表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

前編

本当は全部書いてから投稿予定でしたが仕事が忙しくてなかなか書けないので完成している前編投稿です



霧に覆われた山脈に響き渡る咆哮

その咆哮の主は鋭き牙と爪、空を飛ぶ翼を持つ種族"竜"であった

だがその姿は傷つきボロボロである

牙は片側が砕け、翼は片翼を根元から失い、左目からは血が溢れていた


「悪いな。だがお前さんが人間の領域を侵したのがそもそもの原因だ」


傷ついた竜の前に紫紺の髪の男が立っていた

腰のベルトに下がっている鞘に先端が反りを持つ片刃西洋剣シャムシール

その漆黒のレザーアーマーには不釣り合いな漆黒の金属の鞘に納められた背中の大剣ツヴァイハンダーに手をかける


「お前達が俺達を糧として食うように俺達もお前達を生きるために殺す」


背中の鞘が開き白銀の輝きを持つ刀身の大剣ツヴァイハンダーが露わになるや否や跳躍

竜は爪を振りかざすがその爪を足場とし更に高く跳躍

竜の頭を越えると同時に振り下ろす


――――グギャアアァァァァァァァァァ


ドゥン、と竜の首がずり落ちる

返り血を浴びた男は大剣ツヴァイハンダーを再び背中に戻す

すると開いていた鞘が自ら大剣ツヴァイハンダーへと纏わりつき元の形へとなる


「さて依頼達成か……確か角と牙だったな」


竜の遺体から角と牙を切り落とし紐で吊るすと荷物からローブを取り出し纏うと男は担ぎその場を去っていった




太陽と月が十四の入れ替わりを見た男はようやく目的地である一つの街に辿り着く

開放されている門を抜ける

小規模な街ながらも多くの人が通り賑わいを見せている中を縫う様に歩く


「相変わらずだ……この街は」


表通りから少し離れた酒場のドアを開ける

カランカラン、と音が鳴り酒場にいる者が全員男を見る


「あの人は!?」


「"竜狩り"の英雄シャイン・クレアラードだ……」


「あれがフリーランスの四英雄が一人……」


「四英雄最年少でありながら既に伝説の男か」


ざわつく店内を余所に男――シャイン・クレアラードはマスターの元に行き担いでいた角と牙を渡す


「依頼の品だ」


「全くいつもいい仕事してるね。流石シャイン、いつもの報酬だよ」


報酬として出された金棒を見てシャインは気づく


「討伐依頼の牙竜ファングドラゴンと蒐集依頼の牙と角、合わせてもこれは多い。何故550万シルトもあるんだ?」


「いつもの礼を兼ねてるのさ」


「依頼がなければただ働きの俺達に金をくれてるんだ。マスター、贔屓はよくない」


50万シルトを返すとシャインは店内にいる全員に向かって叫ぶ


「今日は俺の奢りだ!好きな物を飲み食いして構わないぞ!!」


「さすが英雄殿!」


「話が分かるぜ!」


「マスター!こっちに酒回してくれ!」


「こっちもだ!!」


あっという間に騒ぎ出す店内

残りの500万シルトが詰まった袋を背負うとシャインは店を出て行った




街の郊外へとある我が家へと向かう途中だった


「シャイン、ちょっと来てくれないかい?」


ひょろっとした男がシャインへと話しかけてきた


「今から月一の市場があるんだが今回あんたを一目見ておきたいという客が多いんだ。あんたがそういう事を嫌っているのは分かるが私も生活がある!家族のためにも頼む!!」


両手を合わせ頭を下げる男

内心ため息をつきながらシャインは告げる


「分かった。顔を上げて案内をしてくれないか?」


「すまないシャイン!こっちだ!」


男に案内されシャインは薄暗い建物へと男と共に入っていく

そこはまるでサーカスの劇場のようになっておりこの街では見かけない上質な絹の服を着た男達、いわゆる上流階級という者達が椅子に座っていた


(……この奴隷市場にはやはり慣れそうにはないな)


