1/2
episode0魔界のヨゾラ
菖蒲色の空に、閃々と輝く星々。
何年も見上げて来た空はもう見慣れているのに、まるで名も知らぬ場所へ来た時のような緊張感と、未知なる胸の高鳴りを感じるのはどうしてなのだろう。
これから行く世界なんて自分じゃ想像できないし、ずっと不安で胸が押し潰されそうだった筈なのに…そんな事も忘れてしまったくらい、今夜の魔界の空は美しかった。
「“彼”の存在は吉なのか、それとも…」
その先の言葉は、ひゅるりと身体をすり抜けていった風に攫われてしまったけれど。
今は…それでも良かった。
大好きなこの世界をこの目で、身体で、感じていたかったから。
「……いってきます」
誰に呟くわけでもない少女の言葉は真暗闇に溶けて、消えていった。
その姿と共に、ひっそりと――