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拝啓、御年八十六歳
さくさくとした地面と
吠えることのない真っ白な秋田犬に
感動してはしゃいで乗っかって
手を冷たくして笑いたい
慣れない香りと白い煙と
ポケットに左手を突っ込んだ影を
一生懸命に追いかけて
上手く逃げられて拗ねたい
今はもう使われてない紙幣と
綺麗にコレクションされた切手の
原価以上の価値を想像しながら
炬燵の中で眠りに落ちたい
思い出されるのは保存された表情
ぶり返す喪失感でプラスチックコップができて
いまだ熱い寂しさが溜まってく
思い出されるのは硬直した足の裏
思い出されるのはゆったりとした瞬き
好きだった
好きだった
好きだった
私はたくさんの瞬間が
大好きだった
ごめんなさい、ぶり返しました