第十話『リーメルの宿屋にて』
お世話様です。
数ある作品の中、ご訪問頂きありがとうございます。
今回は、六翼との戦いで疲労したミリィの休息するシーン。
起きたら起きたで、彼女を巡ってステラとシーナが……?
こんな朝もちょっと良いのでは、と……思わせるそんな話しとなっています。
どうぞ最後まで読んでみてね!
リーメルの宿屋――翌朝。
朝日がやわらかく差し込み、街の静けさに鳥の声が溶け込んでいく。
その音に合わせるように、軽やかな足音が廊下を進む。
宿屋の看板娘――
カナデは、木のトレイに朝食を載せて、部屋の前で小さく息を吐いた。
「おーい、ミリィ? 起きてる? 朝ごはんできてるよ~」
返事はない。
静かに扉を開けると、部屋の中には昨夜と変わらない光景が広がっていた。
「……すぅ、すぅ……すぅ、んん……すぅ――」
ベッドの上で気持ち良さそうに眠るミリィ。
六翼との戦闘で疲労し、ぐっすり眠っているようだ。
そして、静かに彼女を支える、銀髪のメイド――ステラ。
「……ふふ、まだ寝てるんだ。ステラ、ずっとそばにいたの?」
カナデが小さく笑うと、ステラは静かに頷く。
先ほどまでずっと、ミリィを膝枕してあげていたようだ。
「はい。姫様に、安らぎのひとときを」
「そっか……昨日、いろいろあったもんね。食欲も落ちてるかもだけど、これ、回復用メニューだから。無理せず、ちょっとでも食べさせてあげて」
「ありがとうございます。お心遣い、感謝します」
カナデは、にこっと笑って、ベッドサイドのテーブルにトレイを置いた。
香ばしい焼きパン、薬草を使った優しいポタージュ……
そして、林檎を使ったデザートパイ、その他にもミリィが好きそうな肉もある。
「じゃ、あとはお願いね。ミリィ、ゆっくり休みなよ」
そう言って、カナデが部屋を出ようとしたとき――
「……ん……ステラ、ちゃん……」
ミリィが、目をゆっくりと開けた。
「……朝、なんだね……うぅ……まだちょっと……体、重いかも……」
「姫様、無理なさらず。横になったままで結構です」
ステラは椅子に座り、丁寧にお椀とスプーンを持つ。
スプーンをすくい、静かにミリィの口元へと運ぶ。
「どうぞ、あーん……」
「ん、あーん……もぐ……ん……おいしい」
「カナデ様が、姫様の体調を考えて作って下さいました」
「へへ~、でしょ?」
カナデは、少し得意気に笑う。
そんな温かな時間のなか、突然――
「……なに、してる」
バタン、と扉が開いた。
現れたのは――シーナだった。
黒髪のロングヘア、無表情気味の顔に、眠そうな紅い瞳。
「……膝枕……に、……“あーん”……?」
その目がステラを、そしてミリィを見て、僅かに細められる。
「シーナ、ちゃん……! おはよう……来てくれたんだ」
「……朝食、ひとりで食べられる」
「……そ、それは……うん……そうなんだけど、ちょっと体が重くて……」
ステラは、淡々と対応する。
「姫様の体調を考慮し、必要と判断した処置です」
「……ふーん」
シーナは無言で近づき、ミリィの隣に座る。
「……代わって。わたしが……やる」
「えっ、シーナちゃん……?」
「……そのくらい、できる。それに……」
言い淀んだ後、ほんのわずかに耳を赤くして――
「……ステラばっかり、ずるい……」
その一言に、ミリィもステラも思わず目を丸くした。
カナデは、くすっと笑いながら、こっそり部屋を出て行く。
「……ミリィ、あーん……して」
「えっ、うん……それじゃ、お願い……あーん……」
不器用ながらも、スプーンを差し出すシーナ。
その表情は照れているようで、真剣で。
ミリィは、そんなふたりに挟まれながら、小さな声で笑った。
「……ふふ。こんな朝も、悪くないかも」
リーメルの朝――
窓から注ぐ光はやさしく、三人の時間を静かに照らしていた。
* * *
朝食を終えたミリィは、ほっと息をついた。
