#ED-2.新たな時代の担い手たち
その後、魔王ドール・マスターは、全人類と全魔族に対して、戦争終結の声明を、シフォン皇帝と共同で全世界へと発信する。
これにより、正式に人類と魔族は戦う理由がなくなり、平和への道を、共存への道を、進む事となった。
同じ道を進む事になった魔族と人間が次に考えたのは、魔族側に付きはしたものの種族的には宙ぶらりんのままの亜人種族の扱いであった。
元々、かつての住処を追われ魔界に移住した多くの亜人種族は、しかし、人間世界に混血児や同胞の一部を残したままであり、迫害されたり不遇な眼にあっている者も少なからず居た。
この問題を解決すべく、魔王とシフォン皇帝は、空白、緩衝地帯とも言える地域であったアレキサンドリア線以西、人間世界東部地域を亜人らの生活圏に据えてはどうだろうか、と、考案する。
当然、魔族世界に拠点を構えたまま、動きたくない者は居た為、ソレはそれで善いとして、という形で、希望者のみを受け入れつつも、やがてはそこが亜人達の世界、人間と魔族に連なる第三の世界になる事を目指して、人類・魔族共同での開拓事業が行われていった。
「名残惜しいです、セシリア様」
「うぐっ、ひぐっ――うえっ」
魔族世界北端・トワイライトフォレストの楽園の塔にて。
塔の入り口で、別れを惜しむグロリアとエクシリアが、残留するセシリアに涙ながらに挨拶をしていた。
「そんなに泣かないでよ……二人とも、必要があって国許に戻るのだから、仕方ないわ」
「で、でも――うぐっ」
「セシリア様、今までっ、ありがとう……ございましたっ」
ひたすら号泣するグロリアと、詰まりながらもなんとか言葉として告げ、関が切れたように口元を覆って黙り込んでしまうエクシリア。
対照的ながら、この二人との別れはセシリアにも辛いものがあった。あったのだが。
「……はぁ。確かにお別れには違いないけど。やる事をやったら戻ってくるんでしょう? なんでそんなに泣く必要があるのよ……」
大げさねえ、と、セシリアは呆れてしまっていた。
壮大なお別れのように思えたが、実際にはそんなことはなく。
ただ、ハイエルフとダークエルフは、エルフと違って拠点を人間世界東部に移すので、その手伝いで二人が呼ばれたに過ぎないのだ。
勿論、きちんと魔王に許可は取っているし、そう掛からず戻ってくる事も予め解っていた。
だから、それほどに悲しみもないし、泣くほどでもないとセシリアは思っていたのだが。
「そ、そんな事言っだって、ごれが今生の別れになっでしまうかもしれまぜんし――」
「縁起でもない事言わないでよ!? やめてよ、ちゃんと帰ってくるんでしょ!?」
「えぅっ、セシリアさん、しなないでくださーいっ」
「死なないわよっ、死なないから! ていうか貴方なに? 私が死ぬかもしれないから泣いてたの!?」
「うえぇぇぇぇんっ、セシリアさんがっ、セシリアさんが寂しくて死んでしまいますーっ」
「私はウサギかっ!?」
なんともやかましい。さっさと行ってしまえば良いのに。
そう思いながらも、でも、確かにこれが居なくなるのは寂しくも感じ。
眼の端にちょっとだけ湿り気を感じながらも、セシリアは結局、いつもの調子で二人を見送っていた。
早くに人間同士での戦争が終結した人間世界と異なり、魔族世界は、悪魔王の反乱、ドッペルゲンガーの襲来の影響が長引き、かなりの期間、混乱が続く事となった。
軍態勢を整え切れていない魔族世界は、弱体化したとはいえ地方領主らの反発によって度々火種の消火に追われることになり、軍の象徴であった四天王も、その内の半数を欠いたままではやはり威光も発揮されず、ごたごたの解決は難しいものと考えられていたが。
「四天王を再編しましょう」
玉座にて、のんびりと漫画などを読んでいた魔王に、アルルが提案をしていた。
隣には険悪な関係のはずのカルバーン。そしてアンナの姿もあった。
「再編はいいが……問題は誰を選ぶかだ。アテはあるのかね?」
確かに目先の問題を解決するに当たって、四天王を復活させるのは確実な手段であると思えた。
軍の最高権威である四天王は、各地の領主達にしてみれば相当な恐怖であり、暴走を止めるのに非常に有効である。
