。
なにこれ、シャイニング? って思ったもん」
カヤネは、そこでフフフ、と自嘲気味に笑った。
「私も馬鹿よね!
アリスのコスプレみたいな格好をした女の子が鏡に映って双子に見えてただけだったの!
変な格好した子だなって思いながら、入り口の監視カメラを見てたのをそのとき思い出してさ。
とりあえず、もう閉園だからねって言ってその子を出口に案内したわけ。
そしたら、私を選んでくれてありがとうって意味わかんないことを言って帰って行ったの。
でも、性格は変わってないと思うのよね。
だって、アリスみたいな格好してるって、入る前から結構個性的な性格じゃん」
カヤネはまだ笑っていたが、やっと私たちの顔が引きつっているのに気付いたらしい。
「どしたの、皆? ……私、何か変なこと言ったっけ?」
私は、ゆっくりと確認した。
「ねえ。カヤネ。
その子って……いや、その子達ってさ、『手を繋いでた』んだよね……?」
全員が沈黙したまま、カヤネを見つめる。
その意味に気付いたのか、彼女は真っ青になってファミレスの机に突っ伏した。
「やだ、全然気付かなかった!
もう今夜眠れない!」