凶刃にかかる
第三回小説祭り参加作品
テーマ:剣
※参加作品一覧は後書きにあります
毎月第二土曜日の夕方から喫茶「Loss」に集まって私たち元葉那比女子高校文芸部の卒業生はお茶会を開くことになっている。
「遅いなぁ」メンバーの一人、栗素紅が言う。
「まあ、仕方がないよ。またあの子旅に出てるんじゃない。よく時間あるねぇ。」そういったのは半田院二江。
「時間ぐらいいくらでもあるでしょう?」そう言ったのが私、森須留帆である。
「それはあなたが独り身だからでしょう。それ以外に旅行に行けるとしたら、それは旦那が旅行好きだった時ぐらいよ。」
「ぐっ、それはそうなんだけどさ・・・。」紅が痛いところをついてくる。私だけがこのメンバーの中で未だ独身なのだ。
「いい人とかもいるのでしょう。早くあなたも結婚すればいのに。」普段私にいじられている二江もここぞとばかりに私いじりに参加してくる。
「ええと…、まあそのうちね・・・」何とかごまかしつつ話題を変えようと悪戦苦闘していると、
「ごめんよ皆、おまたせしたね」
女性にしては少しハスキーな声。
「「遅い」」紅と二江の声が重なる。
「旅行先でトラブっちゃってね。一日にそう本数の無い飛行機に乗れなくなっちゃってね。」
そういって二人に謝っているのか謝っていないのかよく分からない遅刻者が轟玖珠。この四人がいつもここに集まっているメンバーである。
「遅刻の話はもういいわ。今日の語りはあなたの番よ、玖珠。何か面白い話を持ってきたんでしょうね。」二江が言った。
「ああ、今日はその遅刻した理由にもなったとある事件の話をしようと思うんだ。」
「ふーん、それは興味深いかな。」少年のように目をキラキラさせながら紅が言う。
「まあ、面白そうだね。どんな話なの?」そう私が聞くと、玖珠が置いてあった水を飲みながら答える。
「そうだね。何から喋ればよいのかな。
ああそうだ、今から一週間ほど前、嵐がやってきていたのに気がつかず、車で立ち往生した状態で右往左往していた。その時にとある町にあった古風な日本家屋に泊めてもらったのだがね・・・」
【以下玖珠の話】
私が右手側にあった車のドアを開けてその地に降り立った時、嵐のせいもあったのであろうがその光景は異様に思えたんだ。
「私の家がどうかなさいましたか?」前から自分の車で先導してくれた好々爺然としたAさん(今後人名はプライバシー保護も兼ね名前のイニシャルとさせてもらう)にそう尋ねられたんで
「いえ、まさかこちらでこんな立派な日本家屋を見られると思いませんでしたから」
そういってお茶を濁しておく。さすがに住んでいる本人の前で「洋の家ばかりが並んでいる土地にこんな家が建っていると違和感しか感じない」とは言わない分別ぐらいは私も持っていたのだよ。
Aさんは自分の話をよく聴き、流ちょうに相槌を打っていた私のことを相当気に入ってくれたみたいでね。出会ってからそう間もないのに様々なことを話してくれたんだ。「和のものを集めるという趣味が高じてこの家を建てたこと」、「妻が数年前に亡くなったため成人した子供二人と同居していること」。そして、「その兄妹も自分と同じくものの収集癖があるということ」、屋敷に着くころには既にAさんのこういったことについて詳しくなっていたね。いやはや趣味人は語りだすと止まらないのがたまに傷だよ。
そういえば、Aさんの家には住み込みのハウスキーパー、いやこの場合家政婦と言った方がそれらしいかな。・・・まあいいや、とにかくそういう人も一人いてね。その人と少しトラブルを起こしてしまってね。
でもまあトラブルと言っても大したことじゃあないんだ。その女性・・・確かBさんといったかな。Bさんの言葉は方言が強くてね。こちらの言葉は分かるみたいなんだがBさんの言葉はほとんど分からない。AさんはBさんに後のことを任せて先に行ったきりだったし、どうにもしようがないんで私が教科書通りの標準語で、「訛りなしで喋れますか?」と訊かざる終えなかった。そしたら少し変な言葉ではあったものの意思疎通はなんとかできるようになるまでにはなったんだよ。