体の重さも、ほんの少し軽くなった気がする。
「……ごちそうさま! ……あー、でも……」
「姫様?」
と、ステラが首を傾げる。
「……ちょっとまだ、お腹、空いてるかも……」
ステラは、一瞬だけ目を瞬かせ、すぐに口元をやわらかくほころばせた。
「……なるほど。カナデ様のお料理は、回復重視で分量も控えめでしたから、体調が少し良くなられたのでしたら、足りなかったかもしれませんね」
「う、うん。すごく美味しかったけど……ほら、私、食べると元気になるタイプだから」
「承知いたしました――では、あとはこの私にお任せを」
そう言うと、ステラはエプロンをきゅっと結ぶ。
「少し、失礼致しますね」
彼女がそう言った途端、合図を送るように短詠唱を始めると、突然魔法陣が複数出現し、その中から次々と調理道具が現れていく。
「これで、問題ありません。さぁ、始めますよ……!」
そして、手際よく調理用の魔法道具を全て取り出した。
これも彼女の能力なのだろう。
宿屋の一室が、あっという間に調理ができる環境が整ってしまった。
それを見たミリィは「えっ、ここで作るの?」と目を丸くする間に、香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がっていく。
焼き立てのハーブパン、ふわふわの卵焼き、そしてジューシーなベーコンのソテー。
どれも湯気を立てながらテーブルに並ぶ。
「さあ、姫様。温かいうちにどうぞ。シーナ様も――」
「わぁ……! じゃ、いただきまーす!」
「……うん」
ぱく、ぱく、ぱく――
ミリィは夢中で食べ進め、シーナはその横で無言のままパンを一切れつまむ。
「……ステラの料理……おいしい――」
そのつぶやきは小さいが、耳までほんのり赤い。
ミリィは、笑いながら卵焼きを一口、シーナの皿に乗せた。
「えへへ~でしょー? ほら、もっと食べて食べて!? シーナちゃんも元気をつけないと」
「……ありがと……て、ミリィ……さっきよりも、ずっと元気になってる……」
そんな二人のやり取りを見て、ステラは静かに微笑む。
その瞳には、ただ〝仕える〟だけではない――温かな家族のような光が宿っていた。
「あ、姫様? 口元に食べ物がついてますよ? いま取ってあげますから、じっとしてて下さいね?」
「あ――!」
シーナはそれを見た途端、食べるのを止めた。
ステラは慣れた手つきで、持っていたハンカチでミリィの口元を拭く。
「ん、んん! ちょ、すへらひゃん!? とれひゃからもうひいよ? (ちょ、ステラちゃん!? 取れたからもういいよ?)」
まるで、母親が子供の世話をしている光景のようにも見えた。
食べ物を口に入れたまま拭かれてしまったので、少しだけ苦しかったようだ。
すると――横で見ていたシーナは。
「私も、やる」
「「――え?」」
ミリィとステラは、シーナの言葉に驚いて、また目を丸くしている。
そんな二人の心境とは裏腹に、シーナはミリィの口元へハンカチを近づける。
「ふごごご、ひ、ひーなひゃん!? とへてる! もぅ、とへてるかりゃ!!(シ、シーナちゃん!? 取れてる! もぅ、取れてるから!!)」
「……ダメ、まだ取れてない」
シーナは、必死にミリィの口元を拭き続けた。
ちらっとステラを意識してか、対抗心を燃やして――
(……シーナ様、なかなかやりますね)
本作を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
少しでも三人の会話を楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです!
『シーナ可愛い!』『ステラちゃんの料理食べたい』『寝ているミリィ、尊い』などなど、一言コメント、評価や感想など気軽に書いてくれると嬉しいです。
引き続き宜しくお願いします!




