第二話 この子誰の子?
目覚めたのは公爵邸の自分の部屋のベッドの上だった。
当然のことながら、ウェディングドレスからゆったりしたマタニティに着替えさせられている。
私付きの侍女のメアリーにベルで起きたことを知らせると、すぐに来てくれた。
「私は、どのくらい眠っていたのかしら?」
「3日ほどです」
「結婚式は…?」
「…公爵様が皆様にご挨拶されて…お開きになりました」
「そう…。後でお義父様にお詫びに行かないと…。アーサー様は…」
「若様は…ご遺体の損傷が激しく…今のクリスティーナ様にお見せするわけにはいかないと、旦那様が火葬するよう指示され、もう埋葬されました…」
「そうなの…」
小説の中でもすぐに埋葬されていたので、そうだろうとは思ったけれど…やはり最後のお別れができなかったのは残念だった…。
事件後、死にたいと思うクリスティーナを励まし、寄り添い、やっと生きようという気にさせてくれたのはアーサー様だった…。
そりゃそうよね…婚約者とも手を繋いだことしかないような初心な生娘が、誰とも分からない男に襲われて妊娠なんてしたら…死にたくもなるわ…。
すでに二人の子供を産み育てた経験のある真由の意識が表に出てきたから、論理的に犯人探ししようという気にもなったのだけれど…。
〜・〜・〜・〜・〜
結婚式を挙げる前に夫を亡くしたけれど、すでに入籍していたので、現在私はガーランド公爵家で暮らしている。
ここもドロドロ要素の1つなのだけれど…私の実家、アルバー公爵家は、私が嫁ぎ先から出戻りすることを良しとしない。
何故なら嫡子の私ではなく、継母の連れ子で父が養子にした兄、スチュワートを跡継ぎにしたいからだ…。
私の母フランソワはお隣の帝国の皇女で、父とは完全な政略結婚だった。
父より5歳下の母は、帝国の学園を卒業してから嫁いで来たのだけれど…父は母が側にいないのを良いことに、結婚するまで自由を謳歌していた。
継母リリはそんな父の学生時代の恋人だった。
リリは男爵令嬢でとても公爵家に嫁げる身分ではなかったうえに、母はまだ幼く帝国にいたため、それは学生時代だけのお遊びだろう…ということで目溢しされていた…。
けれど、母が亡くなったことで、後妻としてやってきたリリの連れ子は、血が繋がらないはずの父にそっくりだった。
つまり、そういうことなのだろう…。
もちろん先妻の娘でも、帝国の皇位継承権を持ち、王太子の婚約者であるクリスティーナがぞんざいに扱われることはなかったけれど…自分1人だけ家族ではないという疎外感は半端なかった…。
そんな理由で、今さら正統な血筋の私に戻ってこられてもアルバー公爵家では迷惑に思われるだけなので、義父母が『もうクリスティーナはうちの嫁だ』と言ってくれるのを良いことに、ガーランド公爵家に居座った。
でも…不思議に思うのは義両親の私に対する態度…。亡くなった息子以外の、誰とも分からぬ男の子供を身籠る私に、義両親は胡散臭いくらいに優しかった…。
実は、亡くなったアーサー様がこのお腹の赤ちゃんの父親で、義両親はそのことを知っているのでは…?と疑うくらいに…。
でも、アーサー様が私を襲う動機が思い浮かばない…。
もし密かにクリスティーナのことを好きだったとしても、犯罪を犯してまで奪うような情熱は感じられなかったし…。
義両親が何故優しくしてくれるのかは分からないけれど…順調にお腹の赤ちゃんは育ち、出産を間近に迎えた。
その間、ローランド様は妊婦や胎教に良いと聞くものを、色々と公爵家に届けてくれて…
その様子は、まるで初めて赤ちゃんが出来た時の前世の夫のようだった…。
彼も百貨店のバイヤーをしていたから、良いものの情報を仕入れるのが得意だったな…。
『雑誌でこれが良いと書いてあったから…』
『スーパーで売ってたんだけれど、ここのメーカーのこのドリンク、妊婦に良いらしいよ』
もう十分足りてるよって言ってるのに…色々用意してくれたっけ…。
ローランド様は、とても心配症で…
『妊婦の食事に変なものを混ぜられてはいけないから…食事は自分が直接届けるもの以外は口にしないように!!』という徹底ぶりだった。
でも、それは杞憂ではなく…確かに誰かに私は命を狙われていたらしい…。
一度王家からと従者らしき人が届けたものを、言い付け通り手を出さず、ローランド様が来られてから確認したら…手配した覚えがないもので、中には致死量の毒が混入されていた…。
クリスティーナは皇室の継承権も持つ身で…何よりローランド様がひどく心配したため、出産は王宮で行われることになったのだけれど…
生まれてきた赤ちゃんの瞳の色は、菫色だった…。
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