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趣味人な魔王、世界を変える  作者: 海蛇
7章 女王
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#8-2.『武器商人』カールハイツ2

「まず、ペールラインを殺した理由から。あいつはさっきも言った通り、我々『武器商人』の間ではあんまり存在を認めたくない、いわば『もぐり』って奴なんですよ。風上にも置けねぇ、置きたくもねぇゴミクズなんです」

指を一本立てながら、てくてくとババリアの目の前まで歩いてくる。

「その中でも、特に許せないのがあって。あいつ、この世界の文明レベルを完璧に無視した品を売りやがった。規約違反通り越して死刑になってもおかしくない大罪おかしやがったんです」

許せんでしょう? と、顔をずずいと近づける。ババリアは思わず一歩下がってしまった。

「ふふん? まあ、それが一番の理由ですが、偶然奴を見つけたので殺して賞金もらってついでに奴の『上客』を俺の顧客に加えられたらなあ、なんて思いましてね」

なんとも貪欲な男であった。

商売人としては自分を押し出せる強気も時には必要だが、ここまでガツガツとした男も珍しいと、ババリアは思わず唸ってしまう。

少なくともこんな商人はこの世界ではそうそう見ない、見られないタイプだった。

「……お前があの男――ペールラインと同じく、異世界からの武器商人だというのは良く解った。だが、この世界の文明がどうとか、そんなのはお前に何の関係があるのだ?」

カールハイツの話は正直、ババリアには解からないことだらけであったが、それでも気になるポイントというのはあったのだ。

世界の文明レベル。それを、この商人らが気にしてどうするというのか。

「んー、なんと説明したもんですかねぇ。ちっと面倒くさいんですが、長くなっても?」

「構わぬ。余は道理の通らぬ事は好まぬ。さっさと説明せぬか」

「んじゃ、遠慮なく」

少し迷った後、カールハイツはバルコニーの花壇に腰掛けた。


「とりあえずは、俺たち『武器商人』が具体的にどこの世界からきて、どのように商売をしているかの説明からしましょうかね」

「そんなところから始めねばならんのか? 余の質問とは大分ずれるのではないか?」

「そんなところから説明して、理解してもらうのが本来の俺たちの一番最初の仕事、『顔見せ』ってもんなんですがね。そんな事すらやらなかったんですよ、あのバカ」

マジでペールライン使えねぇ、と、悪態をつきながら足を組む。

「俺らってのは、その多くが『レゼボア』っていう世界から来てるんです。極少数『蹉跌の森』とか『ハーニュート』から来る物好きもいますけどね。まあ、出身世界はそういう感じです」

「ペールラインもそうなのか?」

「ええ。あいつはレゼボアで危険因子扱いされたガチの犯罪者ですよ。他世界における武器の不正取引、禁止薬剤の密売、誘拐を発端とする人身売買に売春斡旋。レゼボア人が決してやっちゃいけないとお上から提示されている事のほとんどをやらかしてやがる」

とんだ大罪人なんですよ、と、カールハイツはつまらなさそうに説明する。

「ま、基本的に俺たち『武器商人』は、その言葉の通りに色んな世界渡り歩いて自分らの持ってる武器を顧客に売ったり貸したり顧客から買い取ったりして生計立ててるんですけどね。それにも色々細かくルールがありまして」

「組合間のルールとか、そういう事か?」

「そうです。この世界も商人ギルドとかあるでしょう? ああいう感じのカルテルがレゼボア……っていうか、『武器商人』の間にもあるんですよ。『世界間における武器の取り扱い・販売協定』っていう長ったらしい名前の奴」

名前出すのすら面倒くさいんですけどね、と、半笑いで続ける。


「んで、そのルールの中で最も重いのが『異世界で商売する際に、その世界の文明レベルを大きく逸脱するような品を売らない事・貸し出さないこと・作り方を教えない事』ってのがあるんですよ。ペールラインはこれを完璧に無視しちまった」

「ようやく話が戻ったようだが、何故逸脱してはならぬのだ?」

「簡単に言うなら、その世界の技術力が進歩しすぎちまうからですよ。本来その世界の技術レベルじゃどうやっても模倣できない位のオーパーツならまだいいんですけどね。これが、意外と原理さえ知ってれば模倣できちまうような物も存在してたりする。原理自体は教えればすぐわかるようなものだけど、思想や価値観の都合上その世界の文明レベルだと数世紀先じゃないとそこに至れない、とかそういう奴」

結構あるんですよ、と、また口元をにやけさせる。どうにもにやけ顔が好きな男らしかった。

「技術が進歩する事は良い事ではないか。実際、余もペールラインによって様々な知識を買い取り、それを元に新兵器をいくつか生み出せている。これはこの世界の人類の役に立っているはずではないか」