ああ次は・・・そうだ、家の中の話だったね。ついてすぐ私らが泊まる部屋を含めて室内を案内してもらったんだが、子供二人の部屋が洋室だったこと以外は特質して変わったところのない和風のお屋敷だったよ。ああでもせっかく広い屋敷なのに、畳の上にソファーとかテーブルとか置くのは、「いい部屋がなくて無理やり家具を置いている日本のアパート暮らし」みたいでもったいなかったけれどね。ええと、後言い忘れてることは・・・、ああ私が泊まった部屋かい?お座敷の中央に堂々とダブルベッドが置いてあったね。ははっ。
はじめて二人のお子さんたちに会ったのは、確か夕食に呼ばれた時だったかな。「普段着で良いですよ」とはAさんがBさん伝いに言ってくれたんだけど、そういわれて乗り物での移動中に着ていたような、動くのに楽な服装で食事させてもらう訳にもいかないだろう。なので、少ない荷物の中からそれなりによそ行きな服装を引っ張りだしていたら時間をかけてしまって約束丁度ぐらいの時間帯に指定された部屋にいったんだ。でも私らがトップだったみたいで部屋にはまだだれも来ていなかったかな。そこから数分経ってからAさんが、そこからさらに何分か経ってからBさんに連れられた息子のCさんが来たかな。それでBさんに簡単に挨拶をしていると、ちょうどBさんとAさんの娘のDさんがキッチンから現れたのには驚いたな。なんせ、家政婦がいるのに娘さんが家事を手伝っているように見えたからね。理由を聴いたら、Dさんの趣味が料理だからだと言われたよ。
もう少し変わった理由かと思っていたから少し不満そうな顔をしていたんだろうね。
「他人の家の都合に面白くなさそうな顔をするなよ」とちょうど通りかかった彼に注意されたんだよね(苦笑)。
夕食の時間は楽しいものだったね。私はBさんとDさんの三人で恋愛の話や料理の話をした。まさか堺の包丁の話でここまで盛り上がるとは思わなかったけども。男連中は別の話で盛り上がっていたみたいだ。ちなみに男たちの話は、「日本の話」、「車の話」、「スポーツの話」とそれぞれの趣味の話をしていたらしい。まったく、男同士の話というものは分からないものだね。そうして食事も終わった頃、Aさんに食後に部屋に来ないかと誘われたので一度部屋に戻ってからで良ければと了承し、BさんとDさんに跡片付けを頼んでそれぞれ部屋に戻らせてもらったんだ。
少しラフ目の服装に着替えてから部屋を出たのだけど、Aさんの部屋が分からないことに気がついてどうしようかと思って立ち止まっていた。その時、丁度BさんとDさんが仲よさそうに連れ立って歩いて来たので二人にAさんの部屋までの道のりを聞いたんだ。そうしたら、Bさんは用事があるようだったのでDさんが案内をしてくれたんだ。
「すみませんね、泊まらせてもらった挙句色々として頂いて。」
「かまいません。それに私や兄も父の趣味について行けるほどの話ができないのでよく知る方々とお話が出来て喜んでいますし、私や兄も趣味の話を聞いてれる方が少ないのでありがたいです。」そういってDさんとAさんの部屋につくまで語りあった。
目的の部屋に着き、トントンとノックをした。
「やあいらっしゃい、おやDも来たんだね。ちょうどいい、お前もまた見たいだろう。」
「どうせ最近買ったあれを見せるんでしょう。私もう何回も見たし遠慮しておくわ。」
「いやいや、あれの魅力は一回見ただけではなかなか伝わらない。何度も何度も見てこそ芸術の奥深さを知ることが出来るんだ。」
「だから…、まあいいわ。今日までだからね。」AさんとDさんの掛け合いの末、結局Dさんも私たちと一緒にAさんの収集品を見せてもらうことになったんだ。あれ、言っていなかったっけ私たちはこの部屋にAさんの収集品の中から見せたいものがあるらしいので来たんだよ。
まっ、まあとにかくだ。先に席をすすめてもらった私の正面にDさんは座り、その隣に座ったAさんが喋りはじめた。
「私の趣味を分かってくれるのは子供たちぐらいだから他に見せる人もいなくてね。あなた方なら私の趣味についても造詣が深いし、これを見ても分かってくれるのではないかと思ったんだが。」
