白昼夢<被験体No.12>
私は、この世界を一つにしようと企んでいたが、どうや らこの世界自身それを望んではいないようで、対照的なこ とをすると、片方は何時も、暗闇によって壊されてしまう ように、片方は光の影響で壊れてしまう。 私は、この光と陰の世界の調和でバランスがとれた感覚を 理想的とし、一つにしようと企んで実験を繰り返している 平凡な一人の男だ。 私は、神でもなく、哲学者でも、科学者でもなく、政治家 でもなければ、革命家でもない。 ましてや、金もなければ、サラリーマンでもない。 理想的な世界を想像する八年前までは、女とは、良く遊ん でいたし、寝ていたりもした。
唯一、この理想的な世界に置いて、私に理解できることと 言えば、不完全であり、歪みやすい。 そして、私自身、体が半分、精神も半分しかない。 それでどうやら私自身ができているようだ。 この体になってから、私は、更に、下半身を気にするよう になっていた。私は良くも悪くも、女とセックスしたその 夜、私が寝ている間に、ペニスを女に噛み千切られてしま うなんてことを、想像、若しくは、夢の中で考えてしまっ てたことは何度もあるが、いざ、事実上での肉体的恐怖体 験を味わってしまうと、そんなことはどうでも良いと感じ てしま ったことを今でも鮮明に思い出せる。
「はぁ…。」とぽつりと溜め息を吐くのは、私ではなく 、両隣にいる黒い雨合羽を身に纏い、黒いサンダルを履い た双子の姉妹。 この世界とどうしてもお友達になりたいと。なんとも奇妙 な格好した、双子の姉妹。 双子の一人が突然、「甘いお菓子食べたいわ。」と言い始 めた。そうするともう一人の方が「甘いものと辛いものな ら、辛いものが食べたいわ。」と言う。 何時も通りの喧嘩が始まった。 黒い雨合羽二人はお菓子が大好きなようで、何時もお菓子 のことで喧嘩を始めてしまうのだ。 「どおして、何時も、辛いものばかり求めるのよ。 私が何時も甘いもの食べたいって言っても、あなたは何時 も辛いものを求めるの?それって、とっても不公平じゃな い。私は、何時も、甘いものを我慢しているのよ。あなた の為に。痩せすぎるとみっともないわ。」と姉のような黒 い雨合羽がもう一人の妹のような黒い雨合羽に子守唄のよ うに言い聞かせる一方で、「どおして、何時も、甘いもの ばかり求めるのよ。甘いものなんて、どろどろの砂糖の塊 で、ご飯に合わないじゃない!辛いものなら、ダイエット にも効果的なのよ?それを理解しなさいな。あなた最近、 ふっくらしてるわよ。肥満になったら、みっともないわ。 」と妹のような黒い雨合羽がもう一人の姉のような黒い雨 合羽に歌を歌い上げて、反撃してみたようだ。 二人とも、お菓子好きなのは、毎日の喧嘩から理解してい るが、私を間に挟んで毎日、同じ歌のようなモノで喧嘩す るのは、雑音に等しい、例えるなら、 パチンコ店に入っ たことのある人ならば理解できると思うが、そのパチンコ 店のあの雑音のなかでヘッドホンまたは、イヤホーンを耳 に掛けて、ヴィーメタル、ハードコアロックを音量マック スにして聞いている感じだ。時々、女の声は甲高く、超音 波も発しているのではないかと私は思っている。そんなこ とを考えていると、鼓膜までもが心配になってきた。この 世界に置いて私が完全に歪みなく人としての形を持った姿 で存在していたとするならば、とうの昔に耳すらも無くし てしまったのではなかいだろうかと思って耳元、若しくは 、耳に近い形をしたモノの辺りを右手でゆっくりと触れて みた。それに近いものを発見した。耳があれば、人は鼓膜 がペットボトルの付属品のように、或いは、金管楽器のト ランペットやらのマウスピースのように装着されて しまっているように、日本では、愛情が平凡で平凡が平和 であるようにごく自然な形で鼓膜が付いてきているとごく 当たり前のように感じてしまい、勝手に想像してしまって いるようだ。 この双子の歌のような会話は、聞くと表現するよりは、 私の精神自体が、黒い雨合羽の双子の姉妹と繋がれてしま っていると表現した方が正しいと思う。それの方が鼓膜が ないとしても、表現力が乏しい私にとっては単純な表現法 で誰かに伝えることができるはずだ。 私はこの身体になってから鏡を随分と長い間確認していな いような気さえしてしてくる。鏡がないこの世界では自分 の姿など確認できることがない故に、私自身体については 自分である筈なのに自分ではないのではないかと、相当疑 心暗鬼になってしまっている。しかし、この世界ではそれ すらも理想的になってしまうようだ。
「はぁ…」今度の溜め息は私だ。最初に話した通り、世 界が一つになれば良いと私は思う。利益や権力の為ではな いし、私の為でもないのだが。その世界が一つになればな どと考えている時点で、それは私の我が儘であり、単なる エゴイズムであるだけなのかもしれない。私は、エゴイス トではないけれども。人間らしい体でもないので、自己が あるようで全く持って無に等しい。そう表現すると、他人 からは性欲だけが付きまとうおぞましい生物を想像されて しまうかもしれないが、私には関係ないことだ。 歪な形であれ、人間らしい体ならば、下半身については私 も男なのだと言えるし、一種のアイデンティティとも表現 できるのだろうがこの世界にとっては、私は理想郷を創造 する為の歯車でしかないのだろう。 それについて私は溜め息をぽつりと静かに、何処までも深 緑に濁った空を見上げてから今度は深い溜め息をもう一度 吐き出してみた。
一つのことを真剣に考えるのは、難しいです。此処まで読んでくださった読者様に感謝します。