第七話 小説の世界と現実の人々
説明の部分は、小説の世界と現実の人々を知るローランドの視点で語られます。
小説の中のアーサーも現実のアーサーも、公爵家次期当主、王太子の側近、王位継承権第三位という肩書の重みにひどくプレッシャーを感じていた…。
そんな彼が従者で異母弟のフィリップの甘言に誑され、ギャンブルにハマるのは、思いのほか容易いことだった…。
最初のうちは自分の所持金でちまちまと遊んでいたのが、一度大きく当たる快感を覚えた後は沼にはまるようにズルズルと深みにハマり…気付いた時には公爵家の土地、資産を全て売り払っても返せないほどの借金を抱えるようになっていた…。
名門ガーランド家公爵令息ということで、際限なくツケが利いたのも良くなかった…。
(もちろん僕がそうなるように仕組んだのだけれど…それでも自分で律することが出来なかったアーサーが悪い)
自制心は、上に立つ者には絶対必要とされる条件だ。
異母弟のフィリップとしては、ずっと自分を虐げてきたガーランド公爵家への復讐だったので…ガーランド公爵家が潰れるのでも、公爵家自慢の異母兄が廃嫡になって、卑しい愛人の子と蔑まれていた自分がガーランド公爵家を牛耳ることになるのでも、どちらでも構わなかった。
小説の中で、アーサーを意のままに操るため、更に借金を膨らませるよう仕組んだのはナターシャだった。
ナターシャは借金を肩代わりする条件として、アーサーに破落戸を雇わせクリスティーナを襲うよう指示した。
その後、良心の呵責に苛まれたアーサーは、責任をとってクリスティーナと結婚しようとするけれど…クリスティーナの幸せを望まないナターシャによって暗殺されるというのが、原作の筋書きだ。
まあ、今回はそうなる前に意図的にローランドがそれを行った。
そして借金を肩代わりして、国外にアーサーを逃す代わりに、芝居を打ってもらうことにしたのだ。
クリスティーナを襲うための手配(真由が昔憧れると言っていた丸太小屋風森の中のコテージに天蓋付きのお姫様ベッドを用意させた)、その後クリスティーナを慰め保護すること(絶対手は出さない!!)、両親に、実はお腹の中の子は自分の子だと嘘の証言をさせ、ガーランド公爵家でクリスティーナが大切に扱われるようにする(もちろん最終的にクリスティーナは返してもらうので、その証言は嘘でしたと告白をした遺書付き)、そして結婚式当日には馬車事故を偽装して国外に行き二度と戻らないこと(そこそこの準備金を渡す代わりに、国外で要らない火種を撒かないよう断種済)
これらを条件にアーサーをナターシャに利用されないよう遠く離れた異国の地に逃がした。(異国までの流浪の旅には、フィリップの母がいる舞踏団が協力してくれた)
もちろん髪も瞳も平民に多い茶色になるよう、一生解けない魔法が掛けてある。
上記のことはローランドは指示しただけで、全てアーサーが段取りを組んで行った。
(本当…能力はあるのに…)
側近としては優秀だったから、勿体ないけれど…彼のガラスのハートには、平民の方が向いていたのかもしれない…。
優秀な人間だから、平民になっても何かと重宝され、やっていけるだろう…。
フィリップには変に嘘をつくより、真実を話した方が味方に出来ると思ったため、前世のことも含め、すべて真実を話した上で、フィリップを次期公爵に据える代わりに、協力してくれるよう依頼した。
前世なんて…初めは胡散臭い顔をしていた彼も、自分の企みを全て知っていることに驚き、半信半疑ながら協力することを約束した。
(彼も優秀な人材なので、アーサーに代わり良い側近となるだろう…。
彼ならアーサーよりも四角四面でないぶん融通が利くので、ハニートラップなども仕掛けられるだろう…。
ナターシャに関しては、『ああいう、しつこく付き纏いそうな人間は、例え罠でも接するのは嫌だ』と断られたけれど…)
「だからフィリップ様からは微妙な視線を感じていたのね…。
小説の中では、クリスティーナに対して憧れを抱いていると書かれていたのに…あれは憧れのお姫様を見るというよりは、珍しい宇宙人を見るような目だったから…おかしいと思っていたの…」
クリスティーナは納得したように一人頷いていた…。
〜・〜・〜・〜・〜
「これからどうするの…?」
謎は解けたし、たぶんスカイと名付けられるだろうこの子は、確かに私とローランド様の子供だけれど…それを実証する術がない…。
「それなら大丈夫。この件は前から計画していたから、そのための親子関係認証魔法もすでに特許申請済だ。
もうすぐ認可が下りるから…そうすれば親子関係を証明して、内々に結婚してしまおう。
一応、ナターシャの王太子妃教育を2年は待つ条件だから、それが終わるまで対外的に発表するのは難しいけれど…2年経っても終わらなければ、私は正妃を娶って良いことになっている。
どうせ終わるはずがないし…そもそも王太子妃教育を完了するまで彼女は、うちに入国することも出来ない。
もう父上も母上も、スカイの顔を見るなり確信して、孫として盲愛しているから…問題ないよ」
確かに…スカイの部屋は見る見るうちに、国王と王妃からのプレゼントの山でいっぱいになった…。
もうすぐプレゼントだけのために別室が用意されそうな勢いだ…。
「でもガーランド公爵家の皆様は…?」
「アーサーの部屋から出てきたという告白の手紙を見せ、僕が肩代わりした借金の借用書を見せたら納得してくれたよ…」
(公爵夫人はフィリップを後継者にしたくなくて、かなりごねたようだけれど…アーサーの拵えた借金を返済しようと思ったら、それこそお家存続の危機なので、心ならずも了承したようだ…)
「ナターシャ姫のことは本当に大丈夫なの?彼女とは、まだ婚約関係なのでしょ?」
「それなら大丈夫」
ローランド様は、また透が何か企む時のイタズラな瞳をしていた…。
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