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趣味人な魔王、世界を変える  作者: 海蛇
11章.重なる世界
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#E6-3.その後セシリアは三日間うなされていた

「いやー、参ったわねえ。やっと解放されたわ」

「長かったですね……シルベスタ」

ぐったりとした様子で城の廊下を歩くのは、新生四天王の座についたアーティとミーシャであった。

「ていうかさあ、ずっと思ってたけど……四天王なのに五人ってどうなの? アリなの?」

「よくわかんないです……私には、陛下のお考えになる事はなんにも……」

当たり前のツッコミを今更のように入れるミーシャであったが、隣を歩くアーティはぐんにゃりしたままであった。とんがり帽子もぐんにゃり。

「あれ? あそこにいるのってセシリアさんじゃない?」

「ん……? あら、本当ですね」

バスケットを片手に、ちょっと挙動不審な様子で城内を歩くエルフの姫君が一人。

耳をぴょこぴょこさせ、やがて二人に気付いたように振り向いた。


「こ……こんにちは。シルベスタはもう終わったのかしら?」

「ええ。色々と大変でしたが、良い経験になりました」

「私はひたすら疲れたけどねぇ。一月の間会場から出られないとか同じ面子と顔合わせ続けるとか、狂気の沙汰のように感じたわ」

ぐぐ、と、わざとらしく背伸びして見せるミーシャ。

よほど今の状態が開放的に感じられるらしかった。

「セシリアさんは、何か必要なものがあってこちらに?」

これまでも塔の娘達を代表し、セシリア達が必要な物資のメモやなんかを届けに来る事はあったので、今回もソレなのでは、と、アーティは考えたのだが。

「う……いや、その……」

腕にかけたバスケットを胸に抱きながら、段々と頬を赤らめ、縮こまってしまう。

「……?」

「どうかしたんですか?」

そんな普段と違うセシリアの様子に、ミーシャもアーティも不思議そうに顔を見合わせるが。


「その……パイを、ね、焼いたの。陛下に」

真っ赤になりながら、呟くように話すセシリアに、二人の視線がバスケットへと集まる。

「パイって、セシリアさん、まさか――」

「前に言ってたけど、告白する時に焼くんでしょ? ていう事は――」

とうとう覚悟が決まったのか、と、二人して息を呑む。


 前々から、セシリアが魔王にベタ惚れなのは塔の娘達には知れた事であった。

魔王に好意を抱く娘は塔に少なからずいるが、セシリアほどに恋慕を向けるのは他にはエルゼ位で、妾になるつもりで来た娘達も『まあセシリアさんなら』位に割り切っていた。

だが、肝心のセシリアはかなり奥手というかチキンで、アクションらしいアクションはほとんど起こせないまま現状に至る……訳だったのだが。


「――なんとなく試しに焼いたら、思いのほか上手く、焼けちゃって。その……こんなに上手く焼けることなんて、これから先、あるか解らないから」

二人の視線に耐え切れなくなってか、セシリアは俯いてしまう。

「――食べて欲しいの。受け入れられるかどうかは別としても、私の気持ちを、ちゃんと解って欲しくって」

シリアスな雰囲気に、アーティとミーシャも余計なコメントはつけられず、シン、と、場が静まり返る。

柔らかな風だけが、空気を暖めてくれていた。


「まあ、気持ちを伝えるのって大切だと思うわ」

やがて、沈黙に耐え切れなくなってか、ミーシャが頬をぽりぽり、そう呟くと。

「私もそう思います。頑張ってくださいセシリアさん!」

アーティもそれに続いて、応援の言葉を向けた。

「ありがとう、二人とも。ええ、怖くて帰ってしまいそうになってたけれど、覚悟が決まったわ!!」

そうして、二人の後押しを受け、セシリアは退くに退けない状況へと追いやられてしまっていた。

(うあああ……わ、私のばかーっ)

内心で涙目になりながらも、取り繕おうと足は前に進んでしまう。

セシリアは、やはりチキンであった。



『セシリア、私の為にパイを作ってくれないか!!』


 しかし、その足は部屋に着く前に止まってしまう。

ピクリと動いた耳が、愛する殿方の言葉を聴き取ったのだ。

「……ええっ!? へ、陛下、一体何を――」

「どうしたんですかセシリアさん?」

「何があったの?」

少し離れた場所から、セシリアの奇妙な声を聞いた二人は、また心配そうに駆け寄ってくる。

「あ、え、な、なんでも……」

目に見えて動揺していたが、取り繕おうと手を前に出し首を振る。

アーティ達にはそれが余計に怪しく見えるのだが、本人はそれどころではなかった。


(えっ、なに? なんだったの今の――)


『……いや、これでは少しストレートすぎるな。ううむ……君の焼いたパイを、私に食べさせてくれ!! こうか?』


 困惑ながらに更に耳を傾けるセシリア。直後に聞こえる、やはり魔王の言葉での愛の告白。

それも、エルフ流のとても情熱的なモノであった。

(あっ、あっ……)

不安で高鳴っていた胸が、今では感情の濁流に飲まされそうになり、爆発しそうになっていた。

「セシリアさん……?」

「ちょっと、だいじょ――」


「だ、だめぇぇぇっ、それ以上、それ以上聞いたら死んでしまいますっ!!!」


 眼を右往左往させ、耳まで朱に染まったその顔は、やがて蒸気を発したように熱くなり――

「きゅう……」

ぱたりと、そのまま気絶してしまった。


「わわっ、セシリアさんっ、セシリアさぁぁぁんっ!!」

「い、一体何が――セシリアさん、大丈夫ですか!?」

突然の事に二人も駆け寄るが、何がなんだか意味が解らない。

ただ、倒れながらも器用にバスケットだけは守っており、その中のポテトパイは無事であった。


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