だが、そのなり手が乏しい。今の魔族世界は、繰り返される戦争、度重なる内乱で極度の人材不足に陥りつつあった。
「とりあえず、健在の吸血王、それから黒竜姫様はそのままでいいとして――」
「ちょっとまって頂戴、私はもう、四天王は外れるわ。器じゃないって、気付かされたしね」
折角のアルルの提案であったが、アンナはすぐ隣のカルバーンを見やりながら、その続投を拒絶した。
「そんな!? では、誰が竜族を抑える役に――」
吸血族の抑えは吸血王が出来るが、竜族の抑えは、やはり同じ竜族出身の四天王しか出来ないと考えられていた。
だからこそ、アンナの拒絶はアルルには衝撃であり、戸惑ってしまう。
「んー……カルバーンは、とても人の上に立つような感じじゃないし……そうなると、ガラード兄上でいいんじゃ? ってなるわね」
そうしてアンナが推挙したのは、忘れて久しい兄であった。
「私は、アンナちゃんが四天王から外れてくれたほうが良いわ。戦争なんかより私と遊んで欲しいし」
隣でニコニコ機嫌よさげに姉の腕を取りながら、カルバーンは勝手なことをのたまう。
「……」
それが気に食わないのか、アルルはやや厳しめな眼でカルバーンを睨んだが、それも束の間。
「では、他の二枠はどうしましょうか?」
主へと視線を戻し、その采配を願う。
「結局私に振るのか――うーん、そうだなあ。バランスとか考えると、あんまり迂闊な者はつけられんしなあ……」
どうしたものか、と、漫画を腿の上に置いて腕を組む。
「――ふむ、そうだな。よし、こうしよう」
そうして数秒考えるような仕草をした後、ぱあっと笑いながら指をパチリと鳴らした。
(な、なんだろう、すごく不安な気が……)
(何この『ロクに考えてません』感、怖すぎる……)
(陛下の事だから大丈夫だろうけど……大丈夫、よね?)
その場に居た三人は、酷く不安に駆られてしまった。
「グレゴリー様っ!! グレゴリー様っ、大変です!! 一大事です!!」
「どうかしたのかダルガジャよ。どこぞで反乱でも起きたか?」
軍団の鍛錬を高台から眺めていた蛙頭のグレゴリーは、側近が慌しく駆け寄ってきたのを見て、呆れたように苦笑していた。
「いえっ、その、これをご覧ください!!」
汗だくになりながらも手に持った紙切れを渡してくるダルガジャ。
「この紙がなんだというのだ――うん、辞令?」
落ち着かない様子の部下にただならぬものを感じながらも、手渡された紙を見、途端に表情が変わる。
「し、しししし――四天王だと!? わ、私がかっ!?」
そしてその叫びは、鍛錬をしていた兵らにも聞こえるほどに大きく、その場に響いた。
「そ、そんな馬鹿な……何かの、何かの間違いではなかろうな!? はっ、そ、そうだ、この辞令が正しいかどうか、正式なものであるかどうかの調査を――」
「大丈夫ですグレゴリー様! 既に参謀本部に確認も取っております。これは、本物の辞令です!!」
途端に混乱しそうになっていたグレゴリーに、ダルガジャが押さえつけるようにはっきりと伝える。
「あ、あああ……わ、私が、私が、四天王などと……」
まじまじと辞令を見て、そうして、その最後に記された魔王の印、魔王軍を示す赤の軍鑑を見、感極まっていた。
「陛下は――陛下は、私に、四天王になれと仰るのか――このグレゴリー、受けたご恩をいつ返せば良いのかわからなくなってしまった……」
くくく、と、男泣きながらに。眼をぐしぐしと撫でつけ、しばし沈黙してしまう。
「――だが!! 命じられたのならば、この役目、受けようではないか!! ダルガジャよ、こうなったからには貴様も覚悟を決めてもらうぞ!! 死するその時まで、この四天王に仕えよ!!」
やがて眼を見開き、叫ぶ。怒号が響き、兵らもダルガジャへと視線が集まった。
「ははぁっ!! このダルガジャ、命に代えましても!! わ、私めが、私めが、四天王の側近など……一族の誉となれるなど、こんなに名誉な事はありません!!」
その場に跪き、ダルガジャは熱く応えた。直後、歓声が上がる。
「新四天王グレゴリー様、ばんざーい!!」
「われらがグレゴリー様、おめでとうございます!!」
「ダルガジャ様、これからもついていきますぞっ!!」
「新たな魔族の英雄だ! 前線の英傑に、栄光あれ!!」
「魔王軍ばんざーーーーいっ!!」
