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趣味人な魔王、世界を変える  作者: 海蛇
11章.重なる世界

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#9-1.天空での戦いにて


 リヴィエラの空は、二人の天使のバトルフィールドと化していた。

片や二対四翼の翼を羽ばたかせ、左手に抱えるように持った、砲にすら見えるサイズの銃を撃ち放つ天使『超銃・パトリオット』。

片や背中の一対二翼にはあまり頼らず、侍女服をはためかせながら宙を駆け空を舞って剣で銃弾の嵐を薙ぎ払ってみせる堕天使『王剣・ヴァルキリー』。


「随分と動きが遅くなったものだわ。これなら私でも捉えられる――」

翼をあまり活かさないヴァルキリーの動きは、神速でありながらも最速狙いの直線的であり。

銃を構えるパトリオットは、にやにやと口元を歪めながら狙いを定め、次々放ってゆく。

バチリ、という乾いた音と共にはじける弾丸。散りばめられた無数のベアリング状の破片がヴァルキリーに襲い掛かってゆく。

「――無駄だわ」

ヴァルキリーはそれを、太刀筋すら見えない速度で振られる王剣によって切り払う。

空間と空間の裂け目。次元すらも切り裂いて受け払うその一撃の強烈さ。

「ちぃっ――」

ただの切り払いですら衝撃波がパトリオットにまで届き、身にまとう布と羽のいくつかが切り刻まれていた。


「相変わらず、無駄に破壊力ばかりある一撃だわ。まともに当たったらどうなってる事やら」

頬に汗を流しながら、パトリオットは悪態の一つもつきながら、更に翼を羽ばたかせ、上昇してゆく。

そして直上。ヴァルキリーの頭めがけ、射撃を始めるのだ。

「そういうお前は無駄に弾数があるばかりで、微塵も威力というものがないわ。相手を貫ける一撃を持たないなら、お前には勝ち目の一つもないのではなくて?」

調子に乗ってる場合ではなくてよ、と、真上からの連射をものともせず飛び込みながら回避し、パトリオットの直近まで迫る。

「――そう思うのは勝手だわ」

肉薄されたパトリオットは、自らに向け振り下ろされる不可視の一撃を、しかし手に持った銃器で受けきり、耐えていた。

「だけどね、銃はただ撃つだけの武器ではないわ――剣のようにただ振るうだけ、刺すだけの武器とは用途も実用性も全く違う!!」

そうして、一瞬離れた隙を狙い、パトリオットは銃首に瞬時に剣を装着させ、槍の如く突き出した。

「むっ――」

首狙いの一撃を紙一重で避け、ヴァルキリーはカウンターで剣の一撃を見舞おうとする。

「甘いっ」

「くぅっ!?」

だが、直後に至近距離からの散弾の斉射を受け、防御に徹する事になってしまった。

「ふふふっ、あははははっ、私の正面火力を馬鹿にしないで欲しいわね? 昔ならいざ知らず、堕天した貴方相手に遅れを取る私ではなくてよ?」

無数の散弾を剣一本で切り払っていくヴァルキリー。

だが、撃ち放たれるのはそればかりではなかった。

「――シュートッ!!」

続けざまに、散弾を撃ちながらに右手の短銃から放たれた貫通弾。

「しまっ――」

これに一瞬対応が遅れ、ヴァルキリーは胸元に重い一撃を受け、吹き飛ばされてしまう。

「……っ」

表情こそあまり代わり映えしないが、その身体からは赤い血が溢れ、侍女服はますますぼろぼろになっていた。


「いいザマだわ。今の貴方にお似合いの、とっても素敵な格好よ。ヴァルキリー!!」

再び距離が開く。

左手の銃身を向けながら、パトリオットが勝ち誇ったように笑う。

「……言いたいことは、それだけかしら? パトリオット」

対して、ヴァルキリーはなんでもない事のように振舞う。

