ヒロインの戯れ言日記
1日目
私ってきっと神様に嫌われているんだ。だって、友だちにもらった命より大切なシャーペンをなくしちゃったんだもの。12歳のとき、誕生日プレゼントとして美々子がくれた、黄色いシャープペンシル。中学が別々だけどこれさえあれば美々子と私は繋がっていられると思ったのに。美々子、一体どこに行っちゃったのよ!私に連絡先も教えず黙って行くなんて!卒業式の日もアルバムにお別れのメッセージ書きっこしないまま、私の机の横を素通りしていったよね?心の中じゃすっごく寂しかったんだからね!
そんな美々子からもらったシャーペンをなくしたのは、もしかしてもうあなたのこと忘れなくちゃいけないってことなのな…そうか、そうかもしれない。きっとこれは神様が意地悪したんじゃなくて、いつまでも過去にとらわれていないで前に進みなさいって後押ししてくれているのかもね。
わかった、私、もう振り返らない。美々子との美しい思い出は過去のものとして、新しい仲間と新しい思い出を作っていくよ。でも、美々子のことは忘れないからね。いつかまた、あのシャーペンがひょっこり私のもとへ帰ってきて、美々子と私を引き合わせるかもしれないから。でもそれまでは、さようなら。私の永遠の友だち、美々子。
…あれ、美々子じゃなくて美香子だった、かなあ。えっと、名字はたしか田中、田中美智子だ。美智子、夏祭りのくじ引きの屋台で何回もはずれてたくさん持っていたシャーペン、私にもくれてありがとう。使い心地はあまりよくなかったけど、1年持ったからはずれの景品としては当たりだと思う。さよなら、顔も思い出せない過去の友だち。
2日目
今日はとてもすごいことがあったから、ぜひとも日記に書いておかなくちゃいけない。私、部活の先輩に、なんと、付き合ってほしいって告白されたの!!今までこんな経験なかったから、すごく戸惑っちゃって、「ちょっと考えさせてください」って言っちゃったの。先輩、困った顔してた。バカだよね、あんなにかっこいい人から告白されるなんて、この先の人生でたぶん二度と訪れない奇跡なのに。ぐずぐすしてると私が先輩のこと嫌いだって勘違いされちゃうかも。ああでも、自分から話しかける勇気なんてないよ!どうしよう!?
3日目
昨日の続き、勇気を振り絞って書くね。
今日の放課後、音楽室の鍵が開いてなくて教室の前でうろうろしていたら、タイミング悪く先輩も来ちゃった。鍵は部員の誰かが持ったまま行方がわからなくなったらしいの。もう私もう気まずくて仕方なくて、「やっぱり用事があるの思い出したから今日は帰ります」ってその場を離れようとしたの。そしたら、先輩は私の腕をがっちりつかんで「まだ昨日の答えを聞いてない」って、真剣なまなざしでこっちを見るの。私もうテンパっちゃって!でも、振り切って逃げることなんてできなかった。先輩の手は怖いくらい力強かったから。そしてね、白状することにしたの私の本当の気持ちを。
「ごめんなさい!私やっぱり先輩には付き合えない!だって…」
だって私、音楽室の鍵をなくした犯人を知っているんだもの。だから…
「鍵をなくした犯人捜しになんて、付き合えません!!」
精一杯声を張り上げたら、先輩はびっくりして私の手を離した。そのすきにダッシュ!!
しょうがないじゃん、これも友情を守るためだもん!!
4日目
私って最低な人間だと思う。とうとう友だちを裏切るようなことしちゃった。これまで2週間、友として励まし合ってきた友だちなのに。中学に入って最初にできた、気の合う友だちだったのに。でも、悪いことしてたら止めてあげるのも友情だよね…だから、思い切ってこう言った。
「いくら自販機におつりが残ってたからって、ネコババしちゃだめだよ!!」
その後こっそり私があの自販機の前に戻ったこと、どうか気づいていませんように…
5日目
部屋の掃除をしていたら、懐かしいものが出てきた。こ、これは…!なくしたと思ってあれだけ探したのに、いまさら出てくるなんて!本当に大切なものって、意外とすぐ近くに転がっているものなんだね。どうして今まで気づかなかったんだろう?
これで明日、やっと部室に入れるぞ!
6日目
不思議なことってあるもんだね。あれほど鍵がないって騒いでたのに、今日になって何事もなかったかのように音楽室のピアノの上においてあったんだから。音楽室にはいたずら好きの妖精が住んでるんだよ、なんて言って先輩は笑ってた。きっと誰かがうっかり持ち帰ってなくしちゃって、怖くて言い出せなかったけど、やっと見つかってこっそりおいておいたんだろうな。でも先輩のそういうところ、私はとても好き。これで男だったら間違いなく片思いしてるところなんだろうねーってほかの子たちと一緒にため息ついた。
でもこれで先生たちからの風当たりも弱まるだろうし、いちいちコワモテの教頭に頼んで教室を開けてもらわなくて済むし、本当によかった。何だか肩がぐっと軽くなっちゃった!もういたずらしないでね、妖精さん!
7日目
死ぬ…死んじゃう。頭が割れそうに痛い。せっかく学校も部活もお休みなのに、私の頭の中ではいたずら好きの妖精がフル稼働で暴れまわっている。誰か彼を止めて!
私がどんな悪いことをしたっていうの!?大切な友達のシャーペンをなくしちゃったこと?違う、美々子はこれといって親しい仲じゃなかったの!そりゃあ同じクラスだったけど、1年で何回か会話した程度だもの!
先輩を無意味に焦らしたこと?無意味じゃない!私が鍵を握っている張本人だったんだもの、怖くて返事ができなくても仕方のないことでしょ!
友だちには人のお金盗るなって注意したのに、あとで自分のポッケにこっそりしまったこと?私は別に悪くない。落ちていたお金を拾っただけ!そうでなくてもどうせ次に飲み物を買った人が持っていったでしょうよ!
ああ神様、こんなに正直に生きている人間に対して、この仕打ちはあんまりです!これからも変わらず正直に生きていきますから、どうか助けて!!
37.5℃じゃ明日には治ってる可能性が高いじゃない!もっと高熱じゃないとうちのお母さんは欠席を許してはくれない…
8日目
つらっ!風邪マジつらっ!バカみたいな日記書いてないで早く寝ればよかった…日記とはいえ嘘が大きいと罰当たるわー
もうやめよーっと
9日目
誰にも言わないつもりだったけど、それじゃどうしても気持ちを抑えられないからここにだけ書くことにしよう。私ね、今朝音楽室で先輩が妖精と話してるところをみたの…