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趣味人な魔王、世界を変える  作者: 海蛇
10章 世界の平和の為に

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#4-2.狂信者、駆ける

「大司教様。足止めを行っていた同志らが全滅した、と、見届けから――」

「そうか……いや、それで良い。彼らはよくやった。良き明日へと旅立ったのだ」

トラウベンから遠く離れた丘。

デフ大司教は、わずかばかりの手勢と共に、眼前にそびえる塔を眺めていた。

エリーシャらをひきつけるため、そして異教徒どもに眼にモノ見せるため向かわせた軍勢は、その役目を果たしたと言える。

後はただ、目的どおりに目標を撃滅させれば終了であった。

「――雑魚には眼もくれるな。我らが狙うはただ一つ――皇帝シフォン!!」

法衣の袖からギラリと怪しく光るエメラルドクリスを取り出し、塔に向け構える。

「これが最後。ここが終わりよ――往くぞ!!」

駆け出す。丘を下り、一斉に目に見える塔――トネリコの塔へと走った。



「敵襲ですって!? そんな、どこから――」

襲撃の報は、アリス達の耳にも即座に入っていた。

「アリス様、いかがなさいますか?」

「この場のリーダーは貴方ですわぁ。ご指示をくださいまし」

傍らに控えるエリーセル・ノアール両名は、アリスの顔を見た。

「――エリーセルは衛兵を率いて塔の前に。私はシフォン様達を安全な場所まで護衛するわ」

「解りました。では――」

エリーセルはすぐに反応し、その場から駆けていく。

「私はどうするんですの?」

名前の挙がらなかったノアールは、不思議そうに首を傾げていた。

「ノアールは旦那様の元へ――万一に備え、旦那様にこのことを直接伝えて頂戴」

「かしこまりしましたわぁ。お任せを」

アリスの指示に自分の役割を理解し、ノアールはスカートの端をちょこんと持ってお辞儀し、すぐさまその場から転移した。


「――アリスさん……?」

しかし、その場に居たのはアリス達だけではなかった。

「ヘーゼル様……」

皆でお茶をしていたのだ。そんな中の襲撃であった。

「ノアールさん、今、消えて――それに、『旦那様』というのは……?」

ヘーゼルの視線、そして表情に、彼女の困惑を感じたアリスは、その場にて跪く。

「申し訳ありませんヘーゼル様。アリスは、嘘をついておりました」

状況が状況であった。下手に隠すよりは、はっきりと伝えるべきだと思ったのだ。

「私ども三人は、旦那様――魔王陛下手持ちの人形――人間ではないのです」

「そんな……アリスさん達が……?」

驚き一歩下がってしまう。無理もない反応だと解ってはいたが、それでもアリスは胸が痛むのを感じていた。

「旦那様の命により、皇帝ご夫妻を護衛せよと。人のフリをしておりました」

「貴方達が、魔王の手先だったなんて……私、なんにも知らずに――」

母性からか、カシューを抱きしめアリスから庇うように背を向け、ヘーゼルは信じられないように首を振る。

「この子の前でも、嘘をついていたんですの……」

「……そうせざるを得ませんでした。エリーシャさんと親交があった、というのは嘘ではありませんが……」

状況は切羽詰っている。もう、あまり時間がない。早く避難させなければならない。

だが、今ここで適当な嘘をついて、果たしてヘーゼルが聞いてくれるか。

子を抱き、不安そうにしている彼女を見て、アリスはとてもそうは思えなかった。

信じてもらわねばならない。そのためには、真実を包み隠さず伝える必要があると、そう考えたのだ。

「ヘーゼル様。全てを明かした上で、図々しいと思われるかもしれませんが、それでも聞いて欲しいのです。今のままでは御身やカシュー様、それにシフォン様の身が危険ですわ。どうか、私に身辺の警護をお任せくださいまし」

「――信じろと言うのですか? 貴方を?」

「……」

じ、と、見つめ合う。

揺れる事無く視線を向ける瞳に、アリスはアリもしない心の臓が高鳴るのを感じていた。

強い緊張が、場を支配していた。


「……解りました。信じましょう」

そうして、緊張を解いたのも、ヘーゼルからであった。

大きなため息を共に、頬を緩ませながらカシューごとアリスへと近づく。

「だって、貴方は私たちと何も違いがありませんもの。楽しくお喋りできて、笑って、そして今、緊張していらしたでしょう? 私には、貴方が人でなかったことなんて見抜けませんでした」

カシューをアリスに向け差し出し。困惑するアリスの美しい金髪に手を伸ばす。

「それに、アリスさん達が魔王の指示でここにきたのだとしても。私達と、この子と一緒にいた時間が嘘だったとは、私には思えませんの」

髪を、そして頭を撫でながら、ヘーゼルは微笑む。

「あ……はい! 私も、エリーセルもノアールも、皆様と過ごした時を決して、決して偽りだとは思って居ません! 本当に、楽しかったのです――」

瞳は揺れていた。力強く答える肩は震え、しかし、預けられた幼子を優しく抱きしめる。

「なら、それでいいですわ。この子を――そして、私たちを護ってくださいまし」

アリスの手から再び我が子を受け取り、ヘーゼルは願う。

「お任せください! 我が身命に代えても!!」

キリ、と頬を引き締め。アリスは、その役目を果たそうと誓った。



「――大した防備だ。突破するのも楽ではない、か」

デフ大司教は、小憎たらしげに歯を噛んでいた。

防衛する人数こそ少ないものの、指揮官は要点を押さえ、その少ない人数を上手く配置していた。

おかげで完全に奇襲が決まったにも拘らず、塔の内部は敵の守勢で固められてしまっていた。

なんとかその中、手勢を削りつつも突破できたのが彼を含めてわずか三名。

「通しませんっ!!」

上階を目指し階段を探す一行の前に、剣を片手に跳びかかってくる少女。

デフはこれを難なくかわし、その横をすり抜ける。

「なっ――」

不意打ちの失敗。ガーネット色の髪の少女は、驚いた様子でデフの顔を見ていた。

「ここは任せたぞ」

「はっ」

「お任せをっ!!」

腕利きらしいと見るや、背後に続いていた者達にその少女を押し当て、自身は上階へと駆け抜ける。

「くっ、お待ちなさいっ」

少女は追いすがろうとするも、すぐ後ろからの殺気に飛び退いてしまう。

「うらぁっ!!」

「――っ、アリス様、申し訳――ありませんっ!!」

攻撃を回避しながら、かかとに力を込め突進、一人目の胸へと突き刺した。

「ぐっ――」

「うぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

もう一人が死に物狂いでアイアンクラブを振り回したが。

「はぁっ!!!」

エリーセルは、手に持った細身の剣でこれを切り払い、更に踏み込んで一閃。

「当たらぬっ」

しかし、これはかわされた。敵もさるもの。

エリーセルは悔しげに目の前の黒ずくめの男を睨みつけていた。


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