そういって席を立ったAさんはしばらくして細長い長方形の箱を持ってきた。
その木製の箱を開くと中には一振りの刀剣が収められていた。
「刀か・・・」ぼそりと呟いた声に即座に反応したのはAさんだった。
「そうですよ、これこそが私が昔から求めていた日本刀です。何度か本場の刀匠から取り寄せようとしたこともあったんですが、運輸の都合が上手く行かなかったのでなかなか手に入れることが出来なかったんですよ。それが偶然、骨董屋で見つけましてね。それで…
」
「お父さん!」Dさんの声によってそれまで饒舌であったAさんが黙った。
「お父さんが喋りたいのも分かるけど、せっかくお客さんに来ていただいたんだからちゃんと見てもらったらどう?」
「ああ・・・。」娘の鶴の一声によってシュンとしてしまう父親がそこにはあった。
「すみません。自分の趣味のことになるといつもこうなってしまって。」
「いえいえ、そんなことはないですよ。自分の好きなものについて語りたくなるのも分かります。私自身も食事の時にあなたのお兄さんとお父さんと趣味について長々と話してしまったぐらいですし。」
「そう言っていただけるとありがたいです。」そういってDさんは頭を下げたのが強く印象に残った。
Dさんのおかげか、ちょっとした気まずい雰囲気もなくなった。そうしてしばらく集まった皆で談笑した後、それぞれの部屋に戻ることとなったんだ。そういえば、帰る途中にBさんにあったなぁ。そこでBさんと少し話をしたんだけど、Bさんは刀について何も知らないようだったんだ。Aさんの趣味の合わない人との接し方が分かったように思えたし、自分たちとの認識の違いを強く感じたよ。
部屋に戻り、ベッドの右側に寝ころんだ私はそのまま、何の音も気にならないぐらいぐっすりと寝入ってしまったんだ。
朝になってひとり目が覚めると、思っていたよりも時間が経っていた。なんと集合時間の30分前。いくら少し位時間が遅れても許してくれているお国柄の人たちであったとしても、女性が用意する時間と比べると許してもらえるのかが微妙なラインだったんだよね。
なんとか化粧を含めた用意を終えて、急いで夕食を食べた場所と同じ場所へ向かった。
食堂には先にCさんとBさんが来ていた。私が起きる半時間も前から二人して座っていたらしい。
挨拶をかわして、席に座りながら質問をした。
「そういえば、AさんとDさんはまだ来ていないのですか?」
「Aさんはまだ部屋に、Dさんは一時間ぐらい前からキッチンにいるみたいですよ」
「そうですか・・・。」私はそう言って、この部屋からは見ることのできない二部屋を見ようと廊下の方に首をのばした。やっぱり見えない。
それから数分が経ち、流石にAさんが来るのが遅いとの話になった。
「さすがに父も来るのが遅いな。B、呼んできてくれるか?」
「ああ、はい。分かりました。」Cさんからの頼みでBさんが動こうとするので私は言った。
「CさんもBさんも動かなくて良いですよ。ここは泊まらせてもらった恩もありますし、泊まった人間でAさんを迎えに行きますから。」
そう言ってギギィと二つの椅子を動かし、席を立った。
Aさんの部屋に向かう途中、食堂からは出入りが見えないキッチンの様子をもののついでにと覗いてみると、Bさんが料理の用意に肉を切っている様子が分かった。一心不乱に料理をしているようだったので、あえて声をかけず、私たちはAさんの部屋に向かったんだ。
うん、そこからミステリ好きの君たちなら分かるね。そう。Aさんは何者かに刺されて死んでいた。
私は部屋から一人駆けだして、部屋に来なかったみんなに知らせたんだ。Aさんが殺されている、と。
ああ、なんで殺されているかが分かったのかって?それは刺殺されていたはずの遺体から凶器が持ち出されていたからさ。まあこの場合は自殺の後に別の人間が持って行った可能性もあるけど、今回の事件はそれじゃなかった。Aさんを殺した犯人と凶器を持ち去った犯人は同一だった。
