第九話『星の召使い ステラの涙』
いつもお世話様です。
数ある作品の中、ご訪問頂きありがとうございます。
今回は、六翼と戦った事を心配して、ずっとミリィに仕えてきたステラとの話です。
温厚な彼女でも今回ばかりは、少しご立腹のようで……
果たして、二人は仲直りする事ができるのだろうか。
どうぞ宜しくお願いします。
――リーメル街、宿屋の夜。
ミリィが、祭りのお店のお手伝いをしていた時に知り合った女の子。
彼女はこの街で、宿屋を営んでいた看板娘だった。
実は、ちょうどその頃、宿泊する場所がまだ決まってなかった為、まさに渡りに船。
六翼の戦いの後、教えてもらった宿屋に泊まる事にした。
宿屋の一室。
ミリィはベッドの上で、深い溜息をついた。
「……ふぅ、少し、気を張りすぎたかな」
全身にはまだ、あの戦いの余波が残っていた。
魔素の奔流も、心の揺れも、完全には癒えていない。
だからミリィは、そっと指を動かす。
「……来て、ステラちゃん」
微かな詠唱と共に、空間に星の紋章が浮かぶ。
光が集い、そこから現れるのは、銀髪に星のリボンをつけたメイド服の少女。
「お呼びでしょうか、姫様。ステラ・メイド、只今参りました」
「うん……よろしく、ステラちゃん。今日は、ちょっと甘えたい気分なの」
「承知いたしました。お疲れなのですね。姫様には、心身ともに安らぎをお届けするのが、私の務めでございます」
ステラは優雅に一礼し、テキパキと部屋の空気を整え、魔法道具を操って室内を清潔に保ち、湯気の立つお茶と温かいタオルまで用意する。
その手際は機械的ではなく、どこか〝温もり〟を感じさせる仕草だった。
ミリィは、ステラの働く姿を優しく見守りながら、静かに微笑んでいる。
しかし、その顔に浮かぶ疲労と痛みを、ステラは見逃さなかった。
「……ミリィ様」
ステラの声が震えている。
銀色の髪を揺らしながら、突然彼女は、そっとミリィの前に膝をつく。
青い瞳に、涙が溢れていた。
「また……ご無理をなさったんですね……!」
震える声は、怒りよりも悲しみに満ちていた。
「六翼と……戦ったって聞きました……! 一人で……無茶をして……そんなのおかしいです……!」
ミリィは何か言いかけたが、ステラは首を振った。
「許しませんからね? ほんとうに……絶対に!」
涙を拭おうともせず、必死に感情を抑えながら、ステラは口を尖らせる。
「ご飯、抜きですよ?」
そう言った瞬間、ミリィの顔がわずかに引きつった。
――おかわりができない、あの苦しみを思い出したのだろう。
「……え、それはちょっと……」
「ダメです!」
ステラはきっぱりと告げた。
だけど、その声はどこまでも優しくて、温かくて。
ミリィは思わず、ふっと笑ってしまった。
「……心配してくれて、ありがとう。ステラちゃん」
ミリィの言葉に、ステラの肩がびくりと震えた。
涙をこらえるように、唇をぎゅっと結んで俯く。
「心配なんて……あたりまえです……」
か細い声が、ミリィの胸に静かに染み込んでいく。
ステラは、少しだけ怒ったような顔で顔を上げた。
「姫様がいなければ、私は……」
そこまで言ったところで、また涙がこぼれる。
ミリィはゆっくりと手を伸ばし、ステラの頬に触れた。
「ごめんね? ステラちゃんにも、悲しい思いをさせてしまって……(セレストちゃんにも)こんな筈じゃなかったのに、私の我がままに付き合わせて、ごめんね……?」
その指先はあたたかく、そっと涙をぬぐった。
ステラの目がさらに潤み、ぽろぽろと涙がこぼれる。
「そんなの、どうだっていいんです! そうではなくてっ――私は……! また、姫様が……もう……いなくなったかと思ったんです……!」
その叫びに、ミリィの胸がぎゅっと締めつけられる。
戦いの中で、自分がどれだけのものを背負わせていたのか、あらためて痛感する。
「そっか……ステラちゃんに、そこまで思い詰めさせてしまってたんだね? 大丈夫、私は……ここにいる。ちゃんと戻ってきたでしょ? だから、泣かないで? ステラちゃん――ね?」
ミリィは、にっこりと笑ってみせる。
けれど、ステラは首を横に振った。
「〝戻ってくればいい〟なんて、そんな簡単なことじゃないんです……! 私はただ、姫様が傷ついて、壊れてしまったら……元に戻れなくなるんですから……!」
その言葉に、ミリィは言葉を失った。
静寂の中、ステラはミリィの胸元に顔を埋める。
しばしの間、二人の空間に沈黙が流れる。
そして――
「……もう無理はしないって、約束して下さい――」
囁くような声だった。
それは命をかけた誓いを求めるような、静かで重たい願いだった。
ミリィは一瞬だけ目を閉じ、そして小さく頷く。
「……わかった、約束するよ。もう……〝ひとり〟では戦わない。ステラちゃんにも、仲間たちにも、ちゃんと頼るよ」
ステラは顔を上げた。
涙で濡れた頬の上に、少しだけ安心の色が浮かぶ。
「じゃあ……ご飯、減らすくらいで、許してあげます」
「えっ、そこは譲らないんだ……」
「当然です……!」
二人は見つめ合い、小さく笑った。
夜空の星が、静かに瞬いていた。
本作を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ステラとミリィの会話は、いかがでしたでしょうか?
少しでも二人の絆を感じて頂けたなら嬉しいです。
ここが良かったや、気になる事があれば、
一言コメントでもいいですので頂けると今後の創作の励みになります。
引き続き、宜しくお願い致します。
ありがとうございました。




