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趣味人な魔王、世界を変える  作者: 海蛇
9章 変容する反乱
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#4-2.タワーディフェンス


 魔族世界北部・トワイライトフォレスト。

塔もろとも転送されてしまった娘達は、ここで長きに渡る戦いを続けていた。


「いくわよ、グロリア!!」

「大丈夫です! セシリアさんどうぞ!!」

屋上から、セシリアが塔へと攻め寄ってくる悪魔に向け、弓の弦を引き絞る。

穿(うが)て雷鳴!!」

「サンダーボルト!!」

ヒュン、と放たれた矢は、後から放たれ追いついてきた雷撃を受け、更に加速する。

「ひ、ぎっ――ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

目視も出来ぬほどの速度で飛び込んできた矢を受け、塔の外にいた獅子顔の悪魔は感電死。

更に電撃が周囲に伝わり、周りの悪魔達まで巻き添えを喰らう。

「次!!」

「おっけーです!!」


 その顛末を見届ける暇なく、セシリアは次々に狙いをつけてゆく。

そのエイミングは実に素早く、正確無比。

対象の動きを見定め、弦を引き絞るまでに五秒と掛からない。

矢を放ち次の矢をつがえるわずかな間に、次の目標を見定める。

グロリアはそんなセシリアにあわせ、雷撃魔法を放っていく。

単体では悪魔相手であまり威力の無い矢と雷撃であるが、こうして組み合わせることによって対象の体内に直接雷撃を通し、致命傷とする事が可能なのだ。

限られた戦力で消耗を抑えようと考えるなら、相応に効率的な対処と言えた。


 その背後に、上空からぼとり、ぼとりと重い何かが落ちていく音が聞こえたが、セシリア達は気にもかけない。

落ちてきたモノは動かない。既に絶命していた。

「全て片付きましたわ」

グレーカラーの翼を羽ばたかせながら降りてきたのは、堕天使族の娘であった。

「早いわね。さすが」

「エレイソンさんって強いんですねー」

視線も逸らさず迎撃を続けるセシリアとグロリアであったが、その口調は余裕を感じられた。

「まあ、曲がりなりにも元天使ですから。空での戦いはお任せください」

にこやかに微笑みを称えながら、やがてキリリと頬を引き締め、また空へと舞ってゆく。

どうやら新たな敵を見つけたらしい、と、納得しながら。

「心強いわねぇ」

「とてもお菓子狂いのお嬢様には見えませんね~」

セシリアとグロリアはのんきに迎撃していた。



 同時刻、塔の入り口にて。

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

身の毛もよだつクライ。轟音とともに唸るバトルアックス。

鎧を着けた巨人が、その鋼鉄の斧に紙の様に切り裂かれてゆく。

「ぐぎっ――」

声にならぬ声を上げながら崩れ落ちる巨人。

「もらった!!」

「げぇっ――ぐはっ」

そのまま身動きも取れず、無機質に放たれたランスの一撃を胸に受け、巨人は絶命する。


「ダークエルフの姫君というのも、中々によく動けるものですね」

前足の(ひづめ)を巨人の身体にあてがい、力を込めて穂先を引き抜きながら、上人下馬(じょうじんげば)の姫君がエクシリアを称えていた。

「いえ、そんな――エスティさんの槍捌きもすごいです。さすが馬魔(ばま)族……」

実戦の場にあって真剣な表情をしていたエクシリアであったが、褒められるのは慣れていないのか、テレテレと小動物のように縮こまってしまう。

(……癒される)

強さに見合わない可愛らしさというべきだろうか。

馬魔の姫君はそんな彼女の様子に癒しを感じてしまっていた。


 現在、塔の入り口の守りを固めるのはこの二人である。

他にも近接戦闘向けな種族の娘はいるにはいるのだが、全員が一度に出ても狭い入り口での戦闘には邪魔になるのと、いつ終わるとも知れない戦いなのもあって、交代制でその役目を受けることにしていた。

幸い攻めて来る敵は近接戦闘が強くないのか、あまり士気も統率も高くない為になんとかなっていた。

何より塔の上層からのグロリア・セシリアコンビの狙撃が効いている。

敵としては致死級の矢の雨が降り注ぐ中、前に進むにも腕利きの門番が待ち構えているのだ。

自棄になって突撃してくる者もいるが、多くは及び腰であった。


「しかし、周囲の樹木や色の変わらない空から、ここはトワイライトフォレストだと思うのですが――樹木人族は攻めてこないのですね」

血に塗れたランスを布でふき取りながら、馬魔の姫エスティは話を続ける。

エクシリア曰く「今夜はもう撤退したよう」なので、一旦塔の中に退がり休息を取っていた。

「あ……そ、そうですね。トワイライトフォレストって、その、樹木人族の領地……ですもんね」

「そうです。北部では群を抜いて豊かな土地で、植物たちの楽園であると言われていますが……その樹木人らが出てこない」

妙な話です、と、エスティは目を瞑りながら呟く。

「樹木人達も、陛下に対しては反乱を起こしたらしいですし……敵である事には違いないのでしょうけど、おかしな話ですね……?」

塔の娘達は当初、樹木人達の総攻撃があるものと思い警戒していたのだが、実際にこの塔に攻めてきたのは悪魔族を中核としてはいるものの、その多くは魔物兵である。

さきほど倒した巨人など、確かに強力な魔物は居るにはいるが、その数自体はそれほど多くは無い。

塔を取り囲む広大な森林地形もあって多勢での攻撃が難しいのだろう、とは二人も考えていたが。


「何にしても、敵が来る前に迎撃態勢が整ったのは良かった。敵に攻められてから気が付いたのでは、いかに一騎当千のこの塔の者達でもパニックに陥りかねないですから」

「そうですね……グロリアさんには感謝しないと」

真っ先に状況の不味さに気づいたのはグロリアである。

彼女が即座に危機感を感じ、時間稼ぎの先手を打ったからこそ、今の迎撃態勢があるのだ。

普段はぼーっとしていてどこか頼りないが、やはりこういう時、ハイエルフの知性、精神性の高さは心強い。

「塔の周りに張られている結界も強力なようで、おかげでさほど苦労なく敵を倒せるのも良い。いくら基礎体力があると言っても、長期戦になれば磨耗するのは目に見えてますから……」

「こちらは狭い入り口を守るだけ、というのも大きいですよね。塔を破壊してまで入ろうとしない辺り、相手は殺す目的で攻めているのではないのかもしれませんが……」

「うむ。人質にするつもりか、それとも欲望のはけ口にするつもりか……いずれにしても敵の目的どおりに進んでしまえば、陛下や各々の出身種族にとって、あまり好ましい結果にはならない」

負けられぬ、と、ランスの柄を強く握るエスティ。

「ここが敵地なのを考えると救援も望めないですし……自力で戻れるように転送の陣を張るにも、まだ数日は掛かるらしいですしね……」

魔法の事は良く解りませんが、と、エクシリアは眉を下げながら斧の刃先を撫でていた。


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