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趣味人な魔王、世界を変える  作者: 海蛇
5章 『勇者に勝ってしまった魔王のその後』
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#9-2.勇者パーティーの奮戦

「もうすぐ……この狭い道の先がテトラですから」

道は更に狭まる。

道の右側は鬱蒼と生い茂る森。左側は急な坂、その下は小川となっていた。

崖というほどでもなく、登れば登れる程度のものながら、先の道はどんどん急なものとなっていく。

「……一本道だから進むのはできるんだろうけど、馬車で通るのは難しそうな道だね」

「ええ、だから、御者の腕が問われますよ。雨の日なんかは絶対に走りたがりませんし」

すれ違うことも難しいんです、と、歩きながらに説明するコニー。

辺りをちらちらと見るのを忘れない。未だ警戒態勢のままなのだ。

「とにかく、ここを抜ければ――」

そう、一本道なのだ。そして道は狭く、逃げにくい。

坂を下れば川の先へ逃げられるだろう。だが、では、もしも。

森と川の双方から襲撃されたら、どうなるだろうか――


「――コニー!!」

違和感を感じたのか、後ろからレナスが大きな声。

「きたかっ」

コニーはすぐにショートソードを取り出し、魔王らをかばうように立った。

賊の襲来。その数はぱっと見だけで十以上。フードで顔が隠れているものが多かったが、皆口元はにやついている。


「……あの、これ、どうしたら……」

黒竜姫は、戸惑いながら魔王の顔を見た。

「私の後ろに。前に出ないように」

魔王も剣を取り出す。鈍く光る大剣。

黒竜姫の前に立ち、いかにも「私が守るよ」と言わんばかりの台詞であったが、実際には違う。

加減の下手そうな黒竜姫に変に暴れさせるより、自分が前に立ったほうがいいと思ったからそうしているに過ぎなかった。

「……分かりました」

黒竜姫もなんとなしに魔王の言わんとしている事を察したのか、余計なことは言わず言われるままにした。


「なんだよ、女ばっかじゃねぇか。抵抗やめろよ。抵抗しなきゃ殺さないぜ?」

森の方から現れた一団の中、賊の頭らしき禿げた男が、一歩前に出て下卑たにやつき顔で品定めを始めた。

「へへ、旅の貴族様ご一行って感じか? ずいぶん護衛が少ないが……うひっ、すげぇ美人ちゃんじゃねぇか。ちょっと背が高すぎるけど胸も尻もすげぇ……ひひひ、俺の女にしてやるよ」

黒竜姫の顔と身体を見て舌なめずりする。野盗など大概そんなものなのだろうが、なんともゲスな男らしかった。

「気持ち悪いわ……見ないで頂戴、吐き気がする」

黙っていられず、思わず毒を吐いてしまう黒竜姫。

「……んだと?」

はっきりと言われていた為に聞こえてしまったらしく、賊の頭は乾いた禿げ頭をプルプル震わせていた。

「気持ち悪い顔を向けないでって言ったのよ。ゲスが。身の程を知りなさい」

「あ、アンナさん……いくら本当のことでもあんまり挑発するのは……」

「まあ、私もこういう人はちょっとないわーって思ってたけど、それでも黙ってたのに」

黒竜姫を止めるつもりなのか、それとも追い討ちをするつもりなのか、コニーとレナスも容赦なく毒を吐く。

(女って怖いなあ……まとまると特に)

