言葉の力
2020年、日本の財政赤字は1500兆円を超えた。
原因は個人消費の落ち込みで、景気停滞を招いたからだった。
T大学の太田教授がこの停滞の原因を追及した。
「その原因は消費税だ」と発表した。。
この時、消費税は社会福祉に充てることを名目に15%達していた。
でも、そんなこと分かっている、とサラリーマンでも言いそうだ。
「税率の%のじゃない。
消費税という言葉自体だ」
と太田は取材に来た記者に答えた。
「言葉?」と記者は思わず繰り返す。
「消費税という言葉から、消費は罪悪と感じてしまう。
節約ということもあるが、この罪悪のマインドも景気停滞の一因になっている」
「じゃあ言葉を換えればいいんですか。
例えば、福祉税とか」
と記者は質問した。
「そうです。
それで幾分消費は活発になるでしょう。
でも、そうなることはありません」
「どうしてですか。
簡単なことじゃないですか」
記者は渋い顔をした。
「政府はその税金をいろいろな所に使いたいからです。
福祉税と言ってしまったら公共事業に使えません。
でも老人ホームとか箱モノを作れますがね」
太田教授は記者に微笑んだ。
その記事が世間で話題になった。
翌年、政府は重い腰を上げ、消費税を福祉税に変更した。
その影響でか、個人消費が上向きを見せた。
このタイミングで政府はもう一つ税の名前を変えると発表した。
『累進課税』である。
この名称を聞くと、どうも富裕層はイラつくのだ。
しかし、所得格差は拡大し、税収を確保するには、
彼らから徴収するしかなかった。
そこで太田教授が一つの案を提案した。
「累進課税の名称を変えるだけでいい」
政府はこの提案を受け入れた。
2022年、格差維持税が導入された。
それから、高額所得タレントは、税金が高いとテレビで言わなくなった。