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趣味人な魔王、世界を変える  作者: 海蛇
6章 時に囚われた皇女
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#6-3.アンナちゃん誘拐計画草案

「――なるほど、それでそういう状態に落ち着いた訳ですね」

謁見の間に用意された椅子に腰掛ける金髪の娘が、君臨する皇帝へと微笑みかける。他でもないカルバーンである。

「ええ、まあ。今回の事、貴方も巻き込んでしまい申し訳ないと思っている」

「いえいえ。おかげで長年会いたかったアンナちゃ――姉とも再会できましたし……」

力なく笑うシフォンに対し、カルバーンはにこやかであった。

「機嫌がよさそうですね?」

「ええ、まあ」


 先日城内に現れた黒髪長身の女魔族『ブラックリリー』。

目の前に機嫌よさげにニコニコしている教主殿が、その双子の妹だというのだ。

シフォンには今でも信じがたいものだが、対面してみれば確かにブラックリリーと教主は顔立ちがそっくりで、髪や目の色、背丈などは違うものの、双子と言われれば違和感は全くなかった。


「それで、わざわざ呼び出したご用件とは?」

実は、今までの話は全て、カルバーンに対する一つの『説明』の一つであった。

それは、現状をかいつまんでのものであったり、事件の根本にあった原因等であったりしたが、具体的に彼女を呼び出した理由そのものではなかったのを、カルバーン自身も承知していた。

「教主殿には申し訳ないが、貴方が魔族であり、そして、あの場に居たただ一人の部外者である事も考え、状況が安定するまで、ここに留まって頂きたいと思っているのです」

実に申し訳なさそうに眉を下げるシフォン。その表情から、人の良さがにじみ出ていた。

「つまり、今回の件について、情報を外に漏らして欲しくない、と」

「要らない混乱を招くだけでしょうから。会談に臨むにせよ拒絶するにせよ、今、他国の付け入る隙を与えたくない」

魔族との関わりを持つという事は、それだけ危険を伴うということなのだ。

国を預かる身としては、こんな多大なリスクを背負ってしまう選択を迫られている今は、わずかな事であっても油断できない。

為政者としてのシフォンは、この金髪の教主を信頼していないわけではなかったが、それでもわずかな可能性を無視できずにいた。

「良い判断だと思いますわ。まあ、アンナちゃ――姉の言う限りだと、しばらくの間各地の魔王軍は防衛戦以外の戦闘をするつもりがないみたいですし、しばらくはこちらに厄介になりますわ」

事実上の軟禁通告なのだが、カルバーンも事情は察してか、驚く事もなく受け入れる。

「ありがたい。出来る限りの歓待はするつもりです。どうぞ、自分の城だと思ってくつろいでいただきたい」

「ええ。そうさせてもらいますわ」


 これで用事が済んだものと思ったカルバーンは、すまし顔でぺこりと頭を下げ、席を立った。

「それじゃ、用事はこれでよろしいかしら?」

「ええ、用件はそれだけですが……教主殿。これは個人的な質問だと思っていただきたいのですが」

その場から立ち去ろうとしていたカルバーンに、シフォンは止めようと手を挙げた。

「何でしょうか?」

不思議そうに首をかしげながら、カルバーンはそのまま立ち止まった。

「その、貴方は、姉君とは仲が良いようですが……彼女と一緒に魔界に戻るつもりは?」

「んー……今のところはないですね。というか、次にここに来たら誘拐して一緒に暮らす予定です」

油断したところをがっと捕まえるんです、と、ぎゅっと握りこぶしを作って見せたりする。

「そ、そうですか……」

誘拐という単語で頬をひくつかせたシフォンであるが、なんとか教主にあわせて笑おうとする。

「ご安心ください。私は魔族ですが、別に人間に恨みがある訳でも、取って食べちゃおうとか考えてる訳でもないですから。だって、こうやって話して笑いあえるんですもの。殺しあうなんて馬鹿みたいだわ」

私と貴方は共存できてるでしょう? と、カルバーンは笑う。

「ええ、そうですね。教主殿、貴方は、今回の会談について、どう思われますか? やはり、魔王討伐を考えている教団としては、会談に反対ですか?」

「すごく複雑ですが、中央部がそれによって安定するというなら、一つの選択だとは思いますよ。もちろん、蹴ってあくまで魔族と対立する、というのであれば、わが教団は喜んで力をお貸ししますが」

ここでの大帝国の選択次第で人間世界全ての情勢に大変革が起こると言っても過言ではないのだが、カルバーンはあくまでアドバイス位のつもりで軽く言っていた。

「会談するだけでも色々変わるでしょうが、話し合うということは、何かを決めるという事。魔族との和平が結べるかもしれないし、単に戦争にルールが課せられるだけになるかもしれない。ただ、無視して戦争を継続しても、状況は今と何も変わらないでしょうから……」


 逆に言うなら、現状のまま押し切れるなら蹴っても問題ないという事なのだが、生憎と状況的に、それほど余裕があるわけではないのはシフォンにもよく分かっていた。

南部の軍勢が、今後どのように動くかが解からないのだ。

ここ最近は対魔王軍の動きで忙しい様子だが、それでもいつ北上してくるか解からない。

魔王軍相手でも苦しいのだ。

ここで魔王軍と一時的なりにでも不可侵を結べでもすれば、その間に体勢を立て直す事も、南部を攻撃して潰す事もできるかもしれない。

そう考えれば、これは決して不味い話ではない。

ただ、魔王軍が何を考えているのかは、実際に会談してみなければ解からない。

想像する事すら難しく、結果さまざまな方向性で対策を練る破目になっていた。


「ありがとう。参考程度に考えさせてもらいます」

教主なりの立場に沿った、出来る限りの真摯な答え。

それに満足したのか、シフォンは頬を緩め、礼を告げる。

「ええ。それ位で結構ですわ。それでは」

その礼に、それ以上の質問はないと取ったのか、カルバーンは背を向け、謁見の間から去っていった。


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