何が悪い事がある、と、ババリアは不思議に思えてならない。

「んー、まあ、現地の方にとっちゃそうなんでしょうけどね。こう、客観的に見ると、というか。なんつーのがいいのかなあ、うーん……」

今度はどうにも答え難い物らしく、カールハイツは困ったように顎を弄りだす。


「この世界、というか、この国に、ハンドカノンってあるじゃないですか。ライフルの原型みたいな形の奴」

「ライフルが何かはわからぬが、ハンドカノンは確かに余の主導の元、国を挙げて開発を進めた新兵器であるが」

「うちらの世界だと、ああいう単純な構造の武器ってのはほんと原始的な骨董品扱いでしてね。今なんかだと『三連装粒子加速式収束エネルギー砲・レギオンカノーネ』だとか、『17mm量子追尾型領域破壊砲・ブレイクビー』とかが港の武器屋で買えちまうんですが」

「りゅうしかそく……なんだそれは。強いのか?」

想像だにできない兵器の名称に、ババリアは混乱してしまう。もはや強いか弱いかでしか判別が出来ない状態であった。

「ハンドカノン一発打つ時間で、この世界の何割かが焦土と化すかなあ。どっちも一発で七十万人位、ほぼ光速に等しい速度で飛ぶし、絶えず連射すれば秒間数千万~一億人位殺傷できちまう超兵器ですから」

「なっ――七十万!? 秒間というと、一秒の間にい、一億人も死ぬのか……」

あまりに規模が違いすぎる。上級魔族の超広範囲魔法ですら、そこまでの殺傷力はないはずであった。

「まあ、そういう兵器があるんですよ。例えばですけど、この世界の人間に何の説明もなしにそういうの売ったらどうなると思います?」

「持った国が覇権を取れるな。魔族など何の問題にもならなくなる」

「扱い方もろくに知らないのに? それを使うことによるデメリットも考慮せず使ったらどうなるか、それがまず想像できないですよね、陛下?」

「……何が言いたい?」

じろりと睨むババリアに、カールハイツは小さく息をつきながら、帽子のずれを直す。


「つまりだ。『どんな兵器にもデメリットってものは存在する』という原則を知らなきゃいけない。この世界の原始的な兵器ならデメリットも少ないだろう。『敵に奪われる』とか『報復で敵が同じものを使ってくる』とかな。そういう危機感が薄いんだ」

「そんな馬鹿な。技術はラムクーヘンが独占すれば良い話ではないか。武器商人らも、その方が楽に儲けられるはずだ」

同一の顧客の下、変わらぬ指示を受け、安定した武器の供給をする。

この世界に根付いた商人感ではそれは正しい事のはずであるが、カールハイツはち、ち、と指を振り、皮肉げに笑っていた。

「いいや? 本気で儲けたいなら、ちょっとだけ期間をずらしてあんたらの敵対勢力にも同じかやや改良した武器を売る、あるいはそれに対するアンチ、つまり対策兵器を売る、というやり方の方が儲け易い。何たって相手側は、その頃にはあんたらの『新兵器』の威力を嫌という程その身で味わってる訳だからな。多少吹っかけても構わず飛びついてくるだろう」

「そんな事をすれば『信用』を失ってしまうではないか」

商売における信用とは何より掛け替えのないもののはずであり、それは決して失ってはいけないもののはずであった。それが『常識』であった。

だが、カールハイツは気にもせず続ける。

「信用ってのは、互いの利益の元無視されることすらあるって事さ。俺はもちろんしないがな、そんな『死の商人』まんまな真似は」

「……利益の為なら、顧客の信用などかなぐり捨て、戦火の種を振りまく事も辞さない。そういう者も居るという事か」

「この世界にだっているさ。そして、俺たち『武器商人』がそれをやると、その世界はすさまじい勢いで焦土と化していく事になる。土地が焼き尽くされ、街が跡形も無くなり、河が汚れ、海が枯れる。人間が生きるには辛い世界があっという間に出来上がっちまう」

カールハイツの言葉から想像させる所は、ババリアの想像のはるか上を進んでいた。何せそんな光景は見た事がない。

だが、先ほど話していたような彼らの超兵器を前にすれば、確かにそのような世界にする事も容易いのだろう、と、納得できてしまっていた。

「何より恐ろしいのは、だ。一瞬で一億人殺すような武器でも、それと知らない奴が手にすれば、事あるごとにぶっ放せば、世界なんて簡単に廃墟にできちまうってこった。そして、自分がぶっぱなした事によって相手が報復で撃って来たら、自分も死ぬし相手も死ぬって展開になったりもする」

「聞けばバカらしいとも思うが、実際そのような状況になったら、何も考えずにやってしまうのだろうな、余らは」

「多分な。陛下がバカだって言ってる訳じゃないけど、文明が成熟しきらない内にそれに見合わない技術を持っちまうと、その辺の歯止めを利かせ難いんだ。先の想像が出来ないって言うのかな。『このままこれ続けてたらやばいぞ』っていう危機感を抱けないから、そのまま続けちまうんだ。んで、結局滅亡したりする」

簡単な話だろ? と、カールハイツは手を広げる。その広がりが世界の滅亡を意味するのか、それとも別の意味を持つのか。

何にせよ、ババリアは彼のにやけ顔から目を離せなかった。


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