兵達の士気は、うなぎのぼりであった。
グレゴリーもダルガジャも、悪くない顔でそれを見、勇ましき兵らに手を振り、これに応えた。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
更に湧き上がる。心地よい風が、漢達を祝っていた。
「いよう久しぶりだなミーシャ。元気してたか?」
「あら師匠。まだ生きてたのね。とっくに死んだと思ってたわ」
人間世界中央部・ベルクハイデ。
元勇者・リットルが独立領として預かるこの街は、以前ほどではないとはいえ、ひとかどの街として、活気を取り戻しつつあった。
そんな中、彼が迎えたのが、長らく魔族世界に居たままだったミーシャ姫、それから――
「その、初めまして、リットル殿」
新緑のとんがり帽子を被った、ウィッチであった。
「ああ、初めまして、えーっと、アーティさん、だったかな? うちの馬鹿弟子とは仲良くしてくれてたようで」
「むむ、馬鹿弟子とは何よ!? これでも私、今ではあんたより強いんだからね!!」
馬鹿にしないで頂戴、と、ぷくーっと頬を膨らませるミーシャ。
「――ふふっ」
師匠の前ではすぐに素が出るのがおかしくてか、親友のそんな様子に、アーティは楽しげに笑っていた。
「魔族世界から勉強に来るっていうからどんなのが来るのかと思ったら、まさかかつての弟子とこんな可愛いウィッチだとはな」
「アーティに色目使ったらただじゃおかないわよ」
「使うかっての。俺はロリコンじゃねぇよ」
かつての師弟コンビは早くも視線をぶつけばちばちと対立しつつあった。
それというのも、アーティが可憐なのがいけないのだが。
「気をつけなさいよアーティ。こうは言うけどこの男、城内では知らぬ者がいない程に色んな女喰って回った色情狂だから」
「誤解生むような言い方するな! 人より女心をつかむのが上手いだけだ!!」
なんともかみ合わない事を言いながらも、二人して自分に迫ってきていて、アーティはちょっと引いてしまう。
「二人とも、落ち着きましょう」
手を前に「ちかいちかいちかい」と、困惑するアーティ。
「師匠がアーティに変な事言うのが悪いのよ……普通に挨拶すればいいだけなのに」
「はん、お前相変わらず『普通』に拘ってるのかよ。ほんとつまらん奴だな。もっとはっちゃけちまえよ」
妙に仲が悪いのか、でも距離が離れたりはせず、顔をつき合わせての言いあい。
そこまで険悪でもないのでは、と、アーティは分析するが。
「もう拘ってないもの! 私、自分のコンプレックスくらい解決してるもの!! この、アーティのおかげで乗り越えられました!!」
びしぃ、と、親友を指差しながら胸を張る。少しだけ大きくなっていた。
「それはお前の努力じゃなくて、そのアーティさんのおかげじゃねぇか。お前何もしてねぇじゃんよ」
「うぐっ!?」
そして、それでも師匠の方が上手なのか、容赦のない突っ込みにミーシャは固まってしまう。
「あ、あの、そんな事ないですよ……? ミーシャ、すごくがんばってましたし。魔法だって、沢山使えるようになりましたから」
そんなに責めないであげて、と、アーティも間に入ろうとする。
「――そん位、知ってたさ」
だが、リットルは、ミーシャの師は、そんな事わかってたとばかりに息をついていた。
「お前の才能なんて、誰より早く見抜いてたし。だけどな、才能がドンだけあったって、それを使う心がコンプレックスまみれじゃいつか暴走しちまう。だから、お前には高位の魔法は覚えさせなかったんだよ」
解ったか、と、試すように見やりながら。
だが、やがてその表情を崩し、アーティを見た。
「――ま、それも乗り越えられたっていうなら、大したもんだよ。お前はその才能を遺憾なく発揮できる、発揮させてくれる、そんな相棒を見つけられたって事なんだろうからな。いや、立派だよ、ミーシャ」
ぶっきらぼうに笑いながらぽい、と、ミーシャに向けて何かを放り投げ、背を向ける。
「わっ……ゆ、指輪?」
あわててそれを受け取るミーシャ。掌の中で転がる赤い宝石のついたそれを見て、師匠の背を見つめた。
「――卒業だ。それだけを渡したかった。渡せなかったのが悔いだった――また会えて、よかったよ、ミーシャ」
