プロローグ
オリジナル小説に挑戦してみました。
至らぬ点もあるかと思いますので、ご指摘の程よろしくお願いいたします。
少し冷えたベンチの上で、私は本を読んでいた。
今までは興味も無かったし、最近までは特にこういう話のものは読む気にすらなれなかった。
「あ、またここにいたんだね」
「こんにちは」
私は簡単に挨拶を済ませると、再び文章を目で追い始めた。
「もう、あれから随分と経つね」
「今日で丁度二年になります」
彼女の名前は神崎かなで。私が幼い頃からお世話になっている人で、血は繋がってはいないが実の姉のように慕っている人物だ。
「後悔してる?」
後悔。彼女が言いたい事は、多分あの事なのだろう。
私は本から目線を外して上を見上げる。冬の曇り空からはヒラヒラと、まるで天使の羽のように粉雪が舞い降りてきていた。
「雪だね……風邪をひいてもいけないし、そろそろ戻りましょうか」
彼女に促されて、私は部屋へと戻っていく。
先ほどの質問の答えをまだ出してはいないままだったが、彼女は仕事に戻ってしまったため結局答えていないままだった。
部屋に戻った私は、引き出しの一番上に閉まってある手帳を取り出す。
丁度文庫本ぐらいの大きさの黒い手帳の中には、日記が書かれている。
パラパラとページをめくってみると、綺麗な文字で書き記されたその日記の日付は、二年前の今日から一週間前までで止まっていた。
何度も読み返したせいか、少しくたびれて来ているように思える。
ここでもう一度、先ほどのかなでさんの質問の答えを考えてみた。私は多分、それを調べる為にこの日記帳を手に取ったんだ。
私はカバーを指でなぞりながら、この日記の持ち主の事を考える。
朝霧孝太。
年下の男の子で、いつも本を読んでいた。
彼の影響で私も本を読むようになり、彼自身が書いている小説も読ませてもらっていた。
彼が書く物語のほとんどは恋愛モノで、そういった経験の無い私にとって彼の作品は当時ではかなり衝撃だったのを覚えている。
年下のクセに生意気だというのが、私が彼に対する第一印象だった。
今では随分と変わってしまったものだなと、私自身を笑ってみせる。
彼が私にくれたものは、彼の作品が書かれたノートが数冊と、この日記帳。
それに優しい思い出と……悲しい思い出だった。