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プロローグ いつものファミレス

「それでは、裏野ドリームランド、夏期バイトメンバーの同窓会を始めまーす!」

「かんぱーい!」


 ファミレスでジョッキを打ち合わせ、私たちはぐいっとビールを呑んだ。

 冷たい液体が身体の奥まで染み渡る。

 正面に座ったラミが感慨深そうに語った。


「よく考えたらさあ、皆と知り合ってから、まだ一年なんだよねー。

 なんかもう、数年来の友達って感じになっちゃってるけど」


 そう、私たちは昨年夏、裏野ドリームランドの短期バイトで知り合った仲間達だ。

 私、ユリ、トシ、カヤネ、ラミ、ショウ、マユカ。女五人に男が二人。

 このファミレスはドリームランドのスタッフ入り口近くにあって、ジェットコースターの柱が外灯に照らされてうっすら浮かんでいるのがよく見える。

 バイトが早上がりの日には、ちょくちょくこのメンバーで飲みに来て、仕事の愚痴や恋バナ、大学の専攻の話なんかをしたものだった。


「まさか、一年たたずにドリームランドが閉園になっちゃうとは思わなかった」


 遠い目をしてジェットコースターの骨組みを見ながら、ユリが語った。


「そうか? 俺たちが働き始めた頃から、けっこう空いてたよ」


 と、その隣のトシが早くも半分ほどビールを空ける。


「ま、そーよねぇ。

 遊園地やテーマパークは一杯あるんだし、こんな小さくて寂れた遊園地なんて近所じゃなきゃ行かないでしょ。

 私だって、短期バイトで去年行かなきゃ、小学校の遠足で行ったきりだったんだから」


 そう言ったカヤネは酒に弱いので、対照的にちびちびと飲んでいる。


「隣町にシネコンが出来たのが痛かったよな」


 と、ショウが眼鏡をくいっとあげて分析した、とでもいうような顔をした。


「このメンバー大好きだったから、三回生になっても一緒に働きたかったのにね」


 マユカが悔しそうに言った。

 皆が口々に話したいことを話しているが、私には今日、重大な目的があって皆を同窓会に呼んだのだ。

 私は皆に聞こえるように、手を振って叫んだ。


「はーい、まだ皆、素面のうちに聞きたいことがありまーす!」

「どしたのコノミ? いつも一番飲む癖に」


 左隣のマユカが、肩までの茶髪をかき上げて聞いてくる。


「私ね、前々から裏野ドリームランドの七不思議に興味があってさ。

 ほら、あったじゃん、七不思議!」


 皆の顔がぱっと明るくなり、また口々に話し始めた。


「そういやあったね! 事故ったジェットコースターとか!」

「変な生き物がいるアクアツアー!」

「そうそう、城の地下が拷問部屋とかも、ミラーハウスで人格が変わるっていうのもね」

「誰も乗っていないのにまわるメリーゴーラウンド!」

「出してって声が聞こえる観覧車っていうのも聞いたことある!」

「まって、今幾つ出た?」


 皆で指折り数えて確認する。

 ショウが太い眉を寄せて首を捻った。


「六つか。あと一つ、なんだっけ?」

「あとは……子供がいなくなった話」


 私が言うと、それそれ! と皆から合いの手が入った。

 皆の気持ちが七不思議に集中したところで、私は本題に入る。


「ねえねえ、この七不思議ってさあ。

 よく考えると、皆の担当場所なんだよね」


 私は右隣から、一人一人指を差していく。


「ユリがジェットコースターで、トシがアクアツアーの係員だったでしょ。

 ミラーハウスがカヤネで、ラミがドリームキャッスル。

 ショウがメリーゴーラウンド、観覧車がマユカ。

 そしてあたしが迷子・遺失物受付係。

 よく考えてみたら、すごい偶然じゃない?」


 右隣のユリが目を丸くする。


「うわ、ほんとだ」


 私は含み笑いを漏らした。


「もしかして……皆、ウワサの真相を知ってるとかさ、ないかなぁなんて?」


 ふふふ、と私に負けず劣らず意味深な笑みを浮かべるトシ。

 ちなみにトシは留年組で、バイト歴も一年先輩だ。

 外見は頼りなさそうなチャラ男で頼れる感じはしないけど。

 うーん、と考えこむラミはゆるふわ系の女の子で、なにを考えているのか外見では判断がつかない。


「自分の担当の場所のことだけは……知ってるんだけどね」


 長い黒髪をしたユリが重い口を開いた。

 私も、俺も、という声が後に続く。

 やっぱり、と私は嬉しくなった。私の勘は当たっていたのだ。

 当時から七不思議についてのウワサは流れていたものの、皆バイトでもスタッフの端くれ。

 話していいことと悪いことはわきまえている。

 でも、もうあの遊園地は廃園してしまった。

 だから、オカルトマニアの私としては、裏野ドリームランドにまつわる七不思議の真相を知りたいという好奇心を押さえることができなくなってしまったのだ。

 私は自分でも満面の笑みを浮かべていると知りつつ、提案した。


「じゃあさ、皆で話してかない?

 私だって他の担当のことは知らないし。

 裏野ドリームランドの七不思議の真相を、皆でシェアしようよ!」」


 そうだね、という賛同の声とともに拍手が上がり、私は笑顔で右を振り向いた。


「えーとね。

 私が一番気になってるのは——ジェットコースターの話!

 だって、ジェットコースターの事故ってふつう大惨事でしょ?

 なのに、私たちスタッフも全然真相知らないんだよ?

 ネットには席から放り出されて身体が柵に突き刺さったとか、鉄骨のレールが落ちてきて下のレストランの客を押しつぶしたとか、変なことが一杯書かれているけどさあ、そんなことになってたら閉園以前にトップニュースだよね。

 だからさ、ユリから右回りで話していこうよ!」


 ユリは大人しそうな顔に苦笑いを浮かべ、長い黒髪をいじりながら言った。


「そっかぁ。でも、私の話は……けっこう重いよ?」

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