魔王はそんな三人を見て、女の怖さを再認識したのだった。

「く、クソがっ、馬鹿にしやがって!! 待ってろよ、そこの気障ったらしい貴族親父ぶっ殺して、一週間なぶり続けてやる!!」

「ああ、殺されるのは私の方なのか」

三人が煽った分だけ自分が狙われるという訳の解からない方程式が突然生まれ、魔王は苦笑していた。


「公爵様、こうなっては逃げ切れません。私たちでなんとかしますので、怪我だけはされないように」

背後に魔王らをかばい、コニーはじりじりと来た道へと下がっていく。

「うむ、頼んだよ。私はこう見えて、あんまり剣の扱いが上手くない」

「大丈夫です、サマになってますから」

囲まれて、逃げ道がなくなっているにもかかわらず、コニーもレナスも冷静であった。

というより、冷静さを失った結果どうなるかが目に見えているので、そうならざるを得なかったのかもしれない。

 この賊たちの頭は、抵抗しない女は殺さないと公言した。

それはつまり、女は連れ帰って慰み者にするつもり、という事だ。

コニーもレナスもそれが解かっているので、自分たちが無事に生還するには戦って勝つしかないのだと腹をくくっているのだろう。

このような状況になっても尚、魔王らを見捨てようとせず守ろうとするのだから、彼女たちの勇気は本物に違いなかった。

「まあ、お手並み拝見といこうか」

もちろん、彼女たちの決意などと関係なく、二人が死ぬような事があれば魔王は即座に本気を出して賊を皆殺しにするつもりなのだが。

とりあえず、この二人組の勇者パーティーの実力のほどを見せてもらうことにしたのだ。


「はぁっ!!」

コニーはショートソードを短く持ち、力をこめて突き刺す。

「ぐぎゃぁっ」

まず真っ先に挑みかかった賊はそのまま胸を刺し貫かれ、絶命した。

「くそっ、手足の一本位叩き切っちまえ!!」

石斧を持った巨漢が逆上してコニーに襲い掛かる。

絶命した賊から剣を抜き、振り下ろされる斧をかわすコニー。

「うぐ――っ」

どす、と、唐突に右足にクロスボウの矢を受け、巨漢は体勢を崩した。

「もらった!!」

その隙を上手く突き、コニーはショートソードを振りかぶり、巨漢の首筋を切りつける。

「ぶぇっ!?」

声にならぬ声を上げながら血しぶきを飛ばす巨漢。そのままビクビクと痙攣し、倒れこんだ。

「こ、こいつら……手馴れてやがる」

賊共はその一連を見て、とたんに緊張感を強めた。



「ほう、いい連携だなあ」

魔王はというと、襲い掛かる賊の攻撃をなんとか剣でいなす振りをしながら、二人の戦闘を眺めていた。

時々黒竜姫の顔を見て、暴れださないように監視するのも忘れない。


 コニーは軽装である。あまりリーチの長くないショートソードで奮戦していた。

身のこなしは軽く、反射神経が優れているのか、賊の攻撃はほとんどかすりもしない。

正面からの攻撃は容易くかわしたりいなしたりする。


「コニー! 右から!!」

「あいよー!!」


 乱戦の為に時折背後から不意打ちを受けそうになるが、それはレナスがクロスボウでの狙撃や声による警告で援護していた。

動きが軽くレナスとの連携が取れてはいるが、コニー自身の剣の腕はそれほど優れているとは思えなかった。あくまで魔王視点では、だが。

剣を振る速度自体は中々に速いのだが、体重が全く乗っていないので殺傷力そのものがあまり高くないのだ。

おかげで、最初の賊以外は致命傷になる攻撃を中々与えられず、二度手間、三度手間となっていた。

 レナスの狙撃の精度は高いが、武器がクロスボウな所為で装填に時間がかかるという難点もある。

レナス自身が襲われた際にはレナスはナイフで応戦したりしているが、こちらもクロスボウの狙いの正確さとは裏腹に心もとない動きとなっていた。

少なくとも、装備選択や相性的に、乱戦になりつつある今の状況は、レナスには苦しいものとなっているらしかった。

もっとも、それ以上に賊の動きが稚拙で、数を頼みにばらばらにつっこんできているだけな上、武器も原始的なナイフだの石斧だのばかりなのでそれでもなんとかなってしまっているのだが。


(彼女たちには悪いが、これ位の賊の群れならエリーシャさんは一人で瞬殺できるだろうなあ……)

とはいえ、魔王視点で頼りなく見えるこの二人ではあるが、それは魔王が彼女達よりはるかに優秀な勇者、エリーシャをよく見知っているからに他ならない。

何せエリーシャは大国の国家認定を受けた勇者である。

かつては教会からも認定された世界最高峰の勇者である。

一町勇者とその相棒に過ぎないコニーとレナスでは、比べるべくもなかった。


 魔王視点で見てもコニーは中々に軽快な動きをしていると思うが、それは別に人知を超えて速い訳でもなく、まして正確なものでもない。

敵が弱いからかわせているだけで、フェイントもなく回避をカウンターに活かせてもいないので、体力の消費も無駄に大きい。

 これがエリーシャならどうするか。

まあ、魔法で問答無用で一撃必殺してしまうだろうが、仮に近接戦闘で多数を相手にするならば。

まず、コニーのように一箇所にとどまるようなことはしない。動きの早さも倍位違う。

敵の攻撃をかわしながらそれをカウンターの為の軸にし、敵を倒しながら次の敵に向かい、その攻撃をかわしてカウンターを狙って、といった行動を取るだろう。流れるように動いていくはずだ。

更に攻撃時にはいくつものフェイントや足技を繰り出し、それによって相手に大なり小なり隙を作らせ、その隙を的確に突き、一撃の下相手を葬る。

コニーはショートソードで戦っているが、エリーシャならばナイフ一本あれば一人でこの程度の賊は蹴散らせるだろうと魔王は考えた。

いや、もしやするとナイフすらいらないかもしれない。

それ位に、今目の前で奮戦している勇者殿と、魔王のよく知る女勇者は体術に大きな差がある。


 つまるところ、これが正式に国から認定された勇者と、あくまで町の便利屋的な扱いの勇者の、どうすることもできない圧倒的な実力差であった。


「く、くそっ……こ、こんな奴らに殺されすぎだぞ――やってられっか!!」

賊共を七、八人ほど蹴散らした辺りで、禿げ頭は劣勢を感じたのか、わめき散らしながら逃げ去っていった。

「か、かしらっ!? 頭が逃げたぞっ、にげろーっ!!」

頭が真っ先に逃げたのだ、子分達も青い顔をしてほうほうの体で逃げ出す。

「ひぃぃっ」

「ちくしょーっ!!」

それぞれ悲鳴をあげたり叫んだりしながら。気がつくと、もう賊は一人も残っていなかった。


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