胸に穿(うが)たれた(あな)からは止め処なく赤が溢れ、滴り落ちていた。

「いつまで強がりを続けるつもりなのかしら?」

だが、呼吸一つ乱さず、手の剣を絞るように握り締めるのみのヴァルキリーに、パトリオットは悔しげに歯を噛んでいた。

まるで、自分が痛めつけられているかのように、苦しげに。

「……強がりなど。初めから勝ち負けの解っている戦いになど、一々感情を向ける事もない、というだけの話よ」

ちきり、と、剣先をパトリオットに向け、ヴァルキリーは微笑む。


「だけれど、少しは強くなったのかしら? 私を前にして、全力で戦わずにいられる程度の心の余裕は身につけられたようね?」

そこだけ感心したわ、と、再び頬を引き締めなおし、背の翼をふわ、と、揺らす。

「――馬鹿にして。貴方が()ちてから幾年月経ったと思っているの? 好き放題に暮らしていただけ、人形になっていただけの貴方と、常に世界の全てを監視し、女神リーシアの役目を代行していた私とで、同じ立ち位置のままでいられると思って?」

パトリオットは憤慨しながら、左右の銃口をヴァルキリーの双眼へと向ける。

「その(おご)り高ぶり、まるで神々のようだわ。あくまでリーシアの支えとなり、その願いをかなえるのだけが我々熾天使(してんし)の役割だったはずだというのに。最早それすらも忘れたのかしら?」

「黙りなさい!! 自らの欲望に溺れ、造物へと堕落した貴方に、私を裁くことなどできはしないわっ!!」

剣と銃。二人の天使が再びぶつかり合う。


 放たれる散弾は常軌(じょうき)を逸した軌道を走り、まるでヴァルキリーに(まと)わりつくかのように襲い掛かる。

これをヴァルキリーは、手に持った長剣の一振りで薙ぎ払いながら、更に放たれる貫通弾の一撃を空間転移めいた速度で横に動き、回避して見せる。

だが、パトリオットの連射は止まらない。ヴァルキリーが近づこうとすればするほどばら撒かれる弾の数は増え、速度は加速し、密度は増してゆく。

秒間何万発という現実離れした間隔で打ち続けられる銃弾は、やがてヴァルキリーの剣撃の隙間を縫い、その細やかな一撃を細身の身体に撃ち付けてゆく。

対してパトリオットはほぼ無傷。先ほど受けた翼の傷すら、今ではもう完治していた。


 熾天使とは、女神リーシアを筆頭とした至高神七人の下につく、神々の最高戦力である。

個々が16世界それぞれに君臨する『魔王』に匹敵あるいは凌駕する力を持ち、最強の『魔王』ファズ・ルシアやドルアーガともある程度渡り合える実力が備わっていた。

その中でも、筆頭であったヴァルキリーは最強の実力を誇っていた……はずであった。


 だが、今の彼女は、成す術もなく銃弾の雨に追い立てられ、追い詰められていた。

天使に本来備わる自己修復(オートヒーリング)機能が全く働かず、無敵に等しい属性耐性も大幅に弱体化。

身体能力にもリミッターが儲けられてしまい、精々が上位『魔王』程度の実力にまで墜ちてしまっていた。


 ソレに対し、パトリオットは熾天使としての実力を遺憾なく発揮している。

左手に持つ『超銃・パトリオット』は、彼女自身の本体でありながら、思うままの形態をとる事の出来る究極兵器である。

実弾から魔法弾、精神作用弾、光線、熱、冷気。あらゆる『銃器』の特性を持ち、あらゆるモノを放つ事の出来るリロード不要の無敵の銃。

『最強の剣』など相手にもならぬとばかりに一方的に撃ち続け、本来ならば実弾など通用するはずのないヴァルキリーの身体を痛めつけてゆく。


 だが、その割にはパトリオットは苦しげであり、ヴァルキリーは余裕を崩さず。

表情だけ見ると、どちらが劣勢なのか解らなくなってしまうような、そんな違和感が戦いの場に溢れていた。


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