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趣味人な魔王、世界を変える  作者: 海蛇
2章 賢者と魔王
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#4-4.怪我の功名

 後日、ラミアは調査結果の書類を手に、魔王に報告をしていた。

ラミアが手にしている物とは別に、魔王の手元には原因調査を詳細に、かつ解りやすく説明した書類が配られており、これに平行してラミアの説明が始められていく。

「まず、先日のキメラの異常増殖の原因ですが、これは以前、魔王城が襲撃された際に早々に逃げ出した人間のパーティーが、偶然エルヒライゼンに辿り着き、その情報を持ち帰ったのがそもそもの始まりだったようです」

「書類によると、人間世界ではあまり話題にはなっていなかったようだな」

「はい、その時期は魔王城襲撃の報がニュースの大部分をしめていたらしく……おかげで情報をまとめるのに苦労しました」

比較的物事を公平に判断する人間ではあるが、それでもやはり、興味そそる情報を優先的に取り扱う傾向があるらしかった。

「この人間達によって転送の陣の座標が確定し、そこから湧いて出られるようになったようです」

襲撃事件からかなりの年数が経っているが、人間側の技術ではその程度の年数掛かるという事なのだろうか。

魔力が奪われる森の中に転送するのだから相応に手間隙がかかるのは間違いないのだが、やはり超長距離に対しての移動はまだまだ技術が追いついていないらしかった。

「つまり、キメラ達はそうやって転送されてきた人間を喰って増えていったという事か」

「大分前から付近の森や領地での家畜被害はある程度あったらしいのですが、その頃はいずれも被害の規模が小さく、犬の仕業だろうとスルーされていたらしいですわ」

つまり、元々犬の仕業で済まされていたものが、急に増えたから大問題に発展しただけだったのだ。

問題など、案外細かく読み解けばこんな程度のささやかな原因が元であるというわかりやすい話であった。

「だが、結果として餌に困らない環境ができてしまった訳か。ではこれからも増え続けてしまうな。対策は取ってあるのかね?」

「はい、既に転送陣の出元は逆探知によって特定していますので、これを潰します」

「どこから出ていたんだ?」

「人間世界南部の強国であるミズウリ王国です。どうやらかなりの兵力を森の攻略に回しているようで……」

それが元で森の警備員が更に増強されていくのだから世話が無かった。

「放っておけばエルヒライゼンの防衛力が強化される訳だし、勝手に敵国が弱体化していくから勿体無い気もするな」

キメラ達にしてみればわざわざ森の向こうまで出張らなくとも餌が向こうからやってくるのだから、この上ない楽園に感じていた事だろう。

ただ、やはりそうは考えても、周辺の領地にまで出没されては困るのも事実であった。

何よりそれが魔王の遊びで行われているみたいな風評が広まってしまうのはよろしくない。

「ではこうしましょう。あちらから森に対して一方的に転送されていたものを、双方向からの行き来を可能にしてしまうというのは」

「可能なのかね? 逆探知できたとは言っても、正確な魔法陣の座標まで把握できないと難しいぞそれは」

転送魔法に関してはある程度造詣が深い魔王である。

その難易度の高さは良くわかっているつもりだった。

「その辺りはご安心を。既にミズウリ王国にスパイを放っています。というより、出所もそれによって把握しました」

「魔力探知が出来るスパイか……育成期間が短かったのに良くも用意できたものだな」

カレー攻略の際に受けた痛手により、各国に回されている諜報要員もその質の向上を図っていた。

今回もそれによって能力開発を受けたスパイが役に立ったという事か。魔王は感嘆した。

「まだまだ能力開発が進んでいない分野もありますが、こと魔力の扱いに関しては我々魔族は人間より一歩先を進んでいますので」

何せ自分たちの生命力に関わる分野である、当然ながらその進捗は早いという事だろうか。

「結構な事だな。よし、その方向で行こうか。キメラを敵の街へ放ってやれ。森の警備兵から街の警備兵に昇格だ」

竜に変わる新たな生物兵器が生まれた瞬間であった。

「かしこまりました、ではそのように――」

ラミアも善くない笑顔で、魔王の言葉に礼をとった。


 こうして、ミズウリ王国は、自分達の張った転送の陣から餌の匂いに釣られ現れた大量のキメラ達に蹂躙され、混乱の後に大国の名も虚しく滅亡してしまった。

元々兵力を消耗していたミズウリ王国であるが、この襲撃は予想だにせず、主要な軍幹部や王族が皆殺しにされてしまった為、国としての体裁すら保てなくなったのだ。

襲撃により更に数を増やしたキメラは、人間世界の野に放たれ、南部のいたる所に出没するようになり、これにより南部では街の外を出歩くのは自殺行為とみなされるようになる。

結果的に南部地域の通商活動も封じられる事となり、南部諸国はこれを恐れて増え続けるキメラの討伐に貴重な軍事力を割く羽目になってしまう。

キメラの繁殖力はとても強く、犬との交雑すら可能となっている為、脅威としてのキメラは瞬く間に大陸に広まる事となる。

ラミアがここまで意図した訳ではないが実際問題南部に兵力を割く事無く南部が大混乱に陥ってくれた為、その分の戦力を他所に回すことが可能となった。

皮肉な事に、先代魔王が気まぐれでやらせたキメラ実験が元で、今代の魔王が助けられるという珍事に至ったのだ。


 尚、ラミアが事前に出した調査隊は後日の大々的な調査によって森で迷子になっているのが発見され、全員が無事生還した。

キメラ達は彼らを見つけはしたものの、警戒こそすれ襲い掛かる事は無く、その場に偶然現れた人間の群れに優先して襲い掛かって行ったのだという。

キメラ達にとって魔族は自分達を創造した主人のようなものだと感じているのか、食料というカテゴリーからは外れていたのではないかと調査隊は証言し、これによりキメラは犬よりは安全な生き物であるとみなされる事となり、めでたく魔界におけるキメラ騒動は解決されたのだった。

魔王が悪戯でやったという風評被害のみを残して。


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