椅子に座り隣り合った者が話しかけてくるのを適当にあしらっているととうとう始まった


「皆様、本日は遠路わざわざご足労頂きありがとうございます。この月一度の市場開催いたします」


言い終わると同時にステージの奥から何一つ身に纏わず首輪と手枷を嵌めた狐耳と尻尾を生やした少女――フォックステイルが歩いてくる


「本日最初の商品はこちら。妖狐と名高いフォックステイルの少女です。1万シルトから開始します!」


次々と会場にいる者達が声を上げながら札を掲げていく


「はい、42番エーデル・ワルデリア様の20万シルトの落札です!」


鐘が鳴りエーデル・ワルデリアと呼ばれた男が首輪についている鎖を引きフォックステイルの少女を引きつれ会場から去って行った


「では次の商品と参りましょう!」


それからしばらくシャインは目の前で行なわれるそれを眺めていた

元々司会をしている男に頼まれ出ているだけなのだから参加する気はなかった




――――次の瞬間までは全くなかったのだ




それを見た時シャインは思った

綺麗だと


緩やかな胸の膨らみ

泥などで汚れていてなお目立つ白い肌とほっそりとした身体のライン

くすんでいるにも拘らず金糸と銀糸が入り混じり光を受け煌くような髪と緑色の瞳

首輪と手枷も相まってか触れたら壊れてしまいそうな印象を持つ少女


だがなにより特徴的なのはその少し尖った耳

その耳はその種族の特徴であり森の奥から出る事のないとされる種族――エルフ族

それが少女の種族であった


ざわつく会場内に司会の声が響く


「本日最後の商品はこちら!なんと森から出る事のないとされるエルフ族の少女です!10万シルトから開始とさせていただきます!!」


同時に次々と値段は釣りあがり120万シルトを越えると数人の競合いになっていた

そんな中シャインが静かに札を上げた


「250万シルト」


シャインが立ち上がりながら告げると会場の空気が変わった

英雄と呼ばれる男がまさかここで参戦してくるとは思ってもいなかったからだ


「300万シルトだ!」


だが一人の男は退かずに更に被せてくる


(英雄と称されようとフリーランスの傭兵如きに負けるなど!!)


