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趣味人な魔王、世界を変える  作者: 海蛇
11章.重なる世界
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#1-2.ネクロマンサーと人形兵団

 そうしてたどり着いたのは、エルヒライゼンの一角。森のど真ん中であった。

光一つ通さない深淵の中、光る転送陣のおかげでわずかばかり周りが見渡せたが、それもすぐに収まり、暗黒に落ちていく。

「――ムーンライト」

即座にカルバーンが魔法を発動。

球体の光源(こうげん)がくるくるとカルバーンの頭上を回り、明るく照らしてゆく。

「ほう、これはいいな……」

カンテラよりも明るい。

おかげで暗闇が随分先まで照らされ、道も解り易かった。

「どこに向かうのかはわかんないから、あんたが前を歩いてよね」

「ああ、解っている。こちらだよ」

記憶を頼りに、魔王は再び歩き出した。


 その後、半日ほど道に迷った末、城砦へとたどり着く。

迷いに迷っての事だったため城砦を見つけた時は二人して手を合わせ喜んだ物だが、そもそも魔王が道を間違えたのが原因だったため、すぐにカルバーンは不機嫌になっていた。

「前にあの場所に行ったときも、帰りは道に迷ったのを忘れていたんだ」

「知らないわよそんなこと!」

頬をぽりぽり掻きながらに苦笑する魔王であったが、カルバーンはそっぽを向いたまま顔も合わせず。

困った物だ、と、そのまま城内に入っていった魔王の後ろを、ちょっとだけ遅れてついてくるようになっていた。



「旦那様っ!?」

城内へと進んだ魔王をまず出迎えたのは、アリスであった。

魔王の姿を見るや、目を見開き驚いた様子で駆け寄ってきたのだ。

「やあアリスちゃん。無事元に戻れたようで何よ――っ!?」

笑いかける魔王に、アリスは止まらずそのまま抱きついてくる。

「良かった――まだ生きてらっしゃった。旦那様にもしもがあったら、アリスは……アリスは、どうしたらいいのかと」

小さな肩が震える。どうやら泣かせてしまったらしいと、魔王は申し訳なく思いながら。

その肩に手をやり、そうして落ち着くまで頭を撫でてやっていた。


「旦那様に捨てられたのかと思っていました。壊れてしまった私は、旦那様にはもう不要なのかと」

「そんな事はない。私にとってはアリスちゃんは大切な娘だよ。壊れたって傷ついたって、それは変わりない」

少し間を置いて落ち着きを取り戻した様子のアリスは、顔を上げながらに魔王の顔をじ、と見つめていた。

「ただ、その……傷ついて欲しくなかったんだ。偽者をそうだと知って、下手に挑みかかって壊されるよりは、辛くとも生きていて欲しかった」

それがアリスにとっていかほど辛かろうとも、生きていれば違うのだから、と。

だが、魔王の言葉にアリスは首を横に振る。

「旦那様のいらっしゃらない世界に、何の意味がありましょうか。アリスは、旦那様の為だけに存在しているのです。その為に、生まれたのですから――」

その美しい瞳から涙の粒を零しながら、それでもはっきりと言うのだ。

それで魔王は、「ああ」と、気づかされた。

独りよがりだったのだ。この娘を想ったつもりで、自分が嫌だからと押し付けていただけだったのだ。

だが、そんなものは本人は望んでいなかった、という事か、と。

今更だが、アリスは既に命じられ動くただの人形ではなくなっていたのだと、感傷ながらに理解する。

「ありがとうアリスちゃん。君は、君の意思で私の人形でいてくれているのだ。ああ、嬉しいなあ」

かけがえのない存在だった。それが嬉しくてたまらない。


「旦那様、アリスはもう戦えますわ。偽者が魔王城に現れた、というのは聞いております。アリスを、いいえ、『私達』を、どうか旦那様の為、お役立てくださいませ」

目の端の涙を自分で拭いながら、アリスはとん、と、一歩離れ、スカートの端をつまんで一礼、片膝をつく。