因みにAさんの死亡推定時刻はだいたい私たちが部屋にいた頃だったみたいだよ。
それに、部屋の中にあった刀は箱の中に納まったままだったそうだよ。前の晩にかたずけたまま開いた形跡はなかったみたい。
「ここまででこの事件のあらましは終わり。この事件を君たちは解けるかい?」
玖珠はメモ帳を閉じながらそう言った。
「うん、最後の人をなめ腐ったような発言を抜きにすると面白い話だと思うよ。」二江がそう言った。
「面白いっていうのも不謹慎じゃない?実在した人物がなくなっているんだし。」私はそう言ってたしなめた。
「まあどちらにしても」紅はそう言って私たちの会話を遮って言った。
「今の話の中に犯人はいるのでしょう?」
「ああ、犯人は私の語った中にいる。」玖珠はそう言ってうなずく。
「一つ聞いていいかな」
「なんだい」
「これは玖珠は犯人を分かっていて問題を出しているの?」
「ああ、これはもう解き明かされた事件だよ。」二江の質問に玖珠は簡潔に答える。
「なんでそんな質問をしたの?」こっそり二江にそう聞くと、
「だって問題を解くのに出題者が答えを知らないのって興ざめしちゃうでしょ。」という答えが返ってきた。
まあそうなのだけど、やはり不謹慎な気がするのだけどなぁ。
しばらくの時間が経ち、「「分かった」」の声が重なる。
二江と紅の声だ。
いつものように探偵役を買って出たのはこの二人だ。
「では、お二人さんに推理を頼もうか。」玖珠はにやりと不敵な笑みを浮かべてそう言った。
「じゃあ、私からはじめていいかな?」二江が言う。
「レディファーストで」
「いや、あんたも女でしょうが。」紅のボケに私がツッコミを入れるという締まりのないところから二江の推理ははじまった。
「さて、まず気になったところは今回、玖珠が旅行に行ったところよ。
いかにも日本のように描写をされているようにも思えるけれど、あちらこちらに違和感があるわ。
まず気になったのはAたちが住んでいる住居についてよ。
日本家屋がある場所に違和感を感じたり、こんなところにあると思っていなかったと言っていることを考えると、少なくともここは日本の国内じゃないんじゃないかという考えが浮かんだわ。だって、今では日本家屋を見ることが少なくなったとはいえ、違和感を感じるほどの場所に建つことはないでしょう。
それに家の中も日本風の間取りや部屋のつくりをしながら、日本風でない家具の配置のコントラストが違和感を出していたわ。
玖珠たちが話していた言葉についてもおかしいところがばかりだわ。
少なくとも自分の母国語のことを『流ちょうに話す』とは言わないし、いくら方言があっても同じ国の言葉なら全く分からないといったこともないでしょう。
『教科書通りの標準語』っていう言い方も母国語を話していると考えるとおかしくなってしまうわ。
日本じゃないことを決定的に感じたのはAの不可思議な行動からですわ。
Aが日本じゃないところ、つまり海外に住んでいると考えると、日本家屋を建てたことや日本刀などの収集を趣味にしていたことから見てそうとうなお金持ちのはずよ。
それなのに初対面であった玖珠たちを家に招いたのは玖珠が日本人であったからというのが大きいのではないかしら。
日本人だったからこそ、Aは日本の話を聞きたがったし、自分の趣味をも理解してくれると考えていたのでしょう。
これらを総合してみると、物語の舞台が日本であるということは言えなくなるわ。
一つ目の考察は以上よ。」
二江の推理がひとまず終わり、私は玖珠を見る、笑みはまだ終わっていない。
続いて紅が口火を切った。
「じゃあ、続いて私の考えを聞いてもらおうか。
玖珠の話の中には明確には語られてないけども登場している人物がいる。
まあ、私たちの会話の中でも出てきたけど、多分それは玖珠の旦那さんだよね。
確か夫婦そろっての旅行好きだったから今回の旅も一緒でもおかしくはないよ。
それに玖珠以外の人物がいたっていう明確な証拠もいくつかある。
まず、いくつかの玖珠が会話したとは思えない幾つかのこと。
