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趣味人な魔王、世界を変える  作者: 海蛇
1章 黒竜姫
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#3-2.残念なエルフの姫君

「戦場において、エルフは弓を得意としていると聞いたが――」


「あ、はい、その通りですわ」

思案の結果、とりあえず別の話に変える事にした魔王。

セシリアもそれを感じ取ったのか、すばやくそれに反応する。

「ダークエルフは一体どんな戦い方を得意とするのかね?」

魔王は、この唯一対応がまともそうなエルフの姫がリーダーポジションなのだと見て話を進めた。

魔王の思惑のままに、セシリアは問いに対し可愛らしい唇を開く。

「ダークエルフは剣、斧、槍……その他、近接戦闘で活用できるあらゆる武器を使いこなします」

「ほう、そうなのか、流石戦闘向きというだけの事はあるね」

エクシリアはだんまりだが、照れくさいのかうつむいてしまう。

最初以外あまり話していなかったが、あまり人と接するのが得意ではないのかもしれない。

「そういえば、君達エルフは元々は一つの種族だったのだと聞いたが、何故三種に分かれたのかね?」


 エルフとは狭義ではセシリア達『普通のエルフ』の種族名だが、広義では三種族全てをまとめての『エルフ種族の総称としてのエルフ』である。

だが、元々一つの種族だったエルフが、何故分派し、生活形態も文化も違うように変化していったのかを知る者は少なく、魔族も人間もそれに関しての研究は推測の域を出ない段階である。

何気なく聞いたようにも見えるが、魔王は実は人類学の進歩をナチュラルに推し進めていたのだった。


「元々は私達が最初のエルフだったのですが」

セシリアは少し考えるように目を瞑った後、開き、説明を始めた。

「その中で、ある日、突然変異で肌の浅黒い子供が生まれるようになったのです。それがエクシリア達、ダークエルフの先祖ですね」

「突然変異で黒くなるとは珍しいな……」

色素異常で色が白くなるアルビノ化という突然変異は知っていた魔王だが、その逆を行く黒色変化がある事は知らなかった。

「私達の先祖も困惑したらしいですが、エルフはご存知の通り長命なので、突然変異種の子供も徐々に数を増やしていったのです」

「ん……もしや、ダークエルフは差別的な理由で集落から追われた者の生き残り、とかかね? だとしたら――」

 

