第8話 追跡
その後二人で公園で会う事にした。
先に待っていた美麻は公園脇にあるベンチに座っていて、僕が来るのに気付くと
「どうだった?」
とさっそく聞いてきた。
僕はリカコと話した内容、彼女が思ったよりも悪い印象でなかった事、そして最後に言った忠告もちゃんと伝えた。
ナオトへの反感もあり、リカコの肩を持ち過ぎる位に説明に力が入ったが、美麻はそれらを素直に聞き、
「あたしも誤解してたかもしれない」
と言った。
彼女の中でリカコの印象が少し変わったのかもしれなかった。
こういう時素直に自分の否を認める潔さが彼女にはある。
普段は割とひねくれてるくせに偉いなと思う。
最後に「代わりに行ってくれてありがとう」と言った。
美麻といい、リカコといい‥最近の僕の周りはなんだか賑やかだ。
木根とかといると毎日が平和で平凡なのに美麻たちと関わっていると出来事まで派手になってくる。
僕は極力目立ちたくないタイプなので、こうもいろんな事に巻き込まれるのは正直疲れてしまう。
地味系男子にはハードルが高すぎるのだ。
美麻は今度の休みにナオトと会い、問い詰めてみると言っていた。
僕はあぁそう、と一度は聞き流したがなぜだろう、自分でも本当によく分からないのだが当日は昼間からいそいそと出かける準備をした。
面倒な事になると分かっているのにどうしても気になってしまい、こっそり後をつける事にした。
駅で未麻が来るのを待ち、電車に乗るのを見て僕もついて行った。
夜の渋谷はどこも人であふれかえっていた。
街を行く人々は皆薄着で、近付いてくる夏を心待ちにし浮かれている様にも見えた。
クラスの中には休みの度に渋谷で遊ぶ者もいるようだが、僕にはまったく縁がない場所だ。
駅前に出ると、テレビでしか見た事がない細長いファッションビルやスクランブル交差点を目の当たりにする。歩く途中で何度も人と肩がぶつかった。
街を歩くだけなのに、何か強い意思を持って挑まないと人の流れに飲まれてしまいそうになる。
僕は何度か見失いそうになるが、派手なピンクのワンピースを目印に追った。
そしてこれだけの人がいても彼女はどこか存在感があり、目立っていた。
駅前は待ち合わせ場所になっているのかたくさんの人で賑わっていた。
未麻がその中へ入って行き、向った先に数人の男女のグループがいて更にその中にナオトらしき男がいた。
一緒にいる仲間のリーダー的存在なのだろうか、彼は目立って見える。
深くかぶったニット帽の間からは金髪が見え、僕は未麻が突然髪を金色に染めて学校に来た事を思い出した。
未麻に呼びかけられ、彼が立ち上がった。思っていたより体は細く、背が高い。
きりっとした顔立ちは女達から受けがいいだろう。これは確かにモテそうだ。
そうか、僕は今ナオトに嫉妬を感じているらしい。
遠くから相手を冷静に観察しながらも、腹の奥底でひそかに闘志を燃やしている自分に驚いた。
しばらく仲間と談笑をしていた様だったが、やがて軍団を離れて美麻とナオトが二人きりになった。
僕もつかさずついて行く。
暗がりでよく見えない。
お似合いの、仲のよさげなカップルだった。
二人の影が近付くとキスをしているようにも見えた。
僕は何をしているのだろう。こんな所まで後をつけてきて、ストーカーまがいな事をして。
今更ながら自分が虚しく思えてきた。
もう帰ろうかと思い背を向けた時、未麻の荒らげる声を聞いて僕は振り返る。
いちゃついているのではないらしい。
何か言い争っている様子だった。男は冷静に対応するも美麻が一方的に問い詰めている感じだった。
と、不意にナオトが彼女の胸ぐらを掴んだ。
そして手を振り上げ、美麻の頬を叩くのを見えた。彼女の体がよろめいた。
僕は目を疑った。力で勝る男が女を殴るというのか。信じられない。
好きな人が目の前で、他の男に叩かれていたら体も飛び出すというものだろう。
「手を離せ!」
言うよりも先に僕は走り出していた。
マイペースに更新していきます。。