例えば、夕食時の男性たちの会話。玖珠自身は他の女性たちとの会話を楽しんでいたのに話が成立している。特に並立されている趣味の数が一人一つずつだと考えると、少なくとも三人がこの会話に参加していたことになる。AとC以外に男性の描写がされた人物はいないわけだから結果として玖珠の旦那さんが話に参加していたと考える方が良いだろう。
それに加えてさっきの二江の推理から、物語の舞台が海外であることを考慮すると車は左ハンドルであることが予想され、それに『右側から降りた』と言っている玖珠がいるため運転席には玖珠以外の人物、つまり旦那さんが存在したと考えたんだ。
これで私の考えは終わりだよ。」
紅の話も一段落する。でもまだ推理は終わっていない。玖珠の表情を見るといまだに笑みを浮かべている。
再び二人は口を開いた。
「私と紅の考察から、Aを殺した人物を推理していくと自ずと犯人は明らかになってきます。
もちろんAを殺した犯人は、Dになります。
どうして彼女を選んだのかというと、一番大きいのはアリバイがないという点です。」
「BとCは二人して話していたからアリバイがあるのはもちろんのこと、玖珠とその旦那さんも二人以上でずっと行動していたからアリバイがある。その間、誰にも見とがめられることなくAのところに行けたのはキッチンで一人料理をしていたDだけだ。」
「そしてAを殺した凶器の行方はどうなったのかという問題になりますが、凶器はキッチンにあります。あれだけ玖珠が存在をアピールしていた日本刀はただのブラフです。
Dはキッチンにある包丁でAを刺殺したのです。」
「Dは一人、包丁を持ち出してキッチンを離れ、Aの部屋に向かいます。朝食が出来たからとか何とか言って部屋の中に押し入り、Aを殺害。布巾で血の付いた包丁を包んでキッチンまで持ち帰り、流し場でどちらも洗ってしまう。布巾の血は洗っても完全には取れないだろうけど、料理で肉を扱っていたのならそれを吹いたからと言って赤いシミは多少ならごまかせる。包丁は水で流した後、そのまま使ってしまえば、もう血なんて分からなくなる。」
「これで私たちの推理は終わりです。」「何か間違っているところはあるかい?」
二人の推理が終わった。
玖珠は拍手をする。
これで、玖珠が私たちに語った事件は解決した。
終わらない夜がないように、楽しい時間は過ぎ去ってしまう。
お茶会という幻想は現実によって儚くも消える。
帰る途中の駅で、今日は用事があるからと言って、いつも一緒に帰っている上り線に乗る二江と紅の二人と別れ、玖珠と二人で下りの電車を待つ。
ガタンゴトン
通過してゆく列車の音が響く。
「なんであの事を言わなかったの?」私は玖珠に言う。
「何のことだい」はぐらかすかのようにいう玖珠。
全てを分かって言っているのだろう。
「はぁー」と一つの溜息をつく。
もう幻想には戻れない。
覚悟はだろうか。
大きく息を吸って玖珠に向かって言う
「あなたの旦那は一月も前に死んでいるっていうことを」
そう考えると今回の事件に対する見方は全くと言って良いほど変わってくる。
まず、彼女の旦那が聞いたことはすべて彼女の行ったことになり、旦那がいたからこそ成立した朝にAの部屋に行った時のアリバイが、旦那がいないとなると途端にAを殺した犯行の時間へと早変わりしてしまう。
そうしてAを殺害した後、全員をAの部屋に呼び出すために戻り、凶器を台所に隠す。DはA並のマニア気質なのであれば料理用具も充実していただろうし、すぐには分からないだろう。
私は私たちの幻想を打ち砕いた友人を見つめる。
彼女は私に向かって不気味な笑みを浮かべた。
久しぶりの小説でしたがいかかだったでしょうか。
実はお茶会のメンバーがミステリ作家から取っているので少し考えるのも面白いと思います(実はこれを考えるのが一番楽しかった)。
ただ剣の要素をもう少しうまく使えてればなぁ、とは思いますが・・・。
第三回小説祭り参加作品一覧(敬称略)
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