青と紺。
猛暑の中、汗を垂らし歩く男。
照り付ける日差しの中、
前から歩いてくる女性が目に入る。
艶のある黒髪で、髪の長い
青色のワンピースを着た、綺麗な女性
あの、よかったらお茶でもー
気が付けば声をかけていた。
その女性は、はいとも言わず、拒否もせず
笑みを浮かべ、黙って頭をさげ
立ち去っていった。
男はその瞬間、恋に落ちた。
走って女性を追いかける男。
待って!名前だけでも!ー
男は必死に尋ねる。
………。ー
何も話さぬ女性。
もしかして耳が聞こえないのか?ー
男はそう思い、
持っていた手帳に文字を書いた。
はじめまして私の名前は村木 紺です
よかったらお茶でもいかがですか?ー
女性はニコッと笑い、
紺の持っていた手帳を手に取る。
はじめまして私の名前は斉藤 蒼です。ー
蒼ちゃん?
青色が好きなんだね、服も青色だよね。ー
蒼と紺は手帳で会話しながら、
近くの喫茶店に入った。
蒼ちゃんは大学生?ー
はい、大学2回生です。
紺さんは、おいくつですか?ー
大学2回生なら19歳?
俺は22歳のサラリーマンだよ。
今日も営業の外回りで近くの会社に…
文字を書く手が止まる。
あっ!俺!まだ仕事中だった!ー
そう叫び、紺は立ち上がった
ごめん、まだ仕事中なのを忘れてたんだ
また連絡していいかな?ー
紺はそう手帳に書くと、自分のアドレスを
手帳の端に書き、千切って蒼に渡した。
蒼はニコッと笑い、頷いた。
それを見た紺は嬉しそうに、
喫茶店を飛び出した。
数日後。蒼から紺にメールが届いた。
お久しぶりです。蒼です。
この間はありがとうございました。
楽しかったです。ー
紺はすぐに返事を返した。
久しぶり、メールが来なかったから
嫌われたかと思ったよ…。
でもメールをくれてありがとう。
俺も楽しかったよ。ー
その日は日が変わるまでメールが続いた。
それから2人は何度も会い。
出会ってから1ヶ月が経った。
2人はより親密になり、デートを重ねた。
出会ってから4度目のデート
蒼ちゃん、実は俺、手話で話せるんだ。ー
そう紙に書くと、紺は手話で話し始めた。
僕の名前は紺です。
蒼ちゃん、何か食べたいものはありますか?ー
紺は蒼の為にこの1ヶ月で
手話を必死に勉強したのだ。
蒼は笑って紙にこう書いた。
紺さんはすごいですね。
手話もできるなんて、でもごめんなさい。
私、手話は得意じゃなくて…。ー
書き終わると蒼は哀しげな表情を見せた。
別にいいんだよ、これからも紙に書くから。ー
紺は笑ってそう書いたが、心の中では
凄くショックを受けた。
あぁー、もっと親しくなれる思ったのにな…。
紺は心の中で呟いた。
それからまた数週間。
蒼は紺と会えば会うほどに
哀しい顔をするようになった。
それに気づいた紺は
ゆっくりお茶でもしながら話さないか?ー
と、蒼にメールを送った。
4日後、日曜日の正午に
初めて会った喫茶店で待ってるね。ー
待ち合わせの日までに、
紺と蒼はメールを何十通もやりとりした。
だが……。
4日後、待ち合わせの日。
喫茶店には蒼の姿はなかった。
おかしいな、今日…だよな?ー
紺は何度もメールを読み返した。
2時間、3時間、幾度待っても蒼はこない。
紺は蒼にメールをした。
待ち合わせの日は今日であってる?
もしかして何かあった?ー
だが蒼からは返事はない。
もう来ないかぁ…。ー
1人ため息を吐き、店を出ようと立ち上がる。
その時、
カラーンコローン
喫茶店のドアが開く。
紺が店の入り口に目をやると、
そこに蒼が立っていた。