 聞いてから、もしやと思い魔王は後悔した。

突然変異種というのは、時として神の遣いだとかで持て囃されるが、逆に「普通と違うから」という理由だけで他とは比較にならない差別を受ける事も少なくない。

そういった理由でダークエルフが分派したのだとしたら、エクシリアがいるこの場ではこれ以上話をするのはよろしくない。

そう判断し、魔王が気を遣って話をやめようとした辺りで、セシリアは首を軽く振った。


「いえ、私達エルフはダークエルフを差別なんてしていませんよ」

セシリアがエクシリアの方を見ると、エクシリアもあわせるようにうんうん、と頷いた。

「それどころか、エルフの中には、ダークエルフの強さに憧れを抱く者もいるくらいです」

何せ出世頭ですから。と。笑うセシリアの顔には陰もなく。心からの、他意の無い笑顔だった。

「ああ、そうなのか。ならいいのだが。いや、つまらない邪推だったな」

「いえいえ。ですが、ダークエルフは戦闘を好む性質上、そのままエルフの集落に居るとお互い不幸が起きてしまうからと、話し合って別々の集落で暮らすようになったのです」

同意の上ですよ、と、すまし顔で続ける。

「そのまま、ダークエルフは自分達の集落で順調に数を増やし、一つの種として確立したのです。人間とも関わりが深く、外の血を入れるのも容易かったですから」

「なるほどなあ。戦闘向きの性質が功を奏したわけか」

「仰るとおりですわ。実際、現代においてはダークエルフの数は三種族で一番多くなっていますから、正しく進化だったのではないかと」

大元の種族であるエルフがダークエルフを迫害しなかったのは正しい判断であっただろうと魔王は考える。

それによってエルフはダークエルフに敵視されず、淘汰される事なく、こうして共存が成り立っているのだ。

彼女達の先祖は彼女同様聡明であるらしい、と。


 ダークエルフに関して興味のある部分は一通り説明を受けられたが、続いてどうしたものかと魔王はグロリアを見る。

魔王としては、ハイエルフに関しての情報がまだあまり得られていないので、知りたいとも思うのだが、逆に嫌な予感もするのだ。

魔王の視線に気づいたのか、グロリアはにっこりと、例のとても良い笑顔で返す。

まるで「さあ次は私の番ですよ、どうぞ聞いてください」と言わんばかりに。

本当に言いそうだから怖いのだが。

「……」

「……」

その笑顔によって余計に不安が増し、魔王もセシリアも黙ってしまった。

「さて、そろそろ一通りの話も終わったし、私は休ませて貰おうかな」

「あ、はい。本日はありがとうございました」

「ちょっと待ってくださいっ!?」

何事もなかったかのように終わらせようとした魔王とセシリアであったが、ハイエルフの姫君はそれをよしとしなかった。

「なんで私の、ハイエルフの事は聞いてくれないのですかっ!?」

「いや、さっき十分聞いたし……」

適当にごまかして終わらせようとする魔王に激昂するグロリアがいた。

「いいえっ、さっきの話では全然話せていません。精霊の話だってまだしてませんしっ!!」

椅子から立ち上がり、すごい剣幕でまくし立てるその様は、もうなんというか、残念な美人と化していた。

「せ、精霊……? 何かねそれは……」

全く聞きなれない単語が出てきて、魔王はつい聞き返してしまう。

しまったと思ったときにはもう遅く、「我意を得たり」とにたりと笑うグロリアの暴走が始まった。

「精霊というのはですね、世界のあらゆる場所に存在する、私達のパートナーと申しますか――」

「グ、グロリア、もうやめましょう、ね? いい子だから。さ、帰るわよ」

「つまり、精霊は私達の大切なお友達なのです。運命共同体なのです」

制止しようとするセシリアを背の高さで無理矢理かいくぐり、グロリアは魔王の前に立つ。

「お友達なあ……エルフなら見えるものなのか?」

「見えますっ」

「見えないわよっ」

「見えませんっ」

二対一。見えるのはハイエルフだけらしい。

「というかそんなの居ませんからっ、全部ハイエルフの妄想ですからっ」

「そうなのかね?」

「まあっ、セシリアさん酷すぎます!!」

止めようとするセシリアも必死だ。言葉を選ばなくなっている辺り本気で止めたいらしいのが伺える。

しかしそれでもグロリアの暴走は止まらない。

「陛下、精霊は万物に宿り、至る所に存在しますわ、ほら、陛下の後ろにも……」

「わ、私の背後にもいるのかね!?」

衝撃の展開だった。魔王は思わずラミアと二人、後ろを見てしまう。当然だが、玉座の裏には何も居ない。

「だから居ませんって」

「グロリア様、これ以上、あまり変なことは言わない方が……」

セシリアだけでなくエクシリアまで制止に加わる。

最早一言たりとも喋らせたくないのだろう。エルフではない魔王やラミアからも、見ていれば解るくらいには切迫していた。

「二人ともひどいわ。陛下、ほんとにいるんですからね? 陛下の背後に、四対の翼を持った、恐ろしい形相した女性の守護精霊が――」

「そ、そんなのがいるのか!? そんなのが私の後ろにいたのか!?」

魔王も思わず絶叫してしまう。マジビビリである。

「ああもうこれ以上話さないでーっ!!」

セシリアも絶叫してしまう。

「グロリア様、ご容赦を!!」

