第三話『自由って、最高っ!』
お世話様です。
数ある作品の中、ご訪問頂きありがとうございます。
今回は、ミリィが初めて人間と会話するお話しです。
男性が少ない精霊界とは違う、人間との距離感に戸惑うミリィ。
つい女性と同じ感覚で接してしまう、無邪気な彼女を感じてくれたら嬉しいです!
どうぞ宜しくお願いします。
陽光が差し込む〝リーメル街道〟は、春の花々と柔らかな緑に彩られていた。
初めて踏みしめる土の感触に、ミリィは足元を何度も見下ろしては、「ふふっ♪」と嬉しそうに笑う。人間界の風は、精霊界より少し温かくて、まるで歓迎してくれているようだった。
道すがら、小さな野ウサギが草むらから飛び出し、ミリィの目の前をぴょんと横切った。
「きゃっ、びっくりしたっ――でも、かわいい~っ!」
彼女は後を追って草むらを覗き込み、ウサギに手を振る。
そんな彼女の背後から、馬車の音が近づいてきた。
がたん、ごとん――のんびりとした音に、ミリィは首を傾げる。
「あれ? 何か来た……!」
振り返ると、木箱をたくさん積んだ荷馬車が、道の向こうからやってくる。
その荷馬車を引いているのは、赤毛でそばかすのある少年だった。
「おーい、そこのお嬢さん、道の真ん中で何してんだー?」
「えっ……あっ、ごめんなさいっ!」
ミリィは慌てて道の端に、ぴょんと跳ねて避けると、ペコリとお辞儀する。
「よし、セーフ……あ、あの、あなたは……人間界の人?」
「ん? 人間界……? 何を言ってるんだ? そりゃそうだろ。面白いお嬢さんだな」
町娘のようなメイド服を着ているミリィを見て、その言葉に不思議に思いつつも彼は彼女に話しかける。
「俺は、リーメル街道の運び屋エルドって言うんだ! お嬢さんは旅人かい? それとも、祭り目当ての見物人か?」
「えへへ、ど、どっちも、かなぁ?」
ミリィはにっこりと笑うと、星のリボンを胸元で押さえた。
「あ、自己紹介が遅れちゃったけど、私の名前は、ミリシ……あっ」
「ん? どうしたんだ?」
名前を言おうとした途端、言葉を止めて大声を出した。
その事にエルドは思わず、声を掛けてしまう。
(さすがに、本当の名前をバラすのはマズイかな――仮の名前を……えっと、ミ……ミリ……あ、そうだ!)
「ん~ん、何でもない! 私の名前は《ミリィ》って言うの! 人間界、初めてなんだけど……すっごくワクワクしてるんだ!」
「へえ、よくわからないけど、とても元気な子だな。だったら街まで乗ってくか? あと30分くらいかかるし、歩くとちょっと大変だぜ?」
「え、いいの!? やったぁー! じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて、乗せてもらっちゃおっかなっ!」
馬車の荷台に、ぴょこんと飛び乗ったミリィは、エルドの隣にちょこんと座った。
「お、おい! 近い近い! もっと離れてくれよ!」
「え、えぇええーー!? な、ななな、なんで!? はっ……も、もしかして、私……汗臭かったとか? ご、ごごご、ごめんなさい! ちょっと色々あって急いで移動してたから、衣服が汚れちゃったかも……よし、それなら……ちょっと待ってて!」
「……? 突然どうしたんだ?」
彼女が急に何かを呟き始める。
疑問に思っているエルドの言葉を返す間もなく、ミリィは魔法を唱えた。
「ふふんっ☆ ――〝星霊の浄化 《アストラル・ピュリフィケーション》〟発動〜っ! キラキラ〜っとね♪」
「なっ、そ、その光は――!?」
突然ミリィの周りに、光の粒が現れる。
その事に驚いてしまうエルド。
先程まで汚れていた服が、一瞬にして綺麗になってしまった。
「……えへへ~、なんとかなるなるっ! 確かにさっきまでは、ちょっとだけ汚れちゃってたけど……じゃーん! ほら、元通りっ☆」
ミリィは満面な笑みで彼の方を向いて話す。
ドヤ顔で少し得意げのような表情をしていた。
「これで、エルドさんに近づいても大丈夫だよね!?」
ミリィは再び、彼の隣に近づいて、密着する。
今度は、綺麗にしたら大丈夫だと誇らしげに力説するミリィ。
どうやら、衣服の汚れのせいで、彼に遠ざけられたのだと勘違いをしているようだ。
それでも恋愛関係には疎いミリィの感覚とは裏腹に、当然のごとく彼は慌てて反論する。
「って、ち、違う! そうじゃない! お、俺は別に、ミリィが可愛くてとても綺麗で、照れてるとか、そういう……」
「――え? 可愛くて、綺麗――? 私が?」
「あ、いや……何でもないから、と、とにかく! 少し離れてくれ! 馬を操るのに危ないからな」
「え、あ! そっか、ごめんなさい! 私まだ、人間界に慣れてなくて、その……距離感とかがわからなくて――」
「お、おう、そうか。わかったならそれでいい。しかし、な――」
エルドは、ミリィの衣服をちら見する。
まるでお姫様のような気品溢れる美しい女性。
そんな彼女が、メイド服を着て、街道のど真ん中を歩いていたなんて、普通なら考えられない事だ。
「な、なぁ、お嬢さん? あ、いや、この際もうミリィさんって呼んでもいいか? リーメルに到着したら、できればその恰好でうろつかない方が……あ、いや、何でもない。と、とにかく、君は別嬪さんなんだから、危険だから、色々と気を付けてくれよ?」
「え? う、うん? よくわからないけど……わかったっ!!」
「……(ほんとかよ)」
今でも彼の忠告を無視して、またしてもその魅力的な格好でエルドの隣に迫るミリィ。
無意識なのか、それとも天然なのかわからないが、これは今後、苦労する男が出てくる事は間違いないだろう。
* * *
そして道は、だんだんと街のざわめきへと近づいていく――
遠くには、春祭りの飾りつけが風に揺れているのが見えた。
しかし、ミリィはまだ知らない。
その街での出会いが、精霊界と人間界を巻き込む運命の扉を開くことになることを――
『んふふ、なんだか楽しいなぁ♪ 自由って、最高っ!!』
「お、おぉい! あまりはしゃがないでくれよ! ホントに危ないから!」
「あっ、ご、ごめんなさい――……(しゅん)」
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