表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

第十話『リーメルの宿屋にて』

お世話様です。

数ある作品の中、ご訪問頂きありがとうございます。


今回は、六翼りくよくとの戦いで疲労したミリィの休息するシーン。

起きたら起きたで、彼女を巡ってステラとシーナが……?

こんな朝もちょっと良いのでは、と……思わせるそんな話しとなっています。


どうぞ最後まで読んでみてね!

リーメルの宿屋――翌朝。


朝日がやわらかく差し込み、街の静けさに鳥の声が溶け込んでいく。

その音に合わせるように、軽やかな足音が廊下を進む。


宿屋の看板娘――

カナデは、木のトレイに朝食を載せて、部屋の前で小さく息を吐いた。


「おーい、ミリィ? 起きてる? 朝ごはんできてるよ~」


 返事はない。

静かに扉を開けると、部屋の中には昨夜と変わらない光景が広がっていた。


挿絵(By みてみん)

「……すぅ、すぅ……すぅ、んん……すぅ――」


 ベッドの上で気持ち良さそうに眠るミリィ。

六翼りくよくとの戦闘で疲労し、ぐっすり眠っているようだ。


そして、静かに彼女を支える、銀髪のメイド――ステラ。


「……ふふ、まだ寝てるんだ。ステラ、ずっとそばにいたの?」


 カナデが小さく笑うと、ステラは静かに頷く。

先ほどまでずっと、ミリィを膝枕してあげていたようだ。


「はい。姫様に、安らぎのひとときを」

「そっか……昨日、いろいろあったもんね。食欲も落ちてるかもだけど、これ、回復用メニューだから。無理せず、ちょっとでも食べさせてあげて」

「ありがとうございます。お心遣い、感謝します」


 カナデは、にこっと笑って、ベッドサイドのテーブルにトレイを置いた。

香ばしい焼きパン、薬草を使った優しいポタージュ……

そして、林檎を使ったデザートパイ、その他にもミリィが好きそうな肉もある。


「じゃ、あとはお願いね。ミリィ、ゆっくり休みなよ」


 そう言って、カナデが部屋を出ようとしたとき――


「……ん……ステラ、ちゃん……」


 ミリィが、目をゆっくりと開けた。


「……朝、なんだね……うぅ……まだちょっと……体、重いかも……」

「姫様、無理なさらず。横になったままで結構です」


挿絵(By みてみん)

