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趣味人な魔王、世界を変える  作者: 海蛇
5章 『勇者に勝ってしまった魔王のその後』
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#14-2.ことのしだいのせつめい

 その後、玉座の間に戻った魔王をラミアが出迎え、再び魔王城は主を取り戻す事となる。

エルゼは途中で自室に置いてきた。

部屋に置いたままの土産物の山を見るや、目を輝かせたエルゼをアリスに任せ、こうして玉座に戻ったのだ。

何せこれからする事は、とても大切な話であるからして。

大人の会話に子供は入れるべきでないと、魔王も考えたのだ。

「それで陛下、肝心の目的、果たせたのでしょうか?」

会話の先端はラミアが作った。今回の旅の、そして戦いの、その結論はいかに、と。問うたのだ。

「うむ。見事果たせた。金色の竜がな、思いのほかカルバーンと深い関わりがあったらしい。アンナを見て、ひどく驚いていたよ」

「まあまあ」

首尾よく目的を果たせたという魔王の返答に、ラミアは気をよくして目を細めた。

「金色の竜……エレイソンと言ったか。アレは、カルバーンの養父として、教団のシンボルとして協力していたらしい」

「カルバーンの……一体どのような経緯でその、養父などと……?」

「ある時偶然出会って、そのまま共に過ごすうちに、自然とそのような関係になっていたらしい。同じ金竜同士、何か感じるものがあったのかもしれんな」

魔王らが彼の金竜から聞いた話は、あくまで全体の一部。彼が語ろうと思った事だけを聞いたに過ぎなかった。

それでも、事情を知らなかった魔王らにとってはその情報はとても大きなものであり、ようやくして知る事の出来た一つの真実であった。

「して、金色の竜とは、どのような話を?」

「うむ。まずアンナを見せて、彼女がカルバーンの双子の姉である事を説明した。彼は驚いていたが、事情を話すや、突然涙を流し始めてね……正直、驚かされたよ」

あれはすごかった、と、魔王は思い出しながらに語る。

「『全てカルバーンの誤解だったのだ』と。『カルバーンは孤独などではなかったのだ』と、勝手に納得して泣いていたが。まあ、こちらの立ち位置はなんとか理解してくれたよ」

魔王にとっては僥倖ぎょうこうとも言えるもので、この一件のおかげで話がスムーズに進んだと言っても過言ではない。

まさにアンナスリーズ様々である。


「それはようございました……私はてっきり、そうは言っても戦闘になる可能性も考えていたのですが」

「うむ。最初は険悪だった。探しても中々見つからないから、どうしたものかと思ったところで、アンナが突然歌いだしてね……これがまた、声色は綺麗なのだが、音程が……私もあまり人の事は言えないが、外れていてね。聞くに堪えなかった」

あれは酷かったなあ、と、魔王は苦笑する。それとなく耳を押さえるジェスチャーもつけて。

「まあ、あの娘、音痴だったのですか」

「とても残念な事にね。いや、その歌がエレイソンを呼び出すためのキーとなる歌らしかったのだが、呼び出すは呼び出せたのだが、あまりに酷すぎる歌声にエレイソンが激怒してなあ……」

「なんとまあ」

「『私の思い出を穢しおって』とかなんとか、怒鳴りながら現れてさすがの私も焦ったぞ」

笑い事ではなく、一歩間違えれば話し合い以前の問題で激怒したエレイソンによって虐殺されるところだった、と、魔王は分析した。

「攻撃されるか、という所で、アンナが私の前に出てかばおうとして、その顔を見たエレイソンが、彼女をカルバーンと見間違えて躊躇してくれてね。おかげで話し合う為の隙ができた」

まさにわずかな心の隙間に生じた、貴重極まりない交渉ポイントであった。その隙を、魔王は上手く掴んだのだ。

「怒らせたのもあの娘なら、交渉のテーブルにつけたのもあの娘のおかげ、という事ですか」

「そして上手く行ったのもアンナのおかげだ。私一人ではどうにもならなかっただろう」

やはり、今回の話のキーはアンナであり、彼女を連れて行ったことは正解であった。


「カルバーンが何故魔王軍を敵視しているのかも解かった。あの娘、事もあろうに、私が先代を殺したと思い込んでいたらしい」

「以前の私のようですわね」

「ああ、だが誤解で逆恨みされて殺されたのではたまらんからな。なんとか誤解を解きたいのだが――」

ここで、魔王は言葉を詰まらせる。

不思議に思い、ラミアは首をかしげながら玉座におわす魔王の次の言葉を待った。

「……こちらに関しては失敗した。カルバーンは、エレイソンでは止める事が出来そうにない。エレイソンは、カルバーンに言われるまま、今の状態になっていたらしいからな」

「つまり、誤解を解くには、直接カルバーンと話す必要がある、という事ですね?」

「うむ。そういう事になるな。だが、果たして彼女が話を聞いてくれるかどうか……」

魔王には幼少期のカルバーンしか記憶にないため、その頃の彼女に準拠した性格で考えた場合、話し合いなんて到底通じそうにないものと思えてしまっていてた。

「でしたら、アンナにカルバーンを説得させてみては? 少なくともカルバーンは、アンナには比較的従順でしたから……」

「そうなるだろうな……しかし、ここで問題になるのがだな……アンナってその、カルバーンをそこまで抑止できていたかっていう点なんだが」

魔王の記憶にある双子は、いつもカルバーンが前を走り、アンナが遅い足で追いかけていた。

カルバーンが何かする前にアンナが止めるのではなく、カルバーンが何かした後に、妹の代わりに謝ったり、カルバーンに注意しているだけで、だからか、魔王にはアンナはいつも謝ったり怒ったりしていた記憶があった。

つまり、アンナにはカルバーンは止められないかもしれない、と、魔王は思ったのだ。

「今のカルバーンがどうなっているのかは私には解らんが、前と同じ性分のままなら、止めようとしたアンナが暴走したカルバーンに引きずりまわされる光景が浮かんでしまうのだが……」

「それはちょっと……なんというか、いただけませんわね」

魔王の嫌な想像に、ラミアも苦笑しながら視線を逸らす。

魔王軍最強がひきずりまわされる光景は、ラミア的にもちょっと想像したくない光景だったに違いない。

「まあ、仮に誤解だったと理解してくれても、今の彼女は教団を率いる教主様だ。無責任に投げる訳にもいかんだろうし、立場的に難しいよなあ」

色々と引き返せないところまできてる感がひしひしと伝わり、魔王も頬に汗を流す。

「やはり、アンナに説得を任せるしかないのかもしれませんね」

「そうだなあ、カルバーンがまともに話を聞いた相手は、アンナの他には先代しかいなかったようだし……いない者を頼る訳にも行かんしなあ」

全くもって、ろくでもない災厄ばかり残す先代である。

キメラの件もそうであるが、毎度毎度ろくでもない事ばかりツケにして魔王に払わせるのだ。

払わされる魔王はたまったものではない。自己責任でどうにかして欲しかったものである。


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