「アリスちゃん以外にもここに……? てっきり、エリーセルちゃんとノアールちゃん以外は魔王城に置いたままだと」

「ラミアさんが連れてきてくださったのです。その、事情の説明も、ラミアさんから……」

「ラミアが? それはまた、なんで――」

魔王からすれば、アリスの説明は驚きばかりであった。

想定外というか、ラミアがここに来たというのも「何故ここに?」という疑問があった。


「詳しい事情は、私が説明しますよ」


 どう説明しようかと迷っていた様子のアリスであったが、奥の方から聞こえた声に、はっとさせられる。

やせぎすの優男が一人。そこに立っていた。

「ネクロマンサー。随分顔色が良くなったな?」

「最近、まともに食事を取る様になりましてね。というより、取らされていた、というべきでしょうか」

早速の魔王の指摘に、ネクロマンサーは苦笑ながらに頭を掻く。

「お父様は不摂生が過ぎますわ。食事の一つもきちんと取らなければ、元のお力を取り戻せないと思ったのです」

アリスはというと、生みの親のだらしがなさに思うところあってか、可愛らしい唇を尖らせ不満げであった。

「まあ、アリスだけならともかく、他の人形までラミアが連れてきたおかげで押し切られてしまいましてね、おかげで健康的な生活をさせられています」

「健康で何よりじゃないか……相変わらず解らん奴だ」

まるで嫌々やっているみたいな言い方をするが、魔王からしてみれば幸せこの上ない生活を送っているようにしか見えなかった。

そういう意味では小憎たらしくもあり、魔王も今一面白くない。

「とりあえず奥に。立ち話もアレですし、そちらのお嬢さんも、あまり面白くなさそうだ」

ネクロマンサーの指摘に、魔王も後ろに視線を移す。

カルバーンは視線をそっぽに向けたまま、頬をぷくーっと膨らませていた。

どうやら、自分が蚊帳の外に置かれていたのが気に食わないらしい。

「……別に、気を遣わなくたって良いわよ。感動の再会なんだろうから」

そうは言うものの、不機嫌なのは変わらない様子である。

「まあ、とりあえず行こうか」

参ったもんだと髪を掻き分けながら、魔王一行は奥の間へ向かう事に。



 奥の間。玉座にたどり着くと、そこは人形で溢れていた。

『旦那様っ』

『おかえりなさいませ旦那様』

大小さまざまな娘が魔王を見つめ、喜びの声を上げる。

「やあ……すまなかったね、置いていってしまって」

華の様な笑顔を向けてくれる人形達に、魔王は申し訳なく感じながらも笑顔で返す。

「しかし、こうなると、魔王城の偽者は随分困った事になるのではないかい? その辺り、ラミアはどう言いくるめたんだろうな?」

奥の玉座に久方ぶりに腰掛けると、どこからかアリスが椅子を持ち出し、カルバーンとネクロマンサーが座れるように支度を整えていた。

「『人形の一斉点検が必要だとネクロマンサーが言っていたので』と、こちらに丸投げしてくれました」

椅子に腰掛けながらに「あの女め」と、苦々しげに説明するネクロマンサー。

「面白い手だな。しかし、何故ラミアが偽者の事を?」

「私が教えましたからね。貴方はアリスだけが本物と気づくものだと思っていたようですが、実際にはそんな事はなかったのですよ。アリス以外の人形達も、そしてラミアや城の女官達も、偽者に対して何がしか違和感を感じてはいたのです」

それだけ想われていたのですよ、と、ネクロマンサーは笑っていた。

「……そうか。私は、周りの者の事も、なんにも解っていなかったんだな……人形(ともだち)だけじゃなく、部下の事も……」

しみじみ、魔王は噛み締めていた。

どうせ自分が偽者と入れ替わったって、そんなのに気づく者などほとんど居はすまいと思っていたのだ。

だが、実際には違った。気づいてくれたのだ。それだけ関心を抱いてくれていたのだ。

「人は存外、自分の見方一つだけではその全てを把握できないものですからね。知った気になってはいても、実際にはそんな事はなかった。今回はそれが良い方向に働いたと言えるでしょうが」