 ステラは椅子に座り、丁寧にお椀とスプーンを持つ。

スプーンをすくい、静かにミリィの口元へと運ぶ。


「どうぞ、あーん……」

「ん、あーん……もぐ……ん……おいしい」

「カナデ様が、姫様の体調を考えて作って下さいました」

「へへ~、でしょ?」


 カナデは、少し得意気に笑う。

そんな温かな時間のなか、突然――


「……なに、してる」


 バタン、と扉が開いた。


現れたのは――シーナだった。

黒髪のロングヘア、無表情気味の顔に、眠そうな紅い瞳。


「……膝枕……に、……“あーん”……?」


 その目がステラを、そしてミリィを見て、僅かに細められる。


「シーナ、ちゃん……! おはよう……来てくれたんだ」

「……朝食、ひとりで食べられる」

「……そ、それは……うん……そうなんだけど、ちょっと体が重くて……」


 ステラは、淡々と対応する。


「姫様の体調を考慮し、必要と判断した処置です」

「……ふーん」


 シーナは無言で近づき、ミリィの隣に座る。


「……代わって。わたしが……やる」

「えっ、シーナちゃん……?」

「……そのくらい、できる。それに……」


 言い淀んだ後、ほんのわずかに耳を赤くして――


「……ステラばっかり、ずるい……」


 その一言に、ミリィもステラも思わず目を丸くした。

カナデは、くすっと笑いながら、こっそり部屋を出て行く。


「……ミリィ、あーん……して」

「えっ、うん……それじゃ、お願い……あーん……」


 不器用ながらも、スプーンを差し出すシーナ。

その表情は照れているようで、真剣で。

ミリィは、そんなふたりに挟まれながら、小さな声で笑った。


「……ふふ。こんな朝も、悪くないかも」


 リーメルの朝――

窓から注ぐ光はやさしく、三人の時間を静かに照らしていた。


* * *


朝食を終えたミリィは、ほっと息をついた。

体の重さも、ほんの少し軽くなった気がする。


「……ごちそうさま! ……あー、でも……」

「姫様?」


 と、ステラが首を傾げる。


「……ちょっとまだ、お腹、空いてるかも……」


 ステラは、一瞬だけ目を瞬かせ、すぐに口元をやわらかくほころばせた。


「……なるほど。カナデ様のお料理は、回復重視で分量も控えめでしたから、体調が少し良くなられたのでしたら、足りなかったかもしれませんね」

「う、うん。すごく美味しかったけど……ほら、私、食べると元気になるタイプだから」

「承知いたしました――では、あとはこの私にお任せを」


 そう言うと、ステラはエプロンをきゅっと結ぶ。


「少し、失礼致しますね」


 彼女がそう言った途端、合図を送るように短詠唱を始めると、突然魔法陣が複数出現し、その中から次々と調理道具が現れていく。


「これで、問題ありません。さぁ、始めますよ……!」


 そして、手際よく調理用の魔法道具を全て取り出した。

これも彼女の能力なのだろう。

宿屋の一室が、あっという間に調理ができる環境が整ってしまった。


それを見たミリィは「えっ、ここで作るの?」と目を丸くする間に、香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がっていく。

焼き立てのハーブパン、ふわふわの卵焼き、そしてジューシーなベーコンのソテー。

どれも湯気を立てながらテーブルに並ぶ。


挿絵(By みてみん)

「さあ、姫様。温かいうちにどうぞ。シーナ様も――」

「わぁ……! じゃ、いただきまーす!」

「……うん」


 ぱく、ぱく、ぱく――

ミリィは夢中で食べ進め、シーナはその横で無言のままパンを一切れつまむ。


「……ステラの料理……おいしい――」


 そのつぶやきは小さいが、耳までほんのり赤い。

ミリィは、笑いながら卵焼きを一口、シーナの皿に乗せた。


「えへへ~でしょー? ほら、もっと食べて食べて!? シーナちゃんも元気をつけないと」

「……ありがと……て、ミリィ……さっきよりも、ずっと元気になってる……」


 そんな二人のやり取りを見て、ステラは静かに微笑む。

その瞳には、ただ〝仕える〟だけではない――温かな家族のような光が宿っていた。


「あ、姫様? 口元に食べ物がついてますよ? いま取ってあげますから、じっとしてて下さいね?」

「あ――!」


 シーナはそれを見た途端、食べるのを止めた。

ステラは慣れた手つきで、持っていたハンカチでミリィの口元を拭く。


「ん、んん! ちょ、すへらひゃん!? とれひゃからもうひいよ? (ちょ、ステラちゃん!? 取れたからもういいよ?)」


 まるで、母親が子供の世話をしている光景のようにも見えた。

食べ物を口に入れたまま拭かれてしまったので、少しだけ苦しかったようだ。


すると――横で見ていたシーナは。


「私も、やる」

「「――え?」」


 ミリィとステラは、シーナの言葉に驚いて、また目を丸くしている。

そんな二人の心境とは裏腹に、シーナはミリィの口元へハンカチを近づける。


「ふごごご、ひ、ひーなひゃん!? とへてる! もぅ、とへてるかりゃ!!(シ、シーナちゃん!? 取れてる! もぅ、取れてるから!!)」

「……ダメ、まだ取れてない」


 シーナは、必死にミリィの口元を拭き続けた。

ちらっとステラを意識してか、対抗心を燃やして――


(……シーナ様、なかなかやりますね)

本作を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

少しでも三人の会話を楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです!

『シーナ可愛い!』『ステラちゃんの料理食べたい』『寝ているミリィ、尊い』などなど、一言コメント、評価や感想など気軽に書いてくれると嬉しいです。


引き続き宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
先生、お疲れ様です! 美味しそうなお食事の描写とほのぼのとする雰囲気が最高でした! あま~い空気に溶けてしまいそうです。 ミリィちゃんを奪い合う可愛い戦いにも頬が緩んでしまいます。 『温かな家族のよう…
料理の描写がすごく美味そうで、見てたらお腹が減ってきました(*´∇`*) ミリィを取り合うような2人の描写が好きです(〃´o`)
ミリィ様はとても魅力的な方でして。 寝顔などもそのように癒し顔で。 こんなミリィ様を皆が愛してしまうのもわかるというもの。 ステラとそしてシーナ。 彼女たちもまた。 いやあ皆可愛いのですが俺はやはりミ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