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趣味人な魔王、世界を変える  作者: 海蛇
5章 『勇者に勝ってしまった魔王のその後』
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#6-1.北部諸国連合会議

 もう夏にさしかかろうという頃の事であった。

南部や中央の多くの国々を制し、順調に版図を書き換えていく魔王軍は、北部においては活動が鈍くなり、ここから中央諸国に兵力を投入する事は度々あったものの、北部諸国に攻撃を仕掛ける事はほとんどなくなっていた。


 北部の盟をまとめる聖竜の揺り籠はこの『北部からの戦力投入』を押さえるべく魔王軍に対して度々牽制をかけていたが、それも虚しく、中央諸国からは魔王軍に敗北し、滅亡していく国家が増えていた。

幸いにして国が滅びる前に多くの民衆は他国への避難を終えていた事が多かったが、それでも国一つ滅びれば相当数の人質を取られる事となり、人類にとって苦しい展開が続いていた。

明確に侵略してくる魔王軍という恐怖に、心弱き迷える人々は宗教依存を深めていった。

これにより、教団の抱える兵力もますます強大なものとなっていったが、同時に二つの大きな問題を抱える事となってしまった。


 一つは、新たに教団に参加した信者達の、魔王軍への憎しみや復讐心が強すぎる事である。

力ある竜を信仰し、打倒魔王を掲げる教団の存在は、魔王軍によって様々なものを失った者達にとっては救い主のように感じられるものであった。

だが、同時に教団の掲げた目標が彼らの強すぎる負の感情を煽る形となってしまい、それが元で教団の現在の方針に異を唱え、急進的な行動を望むようになっていったのだ。

 二つは、そんな状況下にあるにも関わらず、魔王討伐の為の計画の要である大帝国アップルランドがあまり乗り気でない事である。

これは、先代皇帝シブーストを失った事もあるが、何より中央諸国連合が危機的な状況にあり、魔王討伐どころか現状を維持するだけでも必死という事態に陥っているのが最も大きい。

結果、教団は新たに受け入れた信者達の要求を満たす事が出来ず、信者達はフラストレーションを溜めていく事となる。

統制しきれない民衆はある時を境に暴徒と化す。

それを恐れた教団首脳部は、どこかでガス抜きが必要であるとの認識を強めていた。



「アルファ連峰の跡地に陣取る魔王軍を撃破するわ」

教団を始め各国の首脳部を集めた北部連合の会合にて、教祖カルバーンは高らかに宣言した。

各国の首脳や高官が座する円卓の上に広げられた巨大な地図。

カルバーンはこれに小さなステッキを当て、『アルファ連峰』を囲みこんだ。

「この地域の魔王軍を排除する事によって、北部から中央部への増援を食い止め、中央が反攻作戦を行いやすいように支援します!」

「ずっと反攻の機会を窺っていたと聞いていたが、いよいよその時が来たという事ですな」

北部諸国のまとめ役であるケッパーベリーの高官もこれには肯定的なようで、他国の要人達も納得の様子で頷いていた。

「中央部は魔王軍に追い詰められ危機的な状態にあると聞く。教団を介して兵力の融通を利かせていた我々としても、その人的取引きの有力な候補地である中央を失うのは避けたいですからな」

「結果的に中央と取引きを始めてから北部も豊かになりつつあったのだから、中央の為動く事に対して反対する理由は何もない。わが国は賛成である」

このほかにも賛成多数。というより全ての北部国家がそれを了承していた。

これには教祖も満足げに笑う。話は先に進められるのだ。

「差し当たって、西部はラムクーヘンより、対魔族用の新兵器が開発され、これが我が教団に譲渡されました」

「新兵器とな?」

旧パスタ王国重鎮だった将軍がカルバーンの言葉に眉を動かす。

「これは、大帝国が対ゴーレム用兵器として活用した事で有名な『カノン砲』を改良・小型化したもので、『ハンド・カノン』と呼ばれる携帯火器ですわ」

カルバーンが片手を上げジェスチャーを取ると、白い鎧に身を包んだ教祖親衛隊の兵が細長い鉄の筒を運び込んできた。

用意のよさもさることながら、その異様の形状に列席者らの間に「おお」とどよめきが走る。

「これが兵器なのかね? 槍の出来損ないにも見えるが……」

「余り強そうには見えないのう」

「こんなものを作るくらいなら鋼を上回る強度のナノシグナルソードでも量産した方がいいのではないかね? あれはレッドドラゴン相手に一定の効果を挙げたと聞くぞ」

一見兵器としてあまり強そうに見えないソレに、各国要人は疑問の声を挙げていた。『こんなものが本当に役に立つのか?』と。


「ハンド・カノン……カノン砲そのものは知識として知ってはいるが、これはどういう使い方をするものなのかね?」

ただ一人、前線で様々な兵器を扱っていたパスタの将軍が問う。ただの鉄の筒に見えるそれは、彼には『これは兵器である』と認識できていたのだ。

「カノン砲は対魔族・ゴーレム用兵器として一定の成果を挙げるほどの高火力兵器でしたが、ハンド・カノンはそれとは違う……言うなれば、一時期中央で流行っていた『砲撃魔法』に似た用法が出来る兵器と言えます」

