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趣味人な魔王、世界を変える  作者: 海蛇
7章 女王
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#14-2.会談二日目

 会談二日目。会談に入る前の朝食の場では、シフォンがリットル、大臣らと食事をとっていた。

エリーシャは用事があっての事で別に食事を取っていたのだが、魔族との会談という会談前の緊張感は若干薄れ、三人ともそれなりにリラックスした中で食事をしていた。

「思ったより、魔王が普通でしたな」

大臣がパンを片手に話す。話題は会談の場に現れた魔王についてであった。

「ああ、まさかあれが魔王だなどと、言われなければ誰にも気付けないだろう」

一見背の高い人間の紳士にしか見えないのだ。

他の魔族達も人に近い外見の者を選んでか、当初想像していた様な人外じみた魔族は梟頭の一人しか列席していなかった。

確かに言われれば王の威厳のようなものは感じさせたが、初見であれを魔王だと見抜ける者はそうはいないだろうとシフォンは考える。

「全く、見事にだまされましたよ。あの魔王、人間に化けてやがった」

リットルはというと、なんとも不機嫌そうであった。

「ははは、昨夜の話は笑いましたな。魔王と酒を飲んだ勇者とは、なんともリットル殿らしい豪放さというか……箔がついてよろしいのでは?」

大臣は愉快そうに笑う。バツが悪そうに頭を掻くリットルであったが、そんなのは気にしないらしかった。

「冗談じゃないですよ。こっちは気の良いおっさんと飲んでたつもりだったってのに、それがまさか魔王だったなんて。笑い話にもなりゃしねぇ」

とんだ赤っ恥だぜ、と、リットルは困ったように眼を瞑る。

「まあ、そういうユニークなところもあるのだろうな、今代の魔王は」

彼らの中で、魔王というイメージは先代魔王マジック・マスターこそがそれらしい魔王像となっていたのだが、良くも悪くもその先入観は壊れたと言ってもいい。

実際にそれが魔王の素であるのかは解からないが、ただ恐れるだけの存在ではない、という事だろうか。

「会談の交渉に来た女魔族も言っていたが、存外、人は魔族をそれと知らないだけで、実際には話し合うことも出来るし、案外リットル殿のように、酒を飲み交わす事もできるのかもしれないな」

ただの得体の知れない敵ではなくなった。相手は、人と同じで何かを考え、そして理解も出来る存在だったのだ。

魔族全体がそうとは限らないが、少なくともそういった魔族も居るらしいというのが理解できたのは大きな収穫であった。

以前行われた捕虜の交渉のように向こうから一方的に要求を突きつけることはあったが、今回のように普通の話し合いが出来たのは、それだけで良い経験である。

「ですが皇帝陛下。油断はなりませんぞ。話し合えることは解りましたが、奴らは未だ何を考えているのか解からないのですから」

むやみに言葉に耳を傾けるのは控えるべきだと、リットルは諭そうとしていた。

確かに話し合いが出来る、言葉の通じるのは大きいが、彼らの言う事がどこまで真実であるかはまだ解からないのだ。

無論何か意味があっての事なのだろうが、それを無闇に聞き過ぎれば、場合によっては面倒を招く事もある。

「まあ、向こうの様子を見れば、今回の会談は様子見の意味合いが大きいのではないかと思うがな」

パンをスープに浸しながら、リットルの忠告にも静かに頷いてみせるシフォンであったが、会談そのものについては、そういった意味合いが強いのだろうと考えていた。

「今日の話の内容が今回の会談の一番の要点なのだろうが、相手はこのような会談を何度も開くつもりなのではないだろうか」

まず最初の一回目。これを開く事が出来れば、後は前例が出来た分容易くなる。ハードルも下がる。

だからこそ、その一回目を無事に終わらせようと、魔族側も必死なのではないかと、シフォンは思うのだ。

その大切な一回目でいきなり無茶な事は言うまい、するまい、と分析していた。

「陛下がそう仰るなら、俺はそれに従うだけですがね」

パンにかぶりつき、噛み千切る。リットルはそれ以上言うつもりがないらしかった。


 それから少しの間歓談が続いたのだが、朝は軽めであり、そんなに掛からず食事は終わり、三人が席を立とうとしていた。

まずリットルが立ち、次に大臣が。そして、シフォンが続いて立ち上がろうとしたときに、それは起きた。

「……む」

不意に、足に力が入らず、立ち上がれなくなった。

テーブルに手をつき踏ん張ろうとするが、力が入らない。

それどころか、やがて全身から力が抜け……その場に倒れこんでしまった。

「陛下っ!?」

すぐさま大臣が駆け寄る。リットルも驚き、シフォンの顔を見た。

「うっ――か、身体が――」

びくり、びくりと痙攣していた。

辛うじて声を絞り出そうとしていたシフォンであったが、そこで力尽きてしまう。

「皇帝陛下っ、しっかり!! 今医者をっ」

自分たちの身には何も起きていない。シフォンだけが倒れたのだ。これは不味い。

「大臣殿、ここは任せたっ」

「うむ。頼んだぞリットル殿。医師と、それからエリーシャ様をお呼びくだされ」

「承知したっ!!」

よもや暗殺か。このような状況下で犯人探しをするわけにもいかず、リットルは焦りそうに逸る心を押さえつけ、走り出した。



「貴方達がついていて、これはどういう事なの!?」

なんとか医師を確保し、シフォンを診させたリットルであったが、話を聞いたエリーシャは大層不機嫌であった。

シフォンが眠るベッドの前で、リットルを強く睨みつけ、問いただしていた。

幸いにして死に至るほどではないが、日ごろの心身共の疲れと、それからやはりというか、スープに混ぜ物がされていたらしいとの事。

その毒も医師により解毒が試みられ、首尾よく無害化できたらしいので、とりあえず安堵はしたのだが。

言ってみれば、その毒が解毒不可能なモノであったなら、シフォンはこれによって毒殺されていても不思議ではなかった事になる。

「いや、すまねぇ。銀のスプーンでも反応しなかったし、大丈夫だと思ってたんだ……同じスープを俺や大臣が飲んでも問題なかった訳だしな……」

「それで陛下が倒れてたら世話がないわ。全く、肝心な時に貴方達は――」

激昂の余り苛烈な言葉を吐きかけ、しかしエリーシャはそこで止まる。

口に手をあて、眼を見開きながら。

「……言い過ぎたわ。とりあえず陛下は無事なようだし、これ以上言う事もないわね」

謝る事はしないが、それでも感情のまま言葉を吐き捨てるような真似をする気はないらしかった。

「だがエリーシャ。どうするつもりだ? 暗殺が魔族の手によるものかは解らんが、これでは会談が――」

「会談は続けるわ。ある意味、都合が良いとも言える。陛下にはこのまま休んでいてもらいましょう」

若干落ち着かない様子であったが、エリーシャはリットルに背を向け、続けた。

「この間話したことを実行に移すわ。事前に陛下に許しを貰っておいて良かった。まさかこんな事になるとは思いもしなかったしね」

「……俺は反対だけどな。あんたに全部を任せきりにするのは、なんていうか、あんたに悪い気がしちまう」

「気にしないで頂戴。私は私のやりやすいようにさせてもらうだけだもの。リットル、貴方にも手伝ってもらうわよ」

「解ってる。出来る限り協力はさせてもらうさ。『女王陛下』」

不承不承ながらも、リットルは後ろ手に頭を掻き、エリーシャに従うことにした。


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