男は持ってきた全シルトを上乗せしたがシャインの顔に何一つ変化はない

当然である

何しろシャインの手元には――――まだシルトが残っているのだから


「400万シルト」


シャインの声に男は唖然とし椅子に座り込む

辺りを見回し他に声を上げるものがいないのを確認する

司会の男もこれ以上は出ないと判断した


「50番シャイン・クレアラード様400万シルトの落札です!これにて今回はおしまいです!皆様、また次の月にお越しくださいませ!!」


ぞろぞろと会場から去っていく男達を尻目にシャインはエルフの少女の元に歩み寄る

少女は目と閉じ震えだすが気にせず懐からキーピックを取り出すと手枷を手早く外す


「しかしシャインが最後に参加するのは意外だったよ。気に入ったのかい?」


「奴隷として買ったんじゃない」


首輪の鍵も外すと着ていたローブをとりあえず羽織らせる

それから袋からシルトを出し机に置く


「400万シルトだ」


「いや、シャインに出てもらうのを依頼として……」


「それは別に構わない。こういう事に英雄などの肩書きは関係ないんだ。贔屓をすると後々困るのはあなただからな」


きっちり支払うとエルフの少女の元に戻る


「まずは服を買わないとな」


「……ボクに?」


「ああ。これから生活するのに困るだろう?」


エルフの少女が明らかに困惑しているが構わずシャインは歩き出す

置いてかれまいと、エルフの少女は慌てて追いかけた




表通りに戻ったシャインはある店の扉を開く


「メアリー、いるか?」


「あらシャイン。あなたが来るなんて珍しいわね」


赤いワンピースを着た女性――メアリー・フィルティーアはシャインの影に隠れた少女に気づく


「その子……あなたまさか」


「幼女を愛でる、とか言ったらその耳に指突っ込むぞ」


「あ、あはは……そんな事言うわけないじゃない(今親指密かに突き刺す用意してたわね……シャイン)」


シャインとは長い付き合いのメアリーはシャインが僅かに左足を下げ瞬時に距離を詰める様にしたのを見逃さなかった


「で、本当に何の用なのよ?」


「この子に似合いそうな服、それと防具を選んでくれ。予算は70万シルト内で頼む」


「はいはい毎度あり♪」


袋から70万シルトを出しメアリーに渡す

受け取ったメアリーは数を数えると少女の手を取る


「それじゃちょっと試着前にまずは髪や身体を洗いましょうね~」


「えっ……でもボク……」


「いいのいいの。それくらいはサービスよ。それにあなた女の子なんだから髪や身体はいつも綺麗にしておかないとね」


少女の手を取りメアリーが店の奥へと消えていく


「さてどう時間を潰したものか……」


残されたシャインはため息をつきながら待つことになった




それからしばらくしてメアリーが戻ってくる


「はーい、お披露目です」


おずおずと出てきた少女を見てシャインは思わず感嘆した


「相変わらずいい仕事だな、メアリー」


「ふふっ、そうでしょ」


汚れていた少女の肌は元の白さを取り戻し、金糸と銀糸が入り混じった髪はより煌いていた

肩を丸出しとするライムグリーンのへそ出しのビスチェ、その上にゴシック風の袖のないホワイトケープを羽織り背中の露出を抑えている

ケープの襟元はアクアブルーの可愛らしいリボンで止めてあり、僅かに露出している胸元には紫色の宝石をあしらったペンダントが輝いている

動きを阻害しないようにゆったりとして太腿半ばまでの短めなライムグリーンのスカート

そのスカートベルトには帯剣用の留め具、短めなスカートの中を見られないようにサッシュスカートを着用していた

よく見なければ分からないがその白い肌に近いニーソックスを履き靴も実用性の高いものを履いていた


「あ、あの似合ってますか?」


モジモジしながらシャインに尋ねるエルフの少女

その頭を撫でながら答える


「よく似合ってる」


自分のベルトから片刃西洋剣シャムシールを鞘ごと外し少女のベルトにシャインが着ける


「それ使わせるの?」


「元々軽量武器だしな。短剣ダガーナイフボウは家に戻らんとない」


「だから武器は頼まなかったのね。あ、これこの子の私服よ」


メアリーから背負うタイプのバックを渡されるがエルフの少女はそれをシャインから奪う


「ボクが自分で持ちます。マスターはいっぱい荷物持ってますから」


「そうか……分かった。あとマスターは止めてくれ。呼び捨てでいい」


キョトンとしていた少女だったがシャインの困っている顔を見て考える


「シャインさん、じゃ駄目ですか……?」


「……それでいい。それじゃ帰るか」


カランカラン、とドアを開け出て行くシャイン

それを追って出て行くエルフの少女


「いいコンビじゃない……」


クスッとメアリーは笑って窓から見えるその姿を見送った




郊外のクレアラード邸まではそれなりに距離がある

普段から鍛えて"竜種"すらも倒すシャインにとっては別段どうということはない距離だ

そう、シャインにとっては、だ


「はぁー、はぁー」


「……大丈夫か?」


「はぁー、だ、だい、はぁー、」


エルフの少女の様子を見てシャインは座る


「無理はするな。奴隷として扱われてから碌に運動もしてないだろ?」


荷物の中から水筒と取り出しエルフの少女に渡す


「飲んでおけ。もうちょっと歩く事になるからな」


「は、はい」


コクコク、と飲み始めるエルフの少女

ある程度飲んでから口を離した彼女はふと気づく


「あの……これってボクに渡す前に飲んでました?」


「んっ?当たり前だろう」


シャインが断言した瞬間エルフの少女の頬が真っ赤に染まる


(こここここれって間接キスですよね!?)


スス、っと水筒を返す少女

受け取ったシャインはふと気づく


「そういえば名前聞いてなかったな」


「……ボクに名前はありません。森から捨てられる時に名前を奪う習慣がありますから」


知られざるエルフの掟

それを聞いたシャインは暗くなり始めた空に浮かぶ月を見て決めた


「なら今日から"ルナライト・クレアラード"と名乗ればいい」


「えっ……?」


陽光シャインの対となる光、月光ルナライト。それがお前だよ、ルナ」


シャインが歩き出す

それをエルフの少女、いやルナライト・クレアラードが満面の笑みを浮かべながらついて行く

そんな二人を見守るように星が夜空に輝き始めていた





本当はこの前編で完結でもよかったのですが……

色々と考えてるうちに中編、後編と分ける事に



今更ですが続きはいつ投稿できるか分かりません




読んでくださりありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 短編で1話だけだけれど、とても面白かったです。小説を書く時の情景や人の外見、行動を書き表すのがとても苦手なので、すごく参考になりました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