何を思ったか、エクシリアは真顔でグロリアの頭部に手刀を打ち込む。右斜め45度だ。

「はぅっ――」

一撃で昏倒する。折角の美女だったが、どさっ、というありがちな音と共に顔面から地面に落ちた。

「……」

「……」

唖然としながらも見守る魔王とラミアであったが、よくよく考えるとエクシリアはお手柄だったのだと気づく。

「あー……すまんが、疲れたから下がってくれないか?」

これを好機として、魔王は場の解散を進めた。

「はい、お騒がせして申し訳ございませんでした」

「これで失礼します」

二人の姫君は深々と頭を下げ、グロリアの暴走を深く詫びた。

魔王も本当に疲れたのでそれ以上追求するつもりもなく、無言で頷く。

倒れたグロリアはエクシリアが片腕で抱え、そのまま三人の姫は退室していった。



「……なんか、疲れたな」

「ええ、そうですね」

「黒竜姫の時もそうだったが……なんで私の前に来る姫というのはこんなのばかりなのだ?」

「さあ……」

ラミアも疲れきっているようだった。無理も無い。

「ああそうそう、陛下、忘れていましたが――」

「何かね?」

「あの三人は、今日からこの魔王城に滞在する予定のようです」

とても重要な事だった。そして驚愕の事実だった。

「……何故今更思い出したんだっ!?」

「すみません。もっと早く言うつもりが、あの三人があまりにアレだったので……」

ラミアとしても、今回の三人は奇妙すぎたというか、不慣れなタイプだったらしい。

「滞在って、何をするつもりだ」

「何でも、元々あの三人は陛下の室に入れるために寄越されたのだとか」

室。つまり妾である。体の良い人質という側面もあり、人間はよくそういった理由で王族や貴族等に女性を寄越すらしい。

「人間みたいな事をするなあ。魔族にはそういった風習は無いのだが」

「私もそう説明したのですが、本人達が『それでは帰れません』と頑なに言い張るので……」

「……」

仮にも魔王軍の最高幹部であり、魔界においてNo.2の権勢を誇るラミアがこれである。

魔王は、やはりラミアは内政には不向きなのではないかと本気で思ってしまった。

「というか、私は妾を寄越されても、手を出すつもりが全く無いんだが」

確かにあの三人は美しかったし可愛かったのだが、魔王は食指が動かなかった。

「それは聞き捨てなりませんね」

ラミアはというと、どこからかめがねを取り出し付けていた。

偉そうにふちをぐいぐいと押しやっている。とても偉そうだ。

「陛下、今まで会戦の準備やら戦線の安定の為やらで忙しくて口出しできませんでしたが、陛下は何故女に手を出さないのですか?」

「いや、私は別にそういった事をしたくて魔王になった訳ではないし……」

「何を仰いますか陛下。魔王たるもの、酒池肉林の快楽漬けの毎日を送っていただかないと」

まさしくダメ人間ルートである。

「代々の魔王は、それこそ魔界中、いえ、美しければ人間や亜人の娘すら誘拐して我が物としていた程ですのに、陛下は何故そんなにも無欲なのですか!?」

「そんな、他の魔王がどうだったからって、私がそうでなきゃいけないというのはないだろうが」

「いいえ、この点に関して私ははっきりと申し上げます。女をお抱きなさいまし。そして次代を担う子を孕ませるのです!!」

実にはっきりと言ってのける。日ごろの無気力ぶりが嘘のように、今のラミアは熱くなっていた。

「なんでそんなに力説してるんだ……」

「私、こういった話題は大好きなのです」

「ああ、なるほどな」

それだけで魔王はもう納得できてしまった。

蛇女は、というか、ラミアは好きな物には熱中するタイプなのだろう。

だからそれ以外にはあまり真面目に取り組まないしザルだし無能なのだ。

魔王は自分の一番の部下の性能をようやくはっきりと認識した。

やはり適材適所というのは大切なんだなあと思いながら。

「先代の魔王など、魔界のあらゆる種族との間に子を儲けた程なのです。それほどとはいかずとも、そろそろ一人二人、そういった相手を作っていただかなくては困ります」

「私は別に死なないからいいじゃないか」

魔王としてはいい迷惑である。趣味に没頭するのに忙しくて女にかまけている暇などないのだ。

「良くありません。それでは陛下が同性愛者なのではないかと噂が広まりますわ」

「それは……ちょっと避けたいな」

流石に魔王もそっち方面の趣味はなかった。

魔界において、同性愛は極度に嫌われる傾向にある。

どちらかというと人間や獣人に受け入れられているイメージがあるこれらの行為・性的嗜好は、個々の繋がりがそれ程強固ではない魔族からみて実に不可解で不愉快なものであった。

そういう噂が立つのは魔王としてもできれば避けたかったのもあり、少し考えてしまう。

「ですので、口実作りの為にも、これからはできるだけ部屋から出て、若い娘と接してくださいませ」

「う、うむ……実際に手を出すかは別として、そういう努力はしよう……」

魔王も不承不承、頷かざるをえなかった。


 こうして、魔王城にはラミアの手引きにより、内政勤務要員兼魔王の妾候補として選りすぐりの美しい娘が配置されはじめた。


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