とつとつと歩き出しながら、不器用な背を見せながら、師は勝手なことを言って離れてしまう。
「――っ、馬鹿ぁっ!! そんな事言われたら、泣いちゃうじゃないの!!」
それがもうダメだったのか、ずっと留めていたものが抑えきれなくなり、ミーシャは崩れ落ちた。
「う、うわあ……やっと、やっと、帰ってきたよう……帰って、これた……ああああああんっ」
渡された指輪を大事に抱きしめながら、号泣していた。
「はは……再会したばっかで泣くなっての。アーティさん、そいつの事、頼んだぜ。これからが、人間世界でのお勉強だから、な」
「……はい。よろしくお願いします」
とても温かな光景。とても優しい世界が広がっていた。
「――折角のいい話のところ申し訳ないのですが」
「うひゃぁっ!?」
ほんわかとした空気のまま、ミーシャの背に手を伸ばしていたアーティであったが。
突然どこからか現れたヴァルキリーに思わず涙目になって飛び退いてしまっていた。
「ヴァ、ヴァルキリーさん……? 何故ここに……?」
いきなりの登場の所為で、胸を押さえながら過呼吸気味に呼吸を荒くしてしまうアーティ。
「旦那様の『お願い』でして。この辞令を、一刻も早く二人に渡して欲しいと、私に。私自身は、エルフィリースとお茶をした帰りだったのですが」
背の翼を羽ばたかせながら、ヴァルキリーは金色の笑顔を惜しみなく振舞っていた。
「て、天使、様……?」
驚かされたのはリットルである。
突然空から、翼を生やした女が舞い降りたのだ。
「天使さまだわ」
「天使さま……」
当然、街の民も騒然となる。
「では、用件はこれだけですので、失礼しますね」
しかし、何の感傷もなく、ヴァルキリーはふわり、浮かび始めてしまう。
「あっ、ちょっ、待ってくださいヴァルキリーさん! これ、どういう――」
「空を飛んでいて、懐かしい顔を見かけました。私はそちらに用がありますので、これで」
しばしすぐ上をホバリングしていたヴァルキリーであったが、辞令を読んで困惑げなアーティに構いもせず、マイペースにそのまま飛び去っていってしまった。
「……辞令って?」
いつの間に泣き止んだのか、ミーシャがアーティの持つ紙切れに興味を向ける。
「その……とんでもない事が書かれています」
読んでください、と、なぜかミーシャにまで読ませる。
「こういうのって重要機密なんじゃ――どれどれ」
いいのかなあ、と言いながらも読む気まんまんで紙面へと眼を通すミーシャ。
『辞令――トランシルバニア領主アイゼンベルヘルト及び親友のミーシャ王女を、共同で新生四天王の第三位へと任命する――』
「……え? 何これ?」
しばし眼をぱちくり。困惑げにアーティと、近くに戻ってきたリットルとを見ていたが。
「……読んだまま、だと思います。私とミーシャが、その、四天王、に……?」
「なんだと!? おい馬鹿弟子、お前いつの間にそんな偉くなったんだよ!?」
全く理解できていないミーシャに、アーティは不安げにそれを肯定、そしてリットルは驚愕してしまっていた。
「四天王って、それ、魔王軍のだろ? いや、確かに俺より強くなってても不思議じゃないとは認めたが! お前が相手方の幹部とか納得いかねぇ!!」
「わ、私だって意味わかんないわよ!? ていうか、私が四天王って……何それ意味わかんないわ!?」
「私も混乱しています……陛下は一体何を……」
魔王陛下の謎の采配に、一堂、恨みがましげにその紙面、最後に署名された印を睨んでいた。
「ですが、こうして辞令として送られたという事は、恐らくはもう決定事項。折角ですがリットル殿、私『達』は急遽魔界へ戻らなくてはいけません」
「あー……うん、なんかよくわかんねぇけど、頑張ってくれ」
「ふぇっ!? 戻るって? 魔界って? まさか――」
「平時、四天王が代替わりした際にはシルベスタが開催されるのが魔界の法。アンナ姉様の時はそうも行きませんでしたが、今回はきっと――」
「シルベスタって何!? えっ、まさか、アーティ!?」
「帰りましょうミーシャ。貴方の故郷、もっと色々見て回りたかったですが、仕方ありません」
「気をつけてなー。がんばれよミーシャ。次に会う時まで互いに生きてられるか解らんが」
もう、全てが決まっていた。
