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趣味人な魔王、世界を変える  作者: 海蛇
11章.重なる世界

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#8-3.絶望の向こう側の戦い


「――まさか。私に杖を使わせるなんて」

だが、それはまたも届かなかった。

いつの間にか、それまで何も持っていなかったリリアの手には、赤い宝石のついた杖。左右一本ずつ。

エクシリアの一撃をものともせず左腕一本の力で受け止め、力を込めるエクシリアに、棒立ちに近い姿勢のまま押し返そうとしていた。

「ぐっ、うっ、くくく――」

エクシリアも必死に力を込めるが、ぎりぎりと押し返され、やがて跳ね除けられてしまう。

「あっ――」

「まだよっ」

エクシリアに大きな隙が生まれてしまうが、今度はエルフィリースがそれをフォローするようにリリアの懐に入り、斬りつけんとする。

「くっ」

流石にこれはリリアも反応が遅れたが、それでも右手の杖がこれを受け払い、場を凌ぐ。

「おりゃぁぁぁぁぁっ!!」

その間に態勢を戻したエクシリアの攻撃。

ガツン、と、先ほどよりも重く勢いの乗った一撃が、受けたリリアの杖を強引に押し込んでいく。

「……甘いですわ」

にや、と口元を歪めるリリア。エルフィリースは嫌な予感がし、剣を離してしまう。

「危ないっ」

直感でそう叫ぶが、時は遅く。

『――スタンロッド』

ばちり、電撃が走る。

「あ……っ」

リリアの呟きと共に発せられた電撃を、斧伝いにまともに受けてしまい、エクシリアは意識を刈り取られてしまう。

びくり、びくりと手足が痙攣していたが、やがてそれも動かなくなる。


「――接近すれば勝てると思いましたか?」

正面からのごり押しは、エクシリアの脱落という結果によって絶望的になったかに見えた。

「――エルフィリース、離れてっ!!」

しかし、それだけでは終わらない。後方からはまだ声が届いていた。

先ほどとは別の、どこか聞き覚えのある大声。

「……くんっ」

ほとんどタイムラグなどなしに飛んで来る矢を、エルフィリースは身を(ひね)りながら避ける。

「なっ――」

それは、リリアにとって想定外だったのか。

始終、余裕を崩す事の無かったリリアが、初めて驚きながらに、その矢を迎撃していた。


 だが、せめて後一撃あれば、リリアにダメージを通せたかもしれないが。

その矢ですら、結局リリアには届かず、打ち消されてしまう。

(これは……)

状況は、かなり絶望的であった。

足元に倒れるダークエルフの娘。相手は未だ無傷。そして自分は満身創痍。

後方から支援はあるが、それでもこの鉄壁の守りを崩しきれない。

流石に体力的に厳しさを感じ始め、頬を汗が流れる。

(そういえば、アーティさんは……)

先ほど吹き飛ばされてそのままだったアーティの姿を探すも、いつの間にかいなくなっていた。

リリアは自分達前衛しか狙っていなかったので、攻撃によって消え去ったなどの悲劇的な展開は考えられない。

そうなると、アーティは――そもそも、突然駆けつけてきたこのエルフ達が、自分を味方と見て、リリアを敵と見て戦っているのはどういう訳か。

(――そうか!)

