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趣味人な魔王、世界を変える  作者: 海蛇
6章 時に囚われた皇女
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#4-4.大事件発生

 少しして、部屋のドアに、コン、コン、コン、と、控えめなノックの音が三回。鳴り響く。

「……? どなた?」

じっとしていた為にすぐにカルバーンは気付き、起き上がってノックの主を問う。

『城内衛兵隊の者です。緊急の用事故、我等が主が教主様にお話したい事があるとの事で参りました』

衛兵を名乗る男の声であった。声の質等ははっきりとしていて、よく通る、なるほど確かに衛兵としてはそれらしい張りのある声であった。

「……衛兵が私に?」

何の用事かしら、と疑問に思いながらも、その違和感に警戒する事なく、カルバーンはベッドから降り、ドアを開けようと近づく。

鍵を開き、ノブに手を伸ばす直前。


『ぐぎゃぁっ!!』


「っ!?」

突然響いた悲鳴のような声。グシャ、という何かが刺さるような音にカルバーンは不意をつかれビクリとし、後ずさる。

「な、何事……?」

何が起きているのか解からない。とにかく、状況を察するのが優先だと思い至り、慎重にドアから離れる。

『教主殿。教主カルバーン殿。ご無事ですかな? 賊は討伐いたしました。どうぞご安心を』

少しして、荒い息と共に、先ほどとは違う男の声で、教主を案ずる声がした。

「……賊ですって? 城内に賊が?」

だが、それは信じられない言葉であった。このような場所に賊が入り込むなど、あっていい事のはずがない。

何が起きているのかますます理解できなくなってしまう。

『衛兵隊のクーデターです。エリーシャ殿の不在を狙っての蜂起かと』

「なっ――」

声の主が何者かは解からない。

だが、これが仮に本当なら、状況は一刻を争う。

カルバーンは即座にドアを開けた。


「あっ――」

そこに立っていたのは、どこかで見たような顔の壮年の兵士であった。

足元には先ほどまで立っていたであろう衛兵が数名。血溜まりの中倒れ伏していた。

カルバーンが突然ドアを開けたので、兵士は少し唖然としていたが、その顔を見るや、キリリと頬を引き締める。

「教主殿。ご無事そうで何より。退避の為のルートは確保しております。どうぞお逃げください」

「シフォン皇帝とヘーゼル皇后は!?」

何より、この二人の心配が第一であった。魔王による先帝暗殺の悪夢が蘇る。

ここでシフォン、その心の支えたるヘーゼルのいずれかが失われれば、それは大帝国にとっても、大帝国ありきの戦略を立てている教団にとっても致命的な事態になりかねない。

二度はないのだ。

「ご安心を。既に安全なところに退避しております」

にかりと小気味よく笑う兵士。

「そう、よかった――」

その言葉に心底安堵し、カルバーンは大きく息をつく。

「案内して頂戴。こんなところで死ぬつもりはないわ」

「はっ!! お任せください!!」

ピシリと敬礼をし、兵士は背を向け走り出す。

カルバーンもまた、それにあわせ走った。



 逃走の折、城内は、にわかに混乱し始めていた。

まだ広がりきってはいないものの、ところどころ剣撃の音、それから男の悲鳴じみた叫び声が響き渡る。

やがてそれは城内全体に伝染し、明確に『戦場』となっている事をカルバーンらに思い知らせる。

「あなたっ」

後ろを走りながら、兵士に対し声を掛ける。

「貴方、確か、門の前に立ってた兵隊よね? なんでこんな――」

「おお、教主殿に覚えていただけるとは光栄。長年門番を務めた甲斐がありました」

追いかけているカルバーンからでは解からないが、兵士はニカニカと頬を吊り上げ、豪気に笑っていた。

「『上』からの命令ですよ。貴方を、そして城内要人の誰一人として、殺させてはならないと」

走りながらの会話であるが、魔族であるカルバーンは当然としても、鍛えられているとはいえ、この兵士が息一つ切らさず流暢に話しているのは、カルバーンにも若干の違和感があった。

だが、今はそんな事気にしている暇もなく。

兵士が走る後を、カルバーンはただ追うだけであった。


「着きました。こちらへ」

兵士が案内したのは地下階層。

人一人が通れる狭さのドアの前である。

「ここに?」

「こちらに皆様が集まっております。我々の『上』の者も、ね。どうぞ」

確認するように様子を窺うカルバーンに、兵士はにやりと口元を歪めながらドアを開け、中へと入っていく。

カルバーンもそれを見て、とりあえず後につき入る。


「おお、教主殿か。ご無事なようで何よりだ」

「シフォン皇帝。それにヘーゼル様も」

入り口とは裏腹の広めの倉庫。

そこにいたのは、シフォンをはじめ、ヘーゼルや大臣……城内の要人や侍従らであった。

「ああ、よかったわ。教主様の身に何かあってはと、シフォン様と話していたのです」

皇后ヘーゼルも、身重なお腹をさすりながら、カルバーンの無事に安堵している様子であった。

「ご苦労であったな、門衛レーデルよ。お前たち忠義者のおかげで、我らは全員無事なまま、こうして危機を免れている」

「お褒めに預かり恐縮……と言いたい所ですが、皇帝陛下。これは上の命令に従っての事ですので……」

皇帝じきじきの賛美であったが、レーデルと呼ばれた兵士はキリリとした表情を崩すことなく、皇帝の前に傅く。

その言葉に、カルバーンは先ほどよりの違和感を益々強める。

「それだわ。上の者、と言っていたから、てっきり皇帝陛下の指示でこうしているものと思っていたけれど。違うようね」

「ええ。ここに集められた皆が、彼らの言う『上の者』が誰なのか解からないのです。当然、私もそんな指示を出した覚えもなく……」

シフォンの言葉に、集まった要人らも「うんうん」と首を頷かせる。

つまり、彼らは全員が兵士らの言う事を真に受け、『上の者』が何者なのかも解からないまま集まっているという事になる。

これは危険なのではないかと、カルバーンは思ったのだ。

「レーデルよ。どういう事なのだ? お前達にこの度の我らの避難の為動かせた者とは、一体――」

「それも間も無く、お分かりいただけるかと――」

ひたすら傅くばかりのレーデルに、シフォンはこれ以上問うのは難しいと考えたのか、「そうか」とだけ呟き、押し黙る。


 やがて、こつ、こつ、という足音が響き、静まり返っていた室内はまた、にわかに騒がしくなる。

反乱兵がこの地下まで押し寄せたのではないか。

そう考え、怯え始める侍女らも居た。

レーデルも腰の剣に手を掛け、閉じられたドアの脇に静かに立つ。


 やがて、ぎぃ、と音を立て開かれたドア。

一堂が注目するそこには、黒髪の、やけに背の高い女が立っているのが見えた。


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