「そのようだなあ。いや、考えを改めなければならんな」

自分などどうでも良いと思っていた魔王だが、どうもそうはいかないらしいと。

自分を見てくれている者達が沢山いると言うなら、それはもう、自分ひとりの問題ではないのだから。



「現状、魔王城はかつての中央方面軍を中心に、魔界各地からかなりの兵力がかき集められています」

しんみりとした空気も束の間、情報魔法が展開される。

ネクロマンサーによる現状の説明が始まり、その場の皆が彼に注視する。

「城の指揮を執るのはラミアですが、この軍勢を動かしているのは中央方面軍司令グレゴリーのようです」

「中々良い人選だな。あいつなら現場の感覚で隅々まで指揮ができるんじゃないか?」

「ええ、ラミアのマクロな視点と合わさってかなり強固な防衛ラインが敷かれると思われます。コレに対し、正面から向かうのは無謀と言えるでしょうね」

「ちょっと待って」

説明の最中、カルバーンが手を挙げながらに口を挟む。

「偽者の事は皆怪しいと思ってるんでしょ? ラミアだってそうなんだから、魔王が前に出れば皆それに従うんじゃないの?」

「確かにこの方が前に出れば将兵らを従える事は可能でしょうが、それをやってしまうと形勢の不利に気づき偽者が逃げてしまうかもしれません。それでは脅威を完全に払拭したとは言い難い」

前髪を手で弄りながら説明するネクロマンサー。カルバーンもそれでまた黙ってしまう。


「奴の変身能力はかなり厄介だ。私も顔を掴まれ、瞬時に変わったのを見たが……例え瀕死の重傷まで追いやったとしても、それを許してしまえばまた無傷の状態からのやり直しになってしまう」

これに関しては実際に戦った魔王と、それを見ていたカルバーンに解る事であり、ネクロマンサーらもそれに耳を傾けていた。

「そして何より厄介なのが『コマンド』が扱えるという事だ。その気になれば即座に別の場所に転移する事も可能だろう」

「それに関しては良くわかんないんだけど、そんなになんでもありな機能なら敵対者を皆殺しにーとかもそのコマンドとやらでできるんじゃないの?」

「できるよ。『魔王』とその資格を持つ者以外は容易に殺せるだろう。ただ、それはやらないだろうね。あいつは、偽者であっても『私』であろうとはするだろうからね」

やりたいとも思わないだろう、と、魔王は笑う。

「最も、全てが私そのままとも言い切れんから、これもあくまで楽観でしかないが……あいつが私を超え本物であろうとするならば尚の事、私がやりたがらないことはやろうとはしないはずだ。後々苦しむだけだからね」

それをやってしまえば、自分の心に深いダメージが残る。

魔王自身、そういった覚えもあるからこそ、そう何度もそんな無茶はしないだろうと思ったのだ。

「……でも、ほかの事なら出来てしまう訳ね」

「そうだね。だから、奴のコマンドを封じる手段を講じなければならない。前にも言ったが、時間さえ掛ければ私の封印は解除されるから、それを待てばいいとは思うんだが……」

「それは難しいでしょうね。城内の状況を考えると、ラミアが偽者を騙し、今の状況を維持する事ができる時間というのは限られるでしょうから。それを超えてしまえば、城内には非戦闘員が戻ってきてしまう恐れがある」

楽観の末の攻略法であったが、ネクロマンサーの指摘によりそれは不可能となっていた。

流石にこれには魔王も唸らざるをえない。

「そうなると後は……油断させたまま、コマンドすら使わせる間もなく倒すか、かなりの時間待ち続けて『本物はもうこない』と思い込ませるか……どちらかか」

いずれにしても策が必要となるのだ。城を護る軍勢の存在といい、何かと課題が多かった。

その場にいた全員が思い思いに考え、沈黙する。


「私に考えがあります。お任せいただけませんか?」

重い空気が漂う中、まず声を発したのはネクロマンサーであった。

「策があるのかね?」

「ええ。軍に対しては軍をぶつけます。あくまで『魔王』に対しての反旗として。私単独の反乱という名目で奴らの眼を惹き付けるのです」

「だが、それではお前が奴に――」

「その辺りはご心配なく。私が挑むのはあくまで城内を固めている軍勢に対してのみです。軍勢で事足りると思っているうちは、偽者も自分から動こうとは思わないでしょうから」

にや、と口元を歪ませ、ネクロマンサーは立ち上がる。

「アリス。他の娘達と共に陛下とカルバーン殿を護衛しなさい」

「解りましたわ。お任せください」

「カルバーン殿は陛下と一緒に行動していただきます。陛下一人では厳しくとも、『魔王』が二人揃えば対抗する事は可能なはず」

「ん……別に良いけど。私、魔王になんてなった覚えないんだけど……」

てきぱきと役割を分担していくネクロマンサーであったが、カルバーンは不思議そうに首を傾げていた。

それを見やりながら、魔王は「こいつも中々できる奴だったんだなあ」と感心していたのだが。


 こうして、ドッペルゲンガー討伐の為の編成が決められていった。


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