何より決め手となったのは、さっきの声である。避けろ、ではなく、離れろ、と言っていたのだ。


「――失礼するわっ」

どこまで離れれば良いのかなど解らない。

だが、エルフィリースは倒れている娘を掴み、その場から一気に駆け抜けた。

「逃げる事が出来るとでも?」

リリアはその場に立ったまま、右手の杖をエルフィリースに向け、にたりと笑う。


 数秒、周囲の空間を吸収していった杖の先端が怪しく光り、やがてその光すら飲み込む黒の波動が極大化されていく。

超重圧の中、限界まで引っ張られた空間が歪曲し、ねじ切られながらそのルートを確立してゆく。

黒の軌跡は、容易にエルフィリースらを捉えていた。

『――グラビトン・レイ』


『雷法典・レメトゲン!!』


 ところが、である。

「――えっ!? きゃっ――」

遥か遠方、リリアにとって全くの想定外の方向からの電撃のラインに、リリアは背後から直撃を受けてしまうこととなる。

黄色とも金色とも白色とも感じられる圧倒的な破壊光線。

これは完全に不意を打った形でリリアを飲み込んでいった。



「――き、決まった……?」

荒い息。短い照射であったが、呼吸を整えようとしながらも、魔法が狙いをつけた相手にきちんと効いたのか、その確認に忙しくてそれすらままならない。

「解りません。でも、これでもダメだったら正直……」

レメトゲンは、古代魔法でも最強クラスの純粋火力を誇る。

何をしてくるのか解らない相手に(から)め手など考えられるはずもなく、正面から突破するには、結局このミーシャという名の砲台を有効活用するしかなかったのだ。

これに関しては、セシリア達も理解したうえで、このような運びとなっていた。

「……いないわね。魔法の直撃で消滅したのか、それとも」

ぎり、と、弓の弦を引き絞ったまま、周囲を警戒する。

「――ダメですよセシリアさんっ! まだ倒れてませんっ!!」

何かに耳を傾けていたグロリアが、蒼白となってセシリアの腕を掴み、駆け出す。

「えっ、ちょっ、何やって――」

突然弓を絞る腕を握られたのだ。セシリアはびくりと身を震わせ、そしてグロリアに怒りの眼差しを向けていた。

「ごめんなさいっ、でもまだダメだって! リリアって人、この近くに――」


「――勘が良い人がいるようですね?」


 やがて、グロリアの言葉が真であるかのように、その声は響いた。


「あ……あぁっ」

「なっ、こんな近くに――っ」

背後。わずかばかりの距離の場所に、リリアは立っていた。無傷のままに。

真っ青なまま立ちすくんでしまうグロリア。

無理も無い。先ほどの前衛二人の激しい応酬を、セシリアの援護込みでの戦いを、目の前のこの魔法使いは全て受けきったのだ。

こんな距離まで接近されれば、現代の魔法使いではほとんど対処等できない。

「うわあ……夢だと思いたい。逃げたい」

「ミーシャ……」

当然、座り込みながら法典魔法を発動させた固定砲台の二人も同じであり、絶望のあまり半笑いになりながらぽかんとしていた。


「ていうかリリアさん。私ずっと思ってたんだけど……かなり前の段階から、正気に戻ってたわよね?」

操られてなんかいないでしょ、と、くたくたになった指をようやっと向けながら、ミーシャは指摘する。

「さて、どうでしょうね? あの天使の所為でかなり魔力的・思考能力的に制約を受けていますが、今の私は正気であると言えるのでしょうか?」

ミーシャの指摘に、リリアはそしらぬ顔で杖を向ける。

「……悪い冗談だわ。それだけ暴れて、それでも全力じゃないの?」

「当たり前ですわ。私の全力は、世界そのものを滅ぼす程度のものですから。個人どころか国ですら相手ではございませんのよ?」

甘く見ないで下さる、と、瀟洒(しょうしゃ)な笑みを見せながら。

リリアの杖にはバチバチと電撃のようなものが走っていた。


「ですが、驚かされましたわ。アーティさんはかなり才覚があると思っていましたが、ミーシャさんとセットになると中々恐ろしい火力を発揮しますのね。現代の魔法使いは、一人きりではありませんのね」

感心したように二人を見やり、そして今度は視線をセシリアとグロリアに向ける。

「それに……エルフと言いましたか。貴方がたの連携も中々でしてよ? 風の魔法で矢を加速・強化するだなんて、まるで私たちの魔法みたいに自由度があって便利そうですわ」

「……貴方達と似たような魔法、という事かしら?」

訝しげに睨み付けるセシリアに、リリアは笑いながら首を横に振る。

「いいえ。根本が全く違いますわね。私には見えないけれど、精霊の力を利用した、全く新しい系列の魔法なのでしょう? 見て居て解りますわ」

「えっ、精霊がいるって、信じてくれるんですかっ!?」

先ほどまでおびえていたグロリアだが、リリアの言葉にびくん、と耳を反応させ、血色を取り戻していた。

「それはもう。私どもの時代でも、何がしかその影響を受ける部分があるのでは、と、盛んに研究が行われていたほどですわ」

「ほっ、ほらセシリアさんっ、やっぱり精霊はいるんですよっ!! 幻覚なんかじゃないんですっ!!」

「そういうの、後にしてくれないかしら」

敵の言う事だというのに子供のようにはしゃぎだすグロリアにぴしゃりと言い放ちながら、セシリアは一人、睨むようにリリアを見やっていた。


 この状況下。接近戦に不慣れなこの三人を逃がすには、自分が前に立つしかないのだ。

この距離では得意の弓も活かせない。

一応ナイフも持っているが、エクシリアですら翻弄された相手にどこまで時間を稼げるのかも解らない。

距離的に、前衛が状況に気付いて駆けつけるまではまだいくらか時間が必要となる。

他の三人は妙に和んでいるが、かなり不味い状況であった。


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