「砲撃魔法なあ……しかし、時代は既に少数部隊による戦術特化が主流である。それに教祖殿、それを広めたのは貴方の教団ではないか」

砲撃魔法は、戦列を並べ向かってくる敵に対し一斉砲撃する事によって大打撃を与える対軍魔法である。

その名に相応しく、大部隊に対しての効果は絶大だが、反面敵がまとまっていなければ効率が悪いという欠点があった。

つまり、今の時代には全くそぐわない、旧世代の遺物と化していた。

そんなものを真似た兵器ができた所で、いったい今の時代で何ができるというのか。

要人らは、やはりこの鉄の筒には有効性を感じられなかった。


 しかし、教祖は笑っていた。その程度の反応は想定済みだと言わんばかりに。

「ハンド・カノンの最も優れている点は、その攻撃力と攻撃範囲にあります」

教祖が説明を始めると、要人らはそれ以上は何か言うでもなく、場は静まり返った。

「これまで弓矢では風向きを考慮しなくては使えなかった場面もありましたが、ハンド・カノンは風の影響も受けにくく、最大射程は狙撃弓と同等、そして剣や槍と同等の近距離戦闘での使用も可能であると確認できています」

「ほう、風に影響されずに扱えるのか」

「更に攻撃力ですが、鋼の鎧は言わずもがな、先ほどパルメザン大臣が仰ったナノシグナル素材の鎧も容易く貫通できますわ。つまり、距離と当たり方にもよりますが、ドラゴンの皮膚をも貫通する事が出来る可能性があります」

一旦は歴史に埋もれかけた火薬技術が、ここにきて唐突に日の目を浴びていた。

それは、大帝国がゴーレムによる脅威に晒され、カノン砲が活用された事が大きかったのだが、これにより、コスト高な対軍兵器ではなく、大量生産の利く簡易戦術兵器としての道を歩む事となったのだ。

「ドラゴンの皮膚を貫通するとは……ドラゴンスレイヤーが要らなくなるではないか!?」

それまで唯一と言っていいほど貴重な対ドラゴン兵器であったドラゴンスレイヤー。

ハンド・カノンの登場は、それまで国家防衛に必須とも言えた対竜兵器の存在を根底から覆そうとしていた。

「今の所コストは剣や槍と比べれば割高ですが、それでも投石器を数台購入する資金があれば、国家の全部隊に行き渡る程度の価格となっています。手入れも従来の対竜兵器より容易で、ある程度慣れれば誰でも使う事ができますわ」

「導入の際の都合のいい点はよく解ったが、どんなものにもデメリットやリスクというのはあるはずだ。それを聞こうか」

多くの要人がツゴウノイイ最新兵器の登場に目の色を変える中、一人だけ鋭い眼差しで油断なくそれを見ていた要人が問う。

「鋭いですわね。流石は『アクアパッツァの荒鷲』と呼ばれるロア将軍」

「褒めても何も出んよ。ただ、私はツゴウノイイ話には必ず裏があると思っているものでね……ひねくれているんだ」

教祖の言葉に苦笑しながら、初老の荒鷲は顔の前で手を組む。

「勿論、その説明もさせていただきますわ。このハンド・カノン。確かに強力なのですが、難点が二つほどあります。一つは暴発した際の被害の大きさ。つまり、人間相手に向けられた際の被害の度合いですね。これが尋常ではない点」

説明しながら、指を二本立てる。

「もし反乱分子に渡れば、恐ろしい事になるという事か」

「ええ、剣や槍は弓で押さえられますが、これは弓よりも強力な分、敵となった際にとても恐ろしい事になるのです」

それが一つ、と、指を折る。

「二つ目は、複雑な訓練を経ずに誰でも扱えてしまえる点。教え方次第ですが、クロスボウと大差ないレベルで習得が容易なのです」

「……それまで兵員足り得なかった者達が、即座に兵士となってしまう」

荒鷲は、その恐ろしさに唸っていた。


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