#13-2.勇者パーティー離脱
ほどなくしてレッテに到着。
集落の長に用事があるからと、コニーとレナスはそのまま別れ、また、二人の旅に戻った。
「……案外あっさりと別れたもんだなあ」
二人とも、最後まで良い笑顔のままであった。
「あのコイン、何か価値があるものだったのですか?」
報酬はいらないからと最初に言われていたが、それでもせめてのお礼にでもと、魔王は二人と出会う前に賊を蹴散らした際に手に入れた、古びたコインを一枚ずつ渡したのだが。
二人はとても驚き、喜んで受け取ってくれていた。
それが黒竜姫には不思議だったらしい。
「いや、私が知る限りただの古いコインだと思ったが……歴史的価値もないし、古物商でも欲しがらないようなただのコインだぞあれは」
モノが古いので珍しいことには違いないが、相当マニアックな代物であり、商品としての価値はないはずであった。
あくまで記念品的なつもりであげたのだが、どうやら彼女たちにはとても価値のあるものだったらしい。
元々愛想の良い娘たちであったが、それを見た瞬間目を輝かせていたのを魔王は忘れない。
「きっとコインマニアか何かなんだろうな。蒐集家なんだろう」
「はあ……公爵様のように、何かを集めるのが好きという事ですか?」
黒竜姫的には未だに理解の出来ない趣味ではあるが、どうやら人間としてはそこまで珍しいものでもないらしいのだと黒竜姫も聞いていた。
実際、勇者パーティーである事以外は普通の人間の娘っぽかったあの二人がそれなのだから、そんなに変わった趣味でもないのだろう、と。
「まあ、そんなところだろうね。暇さえあれば、その辺りも掘り下げてお喋りする事もできたか。このタイミングで解かるのはなんとももったいない話だが」
少し残念そうに、魔王は苦笑していた。
そちらの話題なら魔王も楽しくノレただろうに。
「そうなったら私が一人除け者にされていたでしょうね」
黒竜姫はというと、さほど面白くもなさそうに、小さく息をつく。
「私は、やっぱり二人だけの旅の方が好きですわ」
魔王の外套をそっと掴み、傍に寄り添う。
その仕草だけなら、既に立派な公爵夫人の様であったが。
「まあ、ここからはまた二人旅だ。そうゆったりとはできんがね」
魔王もそれを振り払うことはせず、掴みたいままにさせていた。
公の場では妻として。そのままに振舞うなら、あくまでフリであるその範疇を越えないなら、それは許容すべきなのだから、と。
既に日が暮れ掛けていたが、魔王と黒竜姫は一時間ほどレッテで休んだ後、そのままディオミスへと出立する事にした。
流石に夜道を登る者は他には居ないのか、集落の出口は人影一つない。
「さて、行くか」
それが、この二人にとってとても都合がいいものであった。
「はい。遅れた分を取り戻しませんと」
何せ、件の竜がどこにいるのかもよくわからないのだ。
教団本部に着いたとて、そこにいなければまた探さなくてはいけなくなる。
たどり着くよりも長くなるかもしれないのだ。
険しい山道を幾日も歩き通すことを考えるなら、今は急ぐに越したことはないだろう、と。
そうして山を登り始め、五時間ほどが経過した。
夜目が利く訳でもない為、あらかじめ用意してあったマジックランタンを手に歩いていた二人であったが、黙々と歩いていく内、次第に岩肌が目立つようになってきた辺りで、魔王は歩を止めた。
「少し休もうか」
先ほど急ごう、と話し合っていたのに、早速の休憩であった。
確かに見通しの悪い道を歩くのは不慣れな二人にとって多少の苦痛にはなっていたが、まだ大して経ってもいないのに早すぎはしないか、と、黒竜姫はため息をつく。
「……解かりましたわ」
だが、それでも『この方がそれでいいなら』と、黒竜姫は諦めがちに受け入れた。
適当な場所で腰掛け、ランタンを地面に置く。
真っ暗な中、ひんやりとした風が吹き、二人を冷やしていた。
「少し冷えるな。火でもつけるか」
地面に置いたサックから携帯燃料を取り出し、火をつける。
すぐにぼわ、と暖かな光が噴き出し、冷え込み始めていた空気を和らげていった。
「…………」
どうしたらいいのか解からず、黒竜姫は黙ってしまう。
魔王もすぐ目を瞑りだしてしまい、これはまた昼寝と同じパターンなのか、と思うと、なんだか虚しくなってしまっていた。
だが、魔王はそこで目を開き、黒竜姫を見つめ出す。
「レッテはどうだったかね?」
突然、話を切り出す。
「何やら、集落の娘さんに話しかけられていたようだが」
休憩を取っていた時のことを思い出しながら、魔王はそれを黒竜姫に問うた。
「別に……大したことではありませんわ。私を見て、件の教団の教祖と勘違いしただけです」
それがあまり面白くないのか、黒竜姫はツン、とそっぽを向いてしまう。
「教祖とねぇ……まあ、その娘は何も知らないのだから仕方ないよなあ。まさか双子の姉です、なんて言えないしなあ」
「今でも私と同じ顔なのは安心しましたが……服装がまったく同じで気づかなかったとか言われて、軽くショックを……」
「何故?」
「だって、服のセンスが妹と同じとか嫌じゃないですか。私はあくまで私らしい格好にしようとしてるだけなのに。趣味が丸かぶりって……」
黒竜姫には黒竜姫なりの拘りがあったらしかった。
「なるほどなあ……そうだ、良いことを思いついたぞ」
不満そうにする黒竜姫に対し、魔王は善くない顔でにたりと笑っていた。
(な、なんか嫌な予感が……)
自分の身に降りかかる面倒ごとの空気に、黒竜姫は眉を下げこれからどうなるかを案じてしまう。