やむなしとあっさり切り替えて受け入れたアーティ。
仕方ないなとてきとーな別れを演出しているリットル。
そして、ミーシャは――
「ちょっ、やっ、やだあっ、まだ帰りたくない! 折角人間世界に戻ったのに!! 戻ったのにぃぃぃぃぃっ!!」
――新たに襲い掛かってきた受難を受け入れられず、涙目のままアーティに引っ張られていった。
こうして急遽開催された四天王定例会議『シルベスタ』は、戦後の復興を印象づかせる狙いもあってか、厳かというよりは華やかな雰囲気となっていた。
「……ううむ。四天王、続投、はいいが」
新生四天王の筆頭として、かつてラミアが座っていた上座に腰掛けるは、現魔王体制発足から唯一生き残った吸血王・バルザック。
気障な銀髪をそのままに、足を組み、難しげな表情でその面々を眺めていた。
「何か悩みでもおありか? 義父どの?」
吸血王の左の席にて、にやりと、悪い笑い方をしながら吸血王を見るのは、新生四天王の第二位・黒竜王ガラード。
腿の上にはこの間生まれたばかりの娘を乗せていた。
「……アイギスを貴様に奪われたのは戦に負けた故仕方なしと思うしかないが……貴様に義父呼ばわりされるのは、屈辱この上ないな」
ぎり、と歯を噛みながら、しかし、それでも憎みきれないのか、ガラードの上で遊ぶやんちゃな幼子に眼が行ってしまう。
「くくく、そう言うな義父どの。アイギスはとても善い妻となってくれている。ほれ、マグテリアよ、お前のお爺様だ。可愛がってもらえ」
きゃいきゃいとはしゃぎながら、抱きかかえる父から祖父へと手渡される。
「う、む、う……」
初孫の可愛さには抗えぬのか、威厳ある吸血族の王は、だらしがなく緩みそうになる頬を押さえるのに必死であった。
「なんか、四天王って言うからすごく怖い人達ばかりなのかと思ったけど、思ったより普通?」
「み、ミーシャ、仮にも四天王の方々だわ、少しは気を払ったほうが――」
右に第三位の為用意された二つの席では、円卓に肘をついてぐんにゃりしているミーシャと、そんなミーシャの言動にはらはらしているアーティが座っていた。
「いや、私もそう思ってきたけど、よくよく考えれば私達はこの人達と同格な訳でしょ? だったら、気を遣っておべっかなんてやってたら、舐められちゃうじゃない。毅然としてた方が良いと思うの!」
馬鹿にされたら終わりだわ、と、ミーシャなりの諦めと覚悟あっての態度であった。
「その通りだ! 良い事を言うではないか人間の姫君よ!!」
そうして、それに賛同する声が、吸血王の正面から上がる。
第四位。蛙頭のグレゴリーであった。
「我らは共に魔王陛下が為集められた四天王!! 共に陛下が為、魔族世界の、いや、全ての世界の善き明日の為、尽力しようではないか!!」
「あー、う、うん。賛同ありがとう。そうね、がんばろうね……」
熱く語るグレゴリーであったが、ミーシャはそれほど熱が入ってる訳でもなく。
なんとなく受け流すくらいしかできていなかった。
「……胃が痛い」
そしてそんな四人を見て、吸血王はシクシクと来る違和感を腹に感じていた。
マイペースな自分に、この変わり者ばかりの四人を相手にまとめられるのか、と。
そもそも、魔族世界にとっても、これは新たな試みであった。
四天王の筆頭はラミアが就くもの。これは長らく揺らいだ事のない、そしてずっと揺らぐことが無いと思われていた事柄の一つであった。
だが、ラミア不在となり、今、四天王には強いリーダーシップを発揮できるトップが求められている。
吸血王には、それが果たせるか、かなり不安に思えたのだ。
(ああ、そうか……我々は、これほどラミアに頼りきりになっていたのだな……)
改めて、いなくなった者の重みというのを思い知らされ、しかし、それがもう居ないというのを自覚させられる。
「――議題を進めたいと思う」
ともあれ、任されたのだ。
あの魔王という男が何を考えているのか、彼にはまだよく解っていなかったが、事実、世界は変わった。
紀元の起こりから今まで、誰一人無し得なかったその偉業を成した男に、任されたのだ。
その自負があるならば、情けない姿は晒せまいと、歯を噛み締め。
新たな時代の四天王体制を発足させるべく、吸血王は議題を進めた。




