嘘と本当。
蒼ちゃん!ー
紺は走って蒼に駆け寄る。
待ちなさい!ー
蒼の前に1人の女性が立ちはだかる。
あなたね?
蒼に色目を使う、色男は!ー
え?…別に色目は…。ー
紺はいきなりの出来事に、
まだ理解ができなかった。
あの…蒼とはどういう?ー
紺は恐る恐る聞いた。
私は安田 藍梨。
蒼とは小学校からの幼なじみよ。
あなたは蒼とは付き合えない!ー
藍梨は大声で怒鳴り、紺を睨みつけた。
なんなんだ…この子は…。ー
紺はそう思い一時は怯んだが。
負けじと言い返した。
単刀直入に言う。
俺は蒼ちゃんが好きだ。
誰に何を言われようが、
この気持ちが変わる事はない。ー
ん……。ー
紺の真っ直ぐな瞳に、一瞬藍梨は言葉を失った。
が。すかさず言い返す。
…わかったわ、あんたの気持ちは。
でも蒼の秘密を知れば、必ずあんたも
蒼を捨てるに決まってる…。誰であろうと
蒼を傷付ける奴は、私が許さない!
だからあんたに蒼は…渡さない!ー
ちょっと待てよ!何だよ秘密って、
俺は蒼ちゃんが何を隠していようと
捨てたり、傷つけたりはしない!ー
どん!
2人の言い争いを止めようと、
蒼が近くのテーブルを叩いた。
そして蒼は持っている紙を2人に見せた。
2人共もうやめて。
みんなが見てる。ー
紺と藍梨は我に返った。
ごめん、蒼ちゃん。ー
ごめんね。蒼。ー
蒼はニコッと笑い、
2人の手を取り、座ろうと誘った。
3人は喫茶店の入り口から
窓際のテーブルに静かに座った。
ん?もしかして、今…。
俺達の会話が聞こえてた?ー
紺は不思議になり、蒼にこう尋ねた。
蒼ちゃん、もしかして耳…聞こえるの?ー
蒼は下を向き、黙って頷いた。
いつから?もしかしてずっと?ー
紺は優しい口調で蒼に問う。
蒼は泣きそうな顔でまた黙って頷いた。
蒼は!ー
見かねた藍梨が立ち上がり間に入る。
蒼は、別に好きで
聞こえないのフリをしてたんじゃないのよ。
私が教えたの。
ナンパされた時は黙って頭を下げろってね。
そしたら大抵の男は諦めて立ち去るわ。
なのに…なのにあんたは!ー
ごめん、でもどうしてすぐに言ってくれなかったんだ?ー
言える訳がないじゃない!
蒼は本気であんたに惚れてる…惚れてしまったの!
もし言って、今の関係が壊れるのが嫌だったのよ!ー
ちょっとごめん、藍梨ちゃん。ー
紺は愛梨を座らせ、じっと蒼を見つめた。
…蒼ちゃん、実は俺も君に秘密があるんだ。
少し長くなるけど聞いてくれるか?ー
蒼は泣くのを我慢して頷いた。
俺が物心がつく頃に、
妹が交通事故に遭ってあってしまってね。
あまり妹との記憶がないんだけど、
仲が良くて大好きだったんだ。
しかもその妹が君にそっくりなんだ。
だからあの時、声をかけてしまって
あの時は一目惚れかと思ったんだけど。
あとから妹に似てるから…って
名前も君と同じ『蒼』って言うんだ。
好きとかじゃなくて
兄としての愛情って言うのかな…、
自分でもよくわからないんだ。
でもこれだけは言える、今は蒼ちゃんが好きだ。
もう離したくはないんだ。
だから俺と付き合ってくれないか?ー
蒼は紺の真剣な瞳を見て
頬を赤く染めてモジモジしていたが、
藍梨がまた割って入る。
何よあんた!ただのシスコンじゃない!ー
シスッ…ちげーよ!
俺は蒼が好きなんだ!ー
長々とくだらない話をー
くだらないだと!?ー
紺は初めて強い口調で藍梨に怒鳴る。
蒼は妹の代わりじゃないのよ!
それに蒼はあんたとは付き合わない!ー
君に聞いてるんじゃないんだ。
蒼ちゃん、君の口から直接聞きたい。
どう思ってるか教えてくれるか?ー
紺はまた優しい口調に戻り蒼に問う。
……。ー
だが蒼は何か言いたそうではあるが喋ろうとしない。
蒼はあんたとは喋らないわよ。ー
藍梨ちゃん、君は何でそうやって、
俺と蒼ちゃんを引き裂こうとするんだ?ー
私は『ある人』に頼まれているのよ。
蒼を見守るようにってね。ー
蒼、もう行くよ。ー
藍梨は蒼の手を取り店を出ようとした。
おっ、おい!
どこの誰だよ!『ある人』って!ー
紺は立ち上がり、藍梨に問いただす。
だが愛梨は気にもとめず店を出る。
蒼は紺の方を一度見るが涙を浮かべて、
涙で濡れた紙をそっと紺に渡し、店を後にした。
紺は渡された紙に目を通す。
…なんだよ。ー
紙には『嘘をついてごめんなさい』
『でも本当に好きでした』と書いてあった。
好きでした…って過去形かよ。ー
紺は独り言のように呟いた。
俺も嘘をついてたんだ、
でも本当に好きだった